ツルギの剣




「――お姉様はすぐに病院へ運び込まれましたが、まもなく亡くなりました。

 剣の放った魔球が肋骨を砕き、破片がいくつも心臓へ突き刺さっていたそうです。

 衝撃で周辺の太い血管も破裂していて、それでも超野球少女の生命力がすぐに死ぬことを許さず、その後一言も話さないまま、苦しみながら天に還りました」


 盾の話に、誰もが聞き入った。

 事実であった。
 剣は確かに弓を殺した。

 事故であっても、きっかけは剣の投げた魔球だった。

 勝利を求める剣の真っ直ぐな思いが、一人の少女の未来を奪ったのだ。


「わたくしは、あの日以来変わりました。

 あの日まで、わたくしは剣と同じく、戦いに生きる者だと自分を自負していましたわ。

 ですが、今は違う。

 戦うのは覚悟のある者だけでいい。
 自分と、自分の為に死ぬ覚悟をした者だけ。

 例え事故でも、自分の力が覚悟なき犠牲者を出さないように、わたくしは例え一人きりでも野球に勝つ。

 死に物狂いで己を鍛え、絶対防御、絶対勝利の孤立孤高野球を完成させたのです。


 剣、覚悟しなさい!」

 言って、盾は剣を指差す。

「貴女の野球、勝利を愛するだけの野球は要らぬ犠牲を生むのです!

 わたくしは貴女とは違う。

 あの頃の、幸せだった日々と同じ思いを、人々は感じなければならない。
 奪われてはならない。

 その為に、わたくしは孤独な勝利のみを愛するのですわ。

 わたくしの孤独孤高で勝利を追求する野球は、貴女の怠惰で強欲な野球を必ず打ち滅ぼしますッ!」


 宣言して、盾はベンチから離れ、バッターボックスへと帰っていく。


 深水女子の五人全員が暗い表情を浮かべていた。

 それぞれが、様々な思いを抱いていた。


「……こんなの、ひどいよ」

 声を漏らしたのは日佳留だった。

「こんなの、誰も悪くない。

 悲しいだけだよ……剣も、盾さんも。

 弓さんだって。

 ただ酷い思いをしただけじゃん」


 だが、剣はこの言葉に首を横へ振る。

「二つ、悪いことがあるよ。

 私だけが、人を殺した人間。
 それと、私は罪も償えずに野球をやろうとする身勝手な人間。

 これだけは絶対悪だよ。

 不幸でも事故でも関係ない。

 言い訳なんかしたって、他人からすれば覆らない事実なんだ」


「でも、剣サンは殺したかったわけじゃないだろう!?」

 ナイルが声を上げる。


「僕のママが生まれた国は、マフィアで溢れる社会だ。

 自分の為に人を殺す人が沢山いた。

 けれど、剣サンはあれとは全然違う。

 弓サンを殺したいなんて思ってなかったはずだ!」


「しかし、剣君は罪を背負うことを望むさ。

 自分の右手が奪い亡くしたものを忘れた時、それこそ剣君は本当の邪悪となる」


 ラブ将軍が、剣の心境を代弁するかのように言う。

 正に言うとおりだった。

 剣は頷き、ラブ将軍の発現に同意する。



「……ふざけんなよ」


 真希の声。

 肩を震わせ、怒りに満ちた形相。

 拳は見て痛いほどに強く握られている。

 何事か、と慌てた剣が問う。


「どうしたの、真希?」


「ウチは怒っとる。

 ホンマにこれほど、生まれてこの方怒り狂ったことは無いぐらいに怒っとるんや」


「誰のこと?
 やっぱり私に怒ってる?

 私の魔球が真希と同じポジション、キャッチャーを殺した汚い魔球だから……」


「ちゃうわアホ!

 冗談でも二度とそんなこと言うなッ!」


 怒声を上げる真希。

 感情のあまり、だぁん、とベンチを殴りつける。