ツルギの剣




 三球目。
 剣はまた魔球を投げる。

 青の闘気に包まれて飛翔するボール。

 ステラは迷う。
 ディープショットか、それともピュアディープか。

 どちらかに狙いを絞らなければ、まともなヒットは難しい。


 結局、ピュアディープの連投だった。

 判断の鈍ったステラのスイングはピュアディープを捉えられず空振り。

 三振でのワンアウト。


 続く打者はアバドン。

 打席に立ち、最初からピュアディープのみを狙う、と心に決める。


(恐らくあの新魔球、一度は投げるであろう。
 そこを必ず叩くッ!)


 バットを構え、闘気が立ち上がる。

 アバドンの闘気の色は黒紫。
 剣の青い闘気とぶつかり、不気味に揺れる。


 一球目。
 青の波動を乗せた魔球が解き放たれる。

 アバドンはタイミングを図る――が、どうも遅い。

 ディープショット、そしてピュアディープも同程度の速度を持った魔球だった。

 しかし、今回の球は妙に遅い。


 何事だ、と深く考える時間も無く。

 アバドンはずらされたタイミングに合わせてスイングを始める。


 魔球はアバドンの手元で跳ね上がり――さらに減速。

 山なりに上昇しながらの減速がさらにタイミングをずらしてくる。


 変化量も大きく、ディープショットを上回っていた。

 スイングの軌道の上を悠々と飛び越える。空振りストライク。
 剣の一球目はさらなる新魔球だった。


「な、何だと……っ!?

 新魔球は、ピュアディープショットだけではなかったのか!」


「そらそうや。
 ウチの剣をナメてもらったら困るで!

 ディープショットにピュアディープ。

 そんで今のがピースディープショットや!」

 真希は驚きに震えるアバドンを更に煽り、剣へ返球。


 二球目、アバドンは第三の魔球、ピースディープもねらって行くことにした。

 ディープショットとピュアディープは放球段階での判断が難しいが、ピースディープは明らかに球速が遅い。

 球種の判別は容易だろう。

 無論、合わせて打つことの難易度は高いのだが。
 ピュアディープ一つに絞って戦うよりは安全な判断のはずだった。


 だが――二球目もおかしい。

 ピュアディープよりも、ピースディープよりも遅く迫り来る。

 合わせられないタイミングではない。


 アバドンは意を決してのスイング。

 剣の放った青の闘気が唸り、白球を跳ね上げる。

 今度の変化は、今までで一段と大きい。


 低めギリギリ一杯の高さから、高め一杯か、それを超える高さまで伸びていく。

 これほどの変化は想定外だった。


 スイングは空振り。

 カウントを一つ増やし、ツーストライク。


「まだ新魔球があるというのか……信じられない。

 たった一週間で三つも魔球を習得してくるとは」


 アバドンは驚きの声を上げる。

 だが、真希はそれを鼻で笑った。


「これが第四の魔球、リッチディープやッ!

 恐ろしいか、アバドンよ。

 ウチと剣は地獄の特訓を乗り越えてきたんや。
 これぐらいまだまだわけあらへんで。

 四魔球でお前らを翻弄したるわァッ!」


 言って、真希は思い返す。

 この一週間、本土の山に篭り行なった特訓のこと。





 泳いで本土に渡り、山に入った二人。

 身支度をすると、すぐに訓練を始める。


 剣は過去に投げていた魔球の訓練。

 まずはこれが確実に投げられるようにならなければ、真希のキャッチングの練習も始まらない。


「ねえ、真希。

 やっぱり普通に投げてるだけじゃあ、一週間で感覚を取り戻すのは難しいと思う」

 剣は言って、足元に落ちていた棒きれを拾い、真希へ渡す。


「何や、これは」

「真希はこれを私に向かって投げて。

 私は、これを魔球で撃ち落とす。

 失敗すれば怪我をする、っていうリスクがあれば、きっと普通にやるより早く思い出せるはずだよ」


「はぁっ!?

 そないなことしたら、剣がまた怪我してしまうやないか!

 ウチは嫌やで、わざわざ己の女房に怪我させるやつがおるかいな!」


 真希も一度は拒否した。

 だが、剣は食い下がる。

「ううん、投げて。
 真希だから頼んでるの。

 極限まで自分を追い詰めて、それでようやく出来るものってあると思う。

 そこまで行かなきゃ、きっと盾には勝てない。

 苦しんで、苦しみ抜いて、どこまでも痛みを追求して。

 その先にこそ、本当の魔球があるんだ。

 超野球少女は、そうでなきゃ辿り付けない境地がある」


 魔球に懸ける思いが表れる言葉。

 真希はもう、反論の余地も無いと思った。


 理解できる。
 戦いとは常に死に向かうもの。

 自分自身も超野球少女であるからこそ分かる。

 己の身体に流れる血潮は、常識の範疇で成長することを許さない。

 それでは勝てないと、宿命が胸の内で囁く。


「……分かった。

 ウチも超野球少女や。
 剣の言うことはよう分かる。

 手伝うわ。

 せやけど、無理やって思うたら辞めるからな」


 そうして特訓は始まった。

 真希は木の棒を、石を剣に向けて投げる。
 剣は白球でこれを迎え撃つ。


 最初こそ、全く剣の魔球は操りきれなかった。

 曲がりはするものの、基本のディープショットと異なる、とまでは行かず。

 剣自身が想定した軌道を取れずに、標的を撃ち落とすことが出来なかった。

 何度も剣は痛みを味わい、傷を負った。


 昼間は危険に身を晒しながらの特訓。

 夜は野ざらしで眠り、食事もそこらの草木を齧り、無理に飢えを凌ぐ日々。

 傷だらけになりながら、剣は自身の身体を痛めつけ、追い込んだ。


 三日もすると、ようやく魔球を自在に操れるほどになった。

 極限状態を維持した効果もあり、超野球少女としての力も強くなっていた。


 特訓でついた傷もすぐにふさがっており、飢えと乾きにも強くなった。

 地獄の中にありながら、既に元野球部との戦いによる負傷もほぼ完治していた。


 もはや人間と呼べる状態ではなく、ある種の化け物。

 超野球少女という名の、人ではない何か。