ツルギの剣




「ごめん、みんな……」


 日佳留は思わず謝った。

 悔しい。
 正面から叩き潰された。

 完全敗北であった。

 自分の超野球少女としての力がまだ未熟であると。

 盾との格の違いを思い知る打席だった。


「構わん、一球目からあれなら誰も打てんだろう」

 ラブ将軍が日佳留を慰める。

 とはいえ、厳しい状況に変わりは無い。


「……昔の盾は、こんな魔球は持ってなかった。

 ただ、全力の真っ直ぐを投げるだけのピッチャーだったんです。

 今の盾の魔球は、私も知らない新しい魔球です」


 剣は言いつつ、盾の魔球に驚きを隠せないでいた。

「対策も出ない、か」

 ナイルが剣の言葉を受け、ため息をつく。


「仕方ない。

 ここはひとまず、全力勝負といこうか」


 言って、ナイルはバットを持って打席に向かう。

 既に戦う意思が満ち溢れており、銀色の闘志が煙のように立ち上がる。


 打席に立つと、さらに闘志は燃え上がる。

 競り合う赤と銀の炎。
 ナイルは語る。


「僕も超野球少女として目覚めたばかりの、日の浅い若輩者だ。

 正直、盾サンの魔球に打ち勝つ自信は無い。

 けれど――これでも、この一週間遊んでいたわけではないんだ。その成果を見せてやろうッ!」


 バットを構える。

 ナイルの要求に答えるかのように、盾は放球。

 赤い弾丸が轟音を立て、ナイルへと迫っていく。


 すると、ナイルの闘志が急激に圧縮される。

 バット自体が銀色に輝きだす。

 インパクトの瞬間、光が白球を包み込み、まるで銃弾のような螺旋回転を与え、射出しようとする。


「弾けろォッ!」


 絶叫。

 ナイルは赤の輝きを押し返そうと力を込める。

 だが、その場からバットは動かない。


「無駄ですわ、見なさいッ!」


 刹那。

 盾の言葉と同時に闘気が弾ける。


 赤い爆発に巻き込まれナイルの闘気は霧散。

 打球はピッチャーライナーとなる。

 ばしっ、と力強く受け止める盾。
 これでツーアウト。


 あまりにも強力な力だった。

 投手の一球と、打者の一打では消費できる体力が違う。

 打者であるナイルの全力を、上から押さえつけるほどの魔球。

 火群盾という少女の底知れぬ力を物語っていた。


 一塁側ベンチがざわめく。

「まさかここまでの力があるとは……」

 驚きの声を上げながらも、ラブ将軍はバットを持ち、打席に向かう。

 いかにしてあの魔球、炎城を仕留めるか。
 それを考える。


 初回、三球目の投球。

 盾が放つのは三度の炎城。轟音を立てつつラブ将軍へと迫る。

 ラブ将軍はスイングをするような素振りを見せた後、スムーズにバントの姿勢に移行。


 打球を殺す作戦だった。

 打球の威力を殺す球だと言うのなら、極めて弱く打てばピッチャーまで打球は届かないだろう、という考え。

 ある種の実験だ。


 一度球を地面に落とすことさえ出来れば、日佳留なら出塁も出来る。

 日佳留が出塁さえすれば、縮地があるのでヒットが無くとも点の取りようがある。


 バットと白球が接触。

 打球の勢いは殺され、一瞬だけ自由落下が始まったかのように見えた。


 だが、やはり魔球。

 盾の宣言は嘘ではなかった。


 落球するよりも早く闘気の爆発。

 そのままふわりと浮き上がり、球はまた盾の手の中へと戻っていく。
 スリーアウト。


「小細工など無意味です。

 正面からわたくしを倒してみせなさい。

 でなければ、貴女達に勝ち目はありませんわ」


 最後、不敵に言い残し、盾はマウンドから離れていく。

 攻守交代だ。