ある日。
弓はついに決心した。
剣に気持ちを伝えよう、と。
己の愛を抑えることは出来なかった。
捕手としての自分ではない。
恋人としての自分も、剣に見て欲しい。
欲望は膨れ上がる一方。
我慢しろ、というのが無理な話であった。
「弓、どうしたの?
呼び出しなんて、めずらしいね」
「うん。実はねぇ。
つるぎちゃんに言いたいことがあって」
剣は首を傾げる。
可愛らしい。
弓はそう感じた。
些細な動作一つでさえ、恋の最中では宝物だ。
「正直に言うね。
ゆみ、つるぎちゃんのことが好きなの」
弓の言葉に、剣は咄嗟に反応できない。
驚いているのだろう。
続けて弓が語る。
「ゆみはね、ずっとつるぎちゃんのことが好きだった。
姉妹だって思ってた。
長い間一緒に居たから。
でも――やっぱり、この気持ちは少し違う。
ゆみはつるぎちゃんの野球が好き。
戦ってる姿が好き。
つるぎちゃんといつまでも一緒に居たい。
愛してるの」
「そっか……弓はそんなふうに思ってたんだね」
剣は言って、照れくさそうに笑う。
「なんだか、不思議な気分だよ。
弓が私を好きだなんて。
本当に不思議で……でも、なんだか嬉しいな」
その答えに、弓の表情はぱっと明るくなる。
「じゃあ、つるぎちゃんも私とおんなじ気持ちなの?」
「分からない。
弓の言う好きと、私の気持ちは違うのかもしれない。
同じなのかもしれない。
でも絶対に、何も嫌じゃないから――うん、嬉しいよ。
だから、弓の気持ちを大切にしたい」
「えっと……それは、オッケーって受け取っていい?」
「もちろん。
弓と私は、今日から恋人ってこと」
「つるぎちゃんっ!」
感極まった弓は、そのまま剣の胸に飛び込む。
もしも拒絶されてしまったら、という恐怖があった。
そうすれば剣だけではない。
三人という形はありえなくなる。
盾との関係も今までのようにはいかない。
弓の身体を受け止め、抱擁する剣。
頭を撫でて慰める。
そうして、剣と弓は恋人となった。
中学一年、入学して間もない春の出来事だった。
これを盾は複雑な気持ちになりながらも、祝福した。
弓と剣の幸せを願って。
事件の前兆は、夏と共に訪れた。
県予選大会を前に控えた練習の日々。
相変わらず、息のぴったりな剣と弓。
剣のように強く、誰かに愛される力に憧れた盾も、魔球を開発し始めた。
これに感化し、剣も新たな魔球を模索し始める。
盾が当時開発した魔球に連想し、生み出された新魔球。
ディープショットや他三種の派生系の更に上を行く球――クリオジェニックショット。
その完成を目指し、猛特訓が始まった。
その中で、剣と弓の不調が浮かび上がる。
未完成のクリオジェニックショットとは言え、弓は捕球し損なうことが度々あった。
やがてクリオジェニックショットも完成した。
だが、その頃にはクリオジェニックショットの撮り損ないだけでなく、ディープショットさえ零すことが増えた。
明らかに、弓と剣の野球人としての相性は悪化していた。
そうして――中学生になって、最初の公式大会。
初戦一球目。
剣の、クリオジェニックショットが初めて披露される晴れ舞台。
誰もが注目していた。
当時の野球部員一同、顧問。
中学生野球を楽しみにする人々。
多くの観衆の眼の中で――剣は、クリオジェニックショットを投げ損なった。
クリオジェニックショットはディープショットを原型とし、かつ盾の剛球の威力も参考にし、重くした魔球だった。
例えバットで捉えても、打ち返すことすら難しい威力だ。
まともに直撃すれば大怪我に至る。
加えて、弓は超野球少女としてはさほど優秀な方ではなかった。
あくまでも、剣と相性がよく、ずっと捕手を続けてきたからこそディープショットとその亜種を自在に捕球できていた。
お世辞を言ったとしても、弓の超野球少女としての才能は並みのものだった。
故に、弓は軌道のズレに気付かなかった。
闘気の異変に。
また、直近では剣との息も合っていない。
悪い条件が重なりすぎた。
弓が捕球しようと伸ばした手をすり抜ける白球。
ごっ、と鈍い音を立てて、弓の胸部に直撃した。
