ツルギの剣




 真希と、そして盾。

 二人は近い場所に並び、剣を待っていた。
 立ち上がり、クリオジェニックショットを投げる時を待った。


「……立ち上がるのでしょうか、剣は」

 盾は呟く。
 表情は険しい。

 だが、真希の表情は違った。

 真剣そのもので、剣の復活を信じていた。


「おう。
 アイツは絶対に立ち上がる。

 クリオジェニックショットを投げるんや」


「ですが……あれからもう、三十分は経ちましたわ。

 起き上がりもせず、もうずっと倒れたままではありませんか。

 貴女、剣に言い過ぎたのではありませんの?」


「なんやお前、まるで剣の味方みたいな言い方しよって。

 変な奴やの」


 真希に言われ、恥ずかしそうに顔を逸らす盾。


「まあ……わたくしのライバル足りうるのは未来永劫、剣しか居ませんもの。

 こんな形で勝負が終わるのは望むところにありませんわっ!」


「正直になりゃあええのになあ」

 苦笑する真希。


 一層恥ずかしそうに抗議する盾。

「なっ、何が正直ですか!

 わたくしは本心を言っていますわ!」


「お前も――本当のところ、あいつの野球が好きなんやろ?」


 真希に言われ、どきり。

 盾は否定することの出来ない自分に気付いた。


 いや、本当は知っていたのだ。

 剣の野球もまた、一つの道であると。


 自分の歩んできた道とは違うものであっても。

 剣だけしか持たない魅力があることは理解していた。


 ただ、認めることは出来なかったのだ。

 勝負の相手だから。
 少なくとも、この勝負が終わるまでは。

 剣は敵であり、打倒すべき対象なのだから。


 しかし――真希に言われて、思いを零す気にもなった。


「……わたくしは、剣の野球は人を傷つけ、犠牲を生む野球だと思っています。

 それは変わりませんわ。

 ですが、それであってもなお眩しい。

 剣の信念は硬く鋭い。
 それこそ一本のツルギのように。

 全ての障害を貫き通す、純粋な思い。

 野球をしたい。
 ただ勝ちたい。

 その白刃のような輝きに勝るものは恐らく存在しない」


「そうやな。

 せやからウチは剣が好きや。

 アイツの真っ白な、子供みたいに純粋な気持ちが、すんごいもんを背負って突き進むんや。

 柵も業も切り捨てて、己が打ち負かしたもんの思いも全部背負って。

 そんでもまだ、真っ白なまま野球をやる。
 勝利を目指す。

 ただ強いだけで、そんなこと出来るか?

 そんな気持ちのええもんが他にあるか?


 せやからウチは、アイツの行く先を見てみたいんや。

 例えここで――犠牲になるかもしれんかっても。
 それでええんや。

 純白の勝利が辿り付ける場所には、そんぐらいの価値があると思うてる」


「わたくしは……そこまでのことは思えませんわ。

 犠牲の上に辿り付く場所なんて、本当に存在するかも怪しい。

 だからわたくしは戦うのです」


「せやな。アンタはそれでええと思うわ。

 ウチかて自分が正しいか分からん。
 せやから勝負で決めんねん」


「そうして勝利して突き進んだ先もまた、破滅が待っているかもしれないのですよ?

 貴女が自分の目で、最後の結果を見届けることすら出来ないかも。

 それでも、今の選択を続けるのですか?」


「もちろんや。

 でもそれこそ、やってみんと分からんやろ?

 もしかしたらすんごい結果になるかもしれんやんけ。

 なんも、誰も彼もにやれっちゅうとるわけやない。

 全部の可能性ひっくるめて、それでも覚悟の決まったもんだけ付いてくりゃあええねん。


 見てみいや、ウチらのチームを。

 全員違う。
 誰も同じ理由やない。

 せやけど、覚悟決めて立っとるんや」


 真希に言われ、守備陣に目を向ける盾。

 そこに立つ全員が、真剣な表情でベンチを見守っていた。

 剣が自分の力で立ち上がってくれることを祈っていた。

 剣の戦いが始まることを待ち望んでいた。