ツルギの剣




「何が信頼に応える、や!

 そんなもんは存在せえへん。

 人は裏切る。
 力に媚びる。

 お前を悪魔か何かのように忌み嫌う。

 それが本質や。

 愛され正義の味方を気取っとるみたいやけど、そんなもんは幻想や!

 一方的にお前が信頼したところで、本当の仲間になんかなれへんわ!

 お前が他人を守ろうとする限り、誰からも信頼されへんのや!」


「構いません!
 そんなことは覚悟の上で投げていますッ!」


 真希と盾の問答。

 直後、炎城が爆発。

 風神打法の闘気を消し飛ばし、打球は投手へ向かう弾丸ライナー。


 咄嗟の事に、盾はこれを避けられなかった。


 いや――あえて避けなかった。


 避けてしまえば、打球はセンターへ抜けてしまう。

 盾は額で打球を受け、跳ね上げ、落ちてきたところをノーバウンドでキャッチ。


「――例え死んでも、わたくしは信念を貫く。

 わたくしの正義は悪道野球を焼き滅ぼす、焔の道ですもの」


 盾の額からは血が流れていた。

 打球の当たった拍子に額が切れたのだ。


 この血を拭いもせず、垂れ流しながらマウンドに立つ盾。

 まるで傷は些細なことであるかのような振る舞い。


 真希はそれを見て、似ていると思った。
 深水剣に。

 あの日、元野球部員の暴力と戦った時の剣に似ている。


 続いて、剣の打席。

 一回の裏とは立場が入れ替わり、今度は剣が盾の魔球に挑む番だった。


「どうです、剣。
 これで理解したでしょう。

 貴女はわたくしに勝てない。

 悪道野球では、わたくしの野球を打ち破ることは出来ない。

 犠牲を生み続ける諸刃の野球道では、仲間を守り自らを楯とする野球道には敵わないのです」


「……そうかもしれない」

 盾の言葉に、剣は俯く。


「私の野球道は、人生は、もしかしたら、間違いのままひた走る道なのかも。

 ――でも、私はこの野球を辞めないよ。

 辞める時は負けた時だ。

 それこそ命果てるまで戦い抜いて、それでも勝てないのなら……それではっきりする。

 私と盾、どっちの野球道が先へ続く道なのか!」


 顔を上げ、覚悟を決めた表情で語る剣。

 盾もニヤリ、と笑う。


「そうです剣ッ!

 己が正しいと思うなら勝ち取りなさい!
 わたくしの野球を打ち滅ぼしなさいッ!

 そうでなければこの決闘に意味は無い。

 さあ、勝負ですわよ!」


「うん、戦おう!」


 盾の足が上がる。
 リフトアップ。

 赤の闘気で放たれる炎城。

 轟音を立て、剣と正面からぶつかる。


 剣も闘気を立ち上げ、全力のスイングで応戦した。

 闘気の爆発。

 これに剣の闘気は吹き飛び、体勢を崩す。


 白球が浮き上がる。

 ふわり、と弱々しい軌道。

 盾は前進し、これをノーバウンドでキャッチ。
 これで二回表はツーアウト。

 深水女子はヒット一つも無いまま打者が一巡してしまった。

 項垂れる剣。

 だが、すぐに顔を上げ、盾に言う。


「ありがとう、盾。
 私と戦ってくれて。

 勝っても負けても、これで私は全て清算できる気がするんだ。

 本当に、ありがとう」


 言って、打席を去る剣。

 その背中を盾が呼び止める。
 待ちなさい、と。


「……不思議ですわね。

 わたくしは、確かに貴女のことが憎かった。
 恨んでいましたわ。

 お姉様を殺したという事実が変わらぬ以上、どのような理由付けをしても許せないのだと思っていました。

 それこそ、昨日まではずっとそう」


 空を見上げ、盾は微笑む。


「けれど今は――何でしょう、清々しい気分ですわ。

 勝っているからではない。
 貴女と戦えることが嬉しい。

 もしかすると、憎悪を癒やすのは言葉ではない。

 ただ自分を懸けた真剣勝負のみなのかもしれませんわね」


 そして、盾は再び剣へ顔を向ける。

「ありがとう。

 そして、必ずわたくしが勝ちますわ」


「うん、こっちだって。

 負けないよ」


 二人は言葉を交わし合う。

 互いが胸に秘める、業と柵で複雑に織り込まれた感情。

 これが一瞬だけ見えたような気がしていた。