ツルギの剣




「――なあ、剣。

 クリオジェニックショットを投げてくれッ!」


 次の打者は盾。

 それ以外の方法で打ち勝つことが不可能なのは明白。

 だからこそ、真希は要求していた。


 しかし剣は、否定も肯定も出来ない。


「……真希は、それでいいの?

 一度も練習さえしてない、死ぬリスクさえある魔球を受けるつもりなの?」


「もちろんや。

 ウチは、お前の為なら死ねる。
 いいや、死ぬわけあらへんわ。

 お前の魔球が宿す無念を晴らすまでは、死んでも死にきれへんわ!

 例え死んでも、お前の球受けるためならキャッチャーボックスから離れへんでッ!」


 真希の覚悟は十分に理解できた。

 だが、二度も失うことは、やはり怖かった。

 弓というパートナーを失い、もしもまた、真希を失うようなことになったら。


 二重の恐怖を自分は乗り越えられるのだろうか。

 また野球をやろうと思えるのだろうか。


「……ごめん、やっぱり、私は怖い」


 剣は自分の感情を制御出来なかった。

 恐怖というよりも、ある種のトラウマ。

 理屈を超えたものが魔球を投げることを拒ませる。


「そうか、お前はそういうつもりなんやな」


 真希は怒気を孕んだ声で言う。

 すると、キャッチャーの装備を脱ぎ捨てる。

 そして上半身に着る服も全て脱ぎ捨て、何かを探し始める。


「救急箱あったやろ、どこや?」

「それならラブ将軍の荷物と一緒に――」


 剣が答えると、真希はすぐに救急箱を取る。

 そして、中に入っているハサミを取り出した。

 包帯等を切るために使うだろう、と入れている大きめのもの。


 真希はこれの刃を開くと――自分の腹に目掛け突き立てようとする。


「なにしてるの、真希ッ!?

 やめてよ!」


 驚き、剣は真希の腕を抑えた。

 だが、真希は剣の腕を振り払おうとする。


「離せや剣!

 お前が投げへんっちゅうんやったら、ウチはもう生きとる意味なんざ何一つあらへんのや!

 そんならここで腹切って死んだる!

 せやから離せェッ!」


「やめてよ!

 お願い、真希……私は真希が居なくなったら……また野球をやるために立ち上がる自身なんか無い。

 だからお願い、そんなこと言わないで!」


「ふざけんのも大概にせえ!

 お前が正直に魔球を投げりゃあ済む話じゃ!

 選べ剣。
 ここでウチを殺すか。

 それともマウンドで殺すか。

 二つに一つや!」


「そんな、お願いだよ真希……」


 剣は泣き崩れる。

 混乱して、何をすればいいか。
 何を言えばいいかも分からなくなる。

 真希はそんな剣へ向けて、更に罵倒を続ける。


「甘ったれんなよ、ボケナスが。

 それともこの勝負にゃあ負けてもええっちゅうことか。

 そんなふざけたこと言ってみい、ウチとお前の二人纏めて喉笛掻っ捌いたるわッ!」


 そして――真希は、剣の顔面を殴り飛ばす。

 衝撃で、一瞬視界が真っ暗になる剣。
 そのまま勢いに押され、床に倒れ込んだ。


「痛いか、憎いか剣よ!
 ウチに怒れッ!

 その怒りをマウンドで晴らせや!

 クリオジェニックショットでウチを喰らい、殺して今殴られた恨みを晴らすんや剣!」


 言って、真希はユニフォームを着直しだす。

 そして、小さく呟く。


「……ウチかて、死にとうないで。

 怖いからやない。
 お前に、また悲しい思いさせとうないんや。

 お前が一番の球を投げられへんなんて……悲しいやないか。

 弓の願いも、ウチの願いもきっとおんなじや。

 お前の一番ええ球で勝つ姿が見たいんや。

 頼むで。
 ウチらの願いを叶えてくれや」


 その言葉を受けても、剣は立ち上がらない。

 真希はキャッチャーの装備も身に付け終わる。

 剣が立ち上がることも待たず、フィールド上へと戻っていく。