ツルギの剣




 三塁側ベンチが騒がしくなる。

 部員達の声だ。


「火群さん、話が違います!

 こんな危ない試合になるなんて聞いてないです!

 私達……もうこんな野球に巻き込まれたくない、怖いんです!」


 捕手に言われ、盾は悲しそうに俯く。

 部員の誰も捕手に異論を唱えない以上、全員が同じ気持ちだということだった。


「本当に、申し訳ありませんわ……ですが、どうか。

 危険にだけは晒しません。
 わたくしと共に戦っていただけませんか?」


「そんな言葉、どうやって信じろと言うんですか!

 今までは、確かに火群さんの魔球でヒット一本も許さない試合ばかりでした。

 それが何ですか。
 今日はヒットを打たれてばかり。

 こんな状況で安全だなんて、信じられません!

 私はもう、守備にも打席にも立ちません!」


「そんな!

 そこをどうか、わたくしと一緒に戦って欲しいのです!

 野球は九人でやるものです。
 一人でも欠けては――それは、もうチームではない!」


「確実に、絶対に安全なまま勝てないなら、私達は火群さんのチームメイトなんかじゃありません!

 とにかく、もうこの試合には参加しませんから!」


 捕手は装備を外しだす。

 それに引き続き、他の選手まで。

 全員が無言で帰りの支度を始める。


 もうこの場所には用がない。

 勝負の結果さえ見届ける必要が無い。

 仲間ですら無いと、はっきりと行動で全員が示していた。


「……分かりました。

 皆さんがそういうなら。
 わたくしも、無理を言うことは出来ませんわ」


 盾は項垂れ、ベンチに腰を下ろした。


 そのまま、しばらく動けなかった。

 気が付くと、野球部員の殆どが帰ってしまっていた。

 ベンチに残ったのは三人。
 盾と、アバドン、そしてステラ。


「お二人は残って下さるのね」


「無論である。

 吾輩らとジュン殿は三位一体。

 ジュン殿のいる場所が吾輩らの居場所である」


「そうだよ~、ジュン」

 アバドンとステラが、それぞれ盾の手を握る。


「ジュン殿。

 吾輩にキャッチャーをやらせてもらえないであろうか。

 そして投げて頂きたい。

 封印した魔球……『煉獄』を」


 アバドンの言葉に、盾は険しい表情で首を横に振る。


「駄目ですわ。

 あの球は、剣のクリオジェニックショットと同じ。

 仲間を犠牲にしながらでも勝ちを得る、邪道の魔球です。

 わたくしの野球道は、あれを投げることを許さない」


「目を覚まして下され、ジュン殿ッ!」


 ぱぁん、と乾いた音が響く。

 アバドンが、盾の頬を掌で叩いたのだ。


「吾輩は三位一体であると言ったはず。

 ジュン殿と吾輩、そしてステラは三人で一つの人間である。

 ジュン殿が傷つくのであれば、吾輩らも傷つく。

 ジュン殿が生命を懸けるのであれば、吾輩らも生命を懸ける。

 犠牲などではない。

 ジュン殿の信念を、絶対防御、絶対勝利の野球を証明するために戦い抜くだけである!」


 アバドンの言葉に驚く盾。

 だが、やはり納得が行かなかった。


「ですが……既に守れなかった。

 恐怖でチームは砕け散ってしまいましたわ。

 わたくしの絶対防御は、本当に人々を守ることなど出来なかった」


「それは違うよ、ジュン!」

 今度はステラが反論する。

「ジュンの野球だったからこそ、今までみんなも付いてきてたんだよ。

 今だって、みんな帰っちゃったけど、それでいいんでしょ!?

 ジュンはたとえ裏切られても仲間だって言ったじゃん!


 逃げることだって、覚悟の無い人にとっては救いになるんだよ。

 ジュンはみんなの救いのまま、今も変わってない。

 だから、ミーが野手七人分守るから、ジュンはみんなの為に勝ってよ!

 ここに居ない仲間の為にだって、勝利しなきゃ。

 それがジュンの信じた絶対勝利のはずだよ!

 ミーは、だからジュンのチームに付いてきたんだ!」


 ステラに言われ、盾も次第に意志を取り戻す。


「……そうですわね。

 たとえ裏切られても。
 信頼されなくとも。

 マウンドに一人きり立つことになろうとも、わたくしが投げ続ける限り、絶対防御、絶対勝利の野球は潰えたりしない。

 そして――アバドン、ステラ。

 貴女たちは、私と魂を分けあった仲間。

 貴女たちにも勝利を約束しなければなりませんわ」


 立ち上がる盾。

 そして、闘志に満ち溢れる表情で言う。


「アバドン、装備を整えなさい!

 投げますわ。

 わたくしの究極奥義――魔球『煉獄』を、勝利するまで何度でも!

 わたくしと共にグラウンドに散る覚悟を決めなさいッ!」


「無論である。
 覚悟は、とうの昔に決めておいた」


 アバドンは言って、捕手の脱ぎ捨てていった防具を手にする。


「そしてステラ。

 これからは休む暇も無くなると思いなさい。

 貴女の能力、守備の間一瞬たりとも解除することを許しませんッ!」


「もちろん!

 やめろって言われてもやめないもんね~!」


 三人の決意が固まる。

 たった三人でも、この戦いに勝利する。

 覚悟が三人の結びつきをより強くした。


「――さあ、試合再開ですわッ!」