ツルギの剣




 放球。
 盾はまたもや炎城を放つ。

 仕組みがバレても、この球しか投げられない。

 そう、盾にはこの魔球以外が存在しないのだ。


 並みの人間にでも捕球できる魔球はこれ一つしか持っていない。

 炎城で抑える以外の選択肢を盾は持てないのだ。


 ラブ将軍は、初回と同じ動きだった。

 スイングすると見せかけてバント。

 打球を殺すために、前の回よりも更にバットを深く引いた。


 それに合わせて、盾も爆発を強くする。

 爆発のエネルギーだけで自分の場所まで届くように。


「――かかったなッ!」


 それは、ラブ将軍の策略だった。

 炎城が爆発した瞬間――つまり、闘気が抜け、無防備な状態の白球。


 これを、ラブ将軍はバットで前方に押し込む。

 バントの姿勢のまま腕を強く突き出し、前へ踏み込む。


 爆発の推進力と合わさり、打球は盾の頭を大きく超える。

 慌ててショートのステラが追いかけるが、その頭の上さえ超えてセンター前へと落ちる。

 ランナー一、二塁で、アウトカウントは二死から動かず。


 打順は再び真希の番。

 打席に立つと、真希は盾に向かって不敵に笑う。


「よう、戻ってきたで。

 お前の垂らすションベン球、スタンドに片付けたる為だけによぉ」


 真希の言葉に、盾は何も言い返さない。


 今度こそ抑えなければ。
 チームメイトの信頼を失ってしまう。

 絶対防御、絶対勝利の野球を信じてフィールドに立つ八人全員を裏切ることになる。


 盾は炎城を放球。

 今まで投げたどの球よりも強く、重い闘気を込めて。

 轟音と共に真希へ迫る白球。


 真希は緑色の闘気をバットに纏わせて迎え撃つ。

 闘気の渦は、これまでに一度も見たことの無い形。


「見とれッ!
 お前らを倒す為だけに編み出した新打法ッ!

 『風神丙番打法』や!」


 真希は堂々と宣言する。

 そして、真希のバットに集まった風の闘気は――豪風となり、嵐となってその場に吹き荒れる。

 風が炎城の表面の闘気を、そして内側に封じ込められた闘気まで吹き飛ばす。


「舞い上がれェッ!」


 真希のスイング。

 最早力を失った白球は、魔球でも何でもない。

 真希の全力のスイングに捉えられて、天高く飛んで行く。
 センター方向へ一直線。


「ふん、甘いぞマキとやら!

 センターには吾輩が居ることを忘れてもらっては困るッ!」


 アバドンが宣言し、黒紫の闘気を右手から放つ。
 衰滅波動だ。

 打球の威力を低減する力が白球を飲み込む。

 抵抗することも出来ず、打球は死ぬ。

 静かに自由落下を始め、アバドンの頭上へふらふらと落ちていく。


「――感謝するで、盾よ。

 お前の炎城っちゅう魔球があったからこそ、ウチはこの打法を思いついた。

 編み出せたんや。

 お前のお陰で、この勝負はうちのモンや」


 真希は言う。
 そして、自由落下する白球に視線を送る。


「さあ、今こそ『舞い上がれ』!

 風神丙番打法の締めの時やッ!」


 その言葉を聞いて、盾はようやく悟る。

 慌ててセンターへ向き直り、アバドンに大声で呼びかける。


「いけません、アバドンッ!
 その打球は――ッ!」


 言いかけたが、もう遅かった。


 アバドンが完全に油断し、捕球する姿勢に入ったところ。

 白球は――内側に封じ込められた闘気を爆発させる。


 暴風が、嵐が吹き荒れる。

 再び力を得た打球は浮き上がり、スタンドインを目指して風と共に舞い上がった。


 これが――風神丙番打法。

 スイング前に吹き荒れた嵐は、盾の闘気を吹き飛ばす為の風ではなかったのだ。

 白球の内側に『真希の闘気を』封じ込めるための風。


 確かに真希は『お前らを』倒す為だけに、と宣言していた。

 倒す相手は盾だけではなかった。

 アバドンの衰滅波動による打球減速にさえ打ち勝つと言っていたのだ。


 アバドンは、慌てて衰滅波動を放つ。

 だが、もう遅い。

 黒紫の波動が届くより先に、白球はギリギリでスタンドイン。


 ホームランだ。
 スリーランホームラン。

 一挙三点。

 これで深水女子は四点。

 聖凰女子を大きくリードした。


 悠々と真希はダイヤモンドを回る。

 勝利の余裕が滲み出る、スラッガーの風格があった。


 ホームを踏むと、待ち構える仲間とハイタッチを交わす。


 五人一体となった深水女子というチーム。

 その力を味わい、悔しさを噛み締める盾。

 だが、退くことは出来ない。


 自分には投げること、そして打つことしか許されない。

 一度始まった戦いに背を向けては、敗北よりも残酷なことになる。
 と、考えていた。


 続く深水女子の攻撃。

 打者は剣。
 バッターボックスに立ち、真っ直ぐに盾を見る。


「――あの、すみません」


 不意に、剣の背後から声が上がる。

 聖凰のキャッチャーだった。


「タイム、もらえますか?」