ツルギの剣




「んなアホな!?

 なんでお前がここにおるんや!」


 驚愕のあまり、真希は立ち上がって声を上げる。

 だが、ステラはこれを見てニヤリ、と笑う。
 してやったり、という顔。


「そんなの、順番に塁を回ってきたからに決まってるじゃ~ん?

 ミーの『もう一つの能力』を使って、ね」


 ステラは闘気を纏っていた。

 今まで見ていた白の闘気ではなく、純粋な、黒の闘気。

 闇の色をした闘気で、左の瞳の中に『夜』の字が浮かんでいた。


「ステラは、この世に存在する数多の超野球少女の中でも類を見ない、二つの字を授かっているのである。

 一つは星。
 光のように素早く駆け抜ける能力。

 そしてもう一つは夜。
 闇に紛れるかの如く、気配を消す能力。

 出塁さえすれば、ステラはこの能力で確実にホームまで帰ってくることが出来る」


「な~んでアバドンが自慢気に言ってるのさ~!

 そこはミーがかっこ良く説明するとこじゃん!」


「ステラのアホでは語彙が足らぬであろうからな。

 吾輩が代理してやった」


「何を~っ!」

 子供の喧嘩のようなやりとりをして戯れる二人。

 だが、これは余裕の現れでもある。
 それが真希にとっては恐怖だった。


 ホームに帰還したステラが余裕なら、まだ分かる。

 だが、さっき空振りしたばかりで、前の打席では三振に倒れたアバドンは不自然だ。

 余裕で冗談を口に出来る状況ではないはず。


「……剣ッ! 次や次!」


 真希は剣にボールを返し、キャッチャーズボックスに座り直す。


 続く二球目。
 一球目とは異なり、今度はピースディープ。

 タイミングを外した形になる。

 横の変化はせず、外角低め一杯を狙う。


「無駄だ。吾輩の衰滅波動の前では、どのようなコースも無意味であるッ!」


 言って、スイングするアバドン。

 ピースディープをバットが捉えることは無い。


 だが、スイングによる衰滅波動の雲が白球を飲み込み――そのまま、弾き返す。

 強烈なエネルギーを貰い受け、大飛球となった。

 ホームランは確実、といったコース。


「これが吾輩の衰滅波動『裏打ち』の力である。

 衰滅波動で吸収した力を、逆に開放し、自在にボールへ与えることが出来る。

 そのために、一打目は空振りしたのである」


 言って。

 アバドンは、悠々とダイヤモンドを回り始める。


「――まだだッ!

 僕が取って見せるッ!」


 ナイルが両腕を地に付き、飛び上がる。

 衰滅波動で飛び上がる白球をキャッチしようというのだ。


「無意味、無意味よッ!

 言ったであろう、吾輩の衰滅波動は自在にコントロール出来るのであるとッ!」


 言って、アバドンは右腕を白球に向ける。
 そして闘気を開放。

 連動し、白球を包む黒紫の衰滅波動も輝きを強くする。

 途端、白球は軌道を変えた。

 ナイルが狙って飛び上がった軌道から大きく逸れる。

 そのまま何者の邪魔も受けず、スタンドへ落下。
 ホームランだった。


「ふむ。

 お主らの魔球の力のお陰でホームランになったようであるな。

 強い力を吾輩に与えてくれたこと、感謝するぞ」


 アバドンは二塁を回りながら、剣に言う。


 ただ、この余裕の言葉は演技であった。

 衰滅波動が吸収するエネルギーには限度がある。
 そして限度を超えた衰滅波動は霧散する。

 また、裏打ちを使うためには、エネルギーを吸収した波動をそのまま出し続けていなければならない。

 これがまた高い負担になる。


 剣の魔球の力は吸収限界を超えていた。

 故に早めに吸収を切り上げねばならなかったのだ。


 それを悟られてしまうのは危険だ。

 故に、圧倒的な力の差があるような素振りを見せてやる。
 衰滅波動に弱点があることを隠す。


 ダイヤモンドを回り終え、ホームを踏むアバドン。

 無情に立ち去るその背中を、真希は苦い表情で見送った。


「――タイムや!

 タイムをくれ!」


 そして叫ぶ。

 誰も許可の声を上げないうちからマウンドに走り寄り、剣の手を掴む。


「ちょっ、真希?」

「来い、剣!」


 そして剣を引き連れ、ベンチへと走っていった。