ツルギの剣




 地獄の特訓の思い出を胸に仕舞い、真希はボールを返球する。


 いよいよ剣の三球目。

 剣には自信があった。

 抑えられる。
 あの特訓を経て、今やかつての自分さえ超えるほどの力を手にしている。

 地獄のような日々を乗り越えたからこそ、白球に宿る魂の重みの桁が違うのだ。


 さあ、投げよう。
 剣は静かに思う。

 地獄で得たものは地獄で使う。

 この野球場で、戦いの中で使い切るんだ、と。


 放球。
 青の闘気を纏い、白球は真希のミットを求めて飛翔する。

 球速は半端に遅い。
 ピースディープだ。

 アバドンはタイミングを合わせ、バットを振る。

 ジャストとまでは行かないが、僅かに遅れた程度。
 照準さえ合えばヒットは確実。


 だが――皮肉にも、魔球の変化はアバドンの想像を遥かに超えていた。

 青が弾けて一度浮き上がった後、山なりの軌道はシュート方向にそれ、アバドンの胸元へと食いこむような変化となる。

 無論、既にアバドンの手は出てしまっている。

 虚しく空を切るバット。

 白球はまるで嘲笑うかのように、アバドンの目の前を通過。
 ストライク、三振のバッターアウト。


「な、何だこの変化は……ッ!?」


「ふん、お前らの大将、盾とやらに教えたれや。

 剣は地獄の特訓で、魔球を更に進化させたんや。

 ピースディープはシュート方向にも動くポップアップ魔球に進化した。
 中学ん頃とはちゃうっちゅうことや。

 昔の知り合いか何か知らんが、今の剣はウチの刃、新しい人斬り刀や。

 お前ら一人残らず切り捨てたるわ!」


「もう、真希ったら喋りすぎ!
 魔球のことだって教えなくていいよ!」


 得意気、饒舌な真希を嗜める剣。

 それもそうやな、と真希は答え、白球を剣に投げ返した。


 三人目。

 バッターは盾。


 闘志に燃えており、打席に向かう時には既に赤い光が漏れだしていた。


「ごめんなさい、アバドン。

 まさかあそこまでとは思っていませんでしたわ」

 ベンチに戻るアバドンとすれ違いざまに謝る盾。

 アバドンは首を横に振る。


「いいや、ジュン殿は謝らなくていい。
 それに、次の打席がある。

 これほどの強敵であれば、吾輩も全ての力を出し切ってぶつかることが出来る、というものである」

 二人は言葉を交わし、離れた。


 左の打席に立つ盾。

 剣を睨み、宣言する。


「剣。
 わたくしは必ず勝ちますわ。

 そして貴女の邪道野球を討ち滅ぼしてみせます」


 剣も負けじと言い返す。

「私だって負けない!

 私は野球に生きるって誓ったんだ。
 例え殺されても野球を続けなきゃいけないんだ。

 だから、この勝負は絶対に勝つ!」


 両者、一歩も引かず。

 赤と青の闘気が衝突し、境界で弾けて小さな電撃が走る。