真希が装備を身に付け、守備の準備を始める。
その傍らで待つ剣。
二人の様子を見て、ラブ将軍が尋ねる。
「しかし、剣君は本当に大丈夫なのか?
先週の怪我も完治はしていないだろう。
君より怪我の軽かった私でさえ、まだ完調ではない。
それに一週間、どこに行っていたのだ。
特訓をしていたと言ったな。
怪我で不満足な身体で、どんな特訓が出来たというのだ。
それも、どこで特訓したのだ。
ここ一週間、行方不明だったのはどういうことなんだ」
一気に尋ねる。
剣はこれに一つづつ答えていく。
「特訓は、本土の方でしました。
深水島だと誰かに見つかって、病院に連れ戻されるかもしれないから。
本土に渡って、そっちで山篭りしてたんです」
「山篭りって、あの怪我で!?」
日佳留が驚いて声を上げる。
剣はこれに頷き、話を続ける。
「そうでもしなきゃ、特訓の時間は取れなかったと思います。
それに怪我は超野球少女の力が癒してくれる。
来るべき戦いを意識した生活を続けていれば、怪我の治りも早くなるって思ったんです。
実際に、もう魔球だって楽に投げられるぐらいには回復しています」
「なるほど。
確かに超野球少女の力は解明されていない部分も多い。
野球に関わる時しか発現しない力故に、そのようなこともあるだろう」
ラブ将軍は剣に問いかける。
「だが、どうやって本土に渡ったのだ。
深水島から出て行った可能性も考慮し、連絡船の渡航記録も調べた。
だが、資料上には何も残っていなかったらしいじゃないか。
どうやって連絡船に乗った?
記録も無し、となると無賃乗船ということになるが」
「いいえ、大丈夫ですよラブ将軍。
私達、泳いで本土に渡ったので」
剣の回答に、唖然とする日佳留、ナイル、ラブ将軍の三人。
「本当に泳いだのかい?
連絡船で半時間の距離を、あの怪我で?」
「はい、もちろん」
ナイルが信じられずに言った言葉にも、剣は頷いてみせる。
確かに泳いで渡ったのなら記録には残らない。
また、球場に着いた時に水で濡れていたのも説明がつく。
だが、そこまでして剣は何をしに行ったのか。
特訓の内容が気になるところ。
「まあ、心配せんでええわ。
ウチらが二人でバシっと抑えてくるんやからな」
真希が会話を締める。
装備も付け終わっていた。
深水女子の五人は、それぞれの守備位置へと向かう。
一回裏、聖凰の攻撃。
一番打者はステラ。
打席に立っても、超野球少女としての力を開放することは無い。
闘気もなく、静かに打席に立っている。
「なんや、本気出さんでええんかい?」
「ミーは雑魚相手に本気出すのめんどくさいから嫌なんだよねー」
「そうするとお前は雑魚以下の塵芥ってところか。
謙遜の上手いやっちゃなあ、君」
「それなら、君のチームはミーたちを見習ったがいいよ~。
さっきジュンの炎城に手も足も出なかったんだから」
言って、ステラはバットを構えた。
剣の第一球。
青い闘気が立ち上がる。
内に抱え込むような独特なフォームからアンダースローで放たれる魔球。
青い闘気の乗ったディープショット。
これを待っていた、とでも言わんばかりにスイングするステラ。
バットはギリギリでボールを捉えるが、ディープショットの球威を殺しきれず。
後方ファールゾーンへ逸れてヒットとはならず。
「天下の聖凰の野球部様でも、二軍やったら大したこと無いんやな。
がっかりやで」
真希はステラを煽り、拾った白球を剣に投げ返す。
「まあ、力も使ってないからね。
ただ、今ので確信したよ。ミーならあの球ぐらい、簡単にヒットに出来る」
「そうか、そら頑張ってくれや」
真希はサインを出し、剣に魔球を要求。
二球目、剣の青い闘気が白球に乗り移り、飛翔。
ステラはこれを迎え撃つべくして闘気を開放する。
純白の眩い光。
特別な打法で打つわけではない。
ただ力で弾き返すつもりだった。
だが――ステラは気づく。
ボールの異変に。
何かが違う。
雰囲気程度だが、確かに違和がある。
ありながらも、ステラは既にスイングをしてしまった。
魔球は普段通り、打者の近くで突然上昇。
しかし、その後の軌道が異常だった。
普通のディープショットとは異なり、上方向への変化は半分程度しか無い。
その代わり、上昇と同時にボールから闘気が弾け、加速したのだ。
手元でノビという次元ではない加速をする魔球。
変化量の読み違いもあり、ステラは見当違いの高さ、タイミングで空振り。
ツーストライク。
三塁ベンチ側から声が上がる。
アバドンだ。
「何だ、今の変化は!?
明らかに手元で加速したようにみえたぞッ!」
「あれは……ピュアディープショットですわね」
アバドンの驚きへ答えるように、盾は呟く。
「ジュン殿。
ピュアディープショットとは一体何なのであろうか」
「かつて、中学の頃に剣が投げていた魔球の一つですわ。
彼女の得意球の一つです。
手元で急加速し、かつディープショットから比べると変化量も半減します。
この二種類の魔球を投げ分けるだけで、大抵の超野球少女は歯も立たないぐらいでしたわ。
まさかブランクがありながらもアレを投げられるとは……」
憎らしい気持ちを隠しもせずに盾は言った。
バッターボックスでは依然、ステラが驚いたまま。
「魔球が二種類あるなんて訊いてないよ~、そんなの!
ずるいずるい!」
「うっさいわアホ!
ウチらのピュアディープに手ぇ出せへんかったんは、お前の力が足りんからや!」
真希に言われ、渋々口を噤むステラ。
バットを構える。
