「ウチが怒っとるんは、あのふざけた女のことや。
盾とかいう勘違いド阿呆のことや!」
「盾が……どうして?
盾の言うことは正しいよ。
私は勝ちのことしか考えられない。
欠陥品の、人の成り損ないだよ」
「違う、違うで剣。
そんなこと言わんでくれ。
お前はホンマもんの人間や。
真っ白なんや。
汚れとるわけがあるか!」
怒鳴りながら、真希は剣を抱きしめる。
力強く、締め付けで苦しいぐらいに。
「ウチもキャッチャーやから分かる。
弓がどんだけ悔しかったか。
最高の女が投げる、最高の球を取り損なったんや。
それを最期に、もう二度と球を受けてやることも出来ん。
自分が情けないから、相棒が野球すら出来へんなって。
そんなもん、無念で悔しくて、溜まったもんやないぞ!
憎しみもクソもあるか。
ただひたすらに悔しいだけや。
ダイヤモンドの終点に残されたもんは、呪縛なんかやない。
無念、それと願いや。
剣、お前に本物の球を投げて欲しいっちゅう願いなんや。
お前と魂分かち合った女なら、そう思うはずやで!
せやから許せんのや。
あの盾とか言う女は。
おどれの姉の無念にも気づかんで、何が正義じゃ!
ウチは許さん、絶対にあの女を許さへんぞ、弓の魂を侮辱しとるのは他でもないあの女、火群盾や!」
真希の怒りに任せた言葉が、剣の心に突き刺さる。
涙が零れた。
ずっと自分の胸に残っていたもの。
そして、弓の魂が最期に願っていたもの。
二つのことが、一瞬で理解できたような気がした。
自分の肩に掛かるもの、かつて足に纏わり付き、野球を拒ませていたもの。
それらは暗く悲しい存在ではなかった。
もしかしたら、弓が最期に残した遺産なのかもしれない。
そう思うと、剣は戦いたくなった。
弓が死ぬときに思ったものを、輝く宝石のように磨き上げるため。
そして――確かに、剣も知っている。
弓の願い。
三人で野球をする。
本当の幸せのために戦う。
これを受け継ぎ、実現するために。
剣は戦いを望むのだ。
「――なあ、剣。
クリオジェニックショットを投げてくれ」
真希は剣を腕の中から開放し、言った。
「ウチが弓の願いを叶える。
受け継ぐぞ。
例え死んでも、剣の魔球を零したりせえへん。
お前の一番の魔球でこの勝負を終わらせろ!」
その要求は、ある意味残酷でもあった。
また剣に人を殺すかもしれない選択をしろ、と言っているのだ。
そうでなければ、この勝負に勝つ意味が無いと。
ただ、事実でもある。
確かに弓が残した無念があるとすれば、それを晴らすことの出来る魔球はクリオジェニックショット以外に存在しない。
「……ごめん、真希。
すぐには決められないよ。
弓の為に投げたい。
けど、真希の為に投げたくない。
もう誰かを殺したくなんてないよ」
「そうか……すまん、気が逸った」
真希は謝り、剣の頭を撫でた。
剣は心地よく感じる。
この手を失いたくは無い。
出来るなら、クリオジェニックショットは封印してしまいたい。
迷いを振り切る。
今は目先の勝負。
盾との対決を考えなければならない。
「――それじゃあ、守備に戻ろう、みんな!」
剣が呼び掛けた。
今日一番の明るい、全員ぴったり合わさった声で、おう、と返ってきた。
