ラブ将軍が打席に立つ。
立っていることさえ苦しい怪我。
足取りは覚束ない。
片手で持ったバットが杖代わりになって、なんとか身体を支えている。
「そんな身体で何が出来る。
地力で打席に立つことすら出来ないような腑抜けめ」
元部長の挑発。
だが、ラブ将軍は不敵に笑う。
「ああ、大したことは出来ない。
貴様らには取ることも叶わないような、大飛球を浴びせてやるのが精々だろうな」
無謀な宣言。
ホームランを打つというのか。
この状況で。
デッドボールや敬遠球しか飛んでこないだろう。
それでも、打つのだろうか。
あまりにも現実離れした言葉。
だが、元部長は恐れた。
立て続けに不可能が可能になってきた。
剣のエンタイトルツーベース。
日佳留の内野安打。
そして今度は、ラブ将軍が。
正に不可能そのものへと挑んでいる。
「来い、愚か者共。
貴様らの憎悪は生温い。
漠然と起こした癇癪同然の感情など、まるで及ばんぞ。
真希君、日佳留君、私、そして剣君のような人間には。
血肉を燃やし輝く者の前で、圧倒的な力の前で、猿知恵など役に立たんということを教えてやる」
ラブ将軍は、元部長、元野球部員達を煽る。
どこからこの高慢な態度がでてくるのだろうか。
誰もが疑問に思った。
不気味にさえ感じるのだ。
誰の目にも、戦えるような状況ではない。
それでなぜここまでのことを言えるのか。
力の差は、むしろ逆転しているのではないか。
ホームランなど夢の話、スイングすることさえままならないのではないか。
様々な疑念が渦巻く。
元部長もまた同じであった。
唯一つ、安全策は敬遠以外に無いと考えた。
ラブ将軍が何をしようが、バットが届かなければホームランなど打つことは不可能。
一方で、デッドボールのコースでは既に剣のエンツーという前例がある。
敢えて死球を狙わずとも、再び塁上で傷めつけてやればいい。
「――敬遠しろ!」
元部長は叫ぶ。
投手、そして捕手もまた、それしか無いと考えていた。
頷く。
捕手が立ち上がり、十分な距離を取って手を上げる。
情けないミットへ向けて、投手はゆっくりと、山なりの敬遠球を投げる。
――その瞬間だった。
ラブ将軍は地面に突いたバットを持ち上げ水平に保つ。
そして、まるでハンマー投げでもするかのように回転を始める。
「待っていたぞ!
この緩く遅い敬遠球をッ!」
ラブ将軍は十分な回転により強い遠心力をバットへ与える。
そしてボールが近づいてくるとバットを手から離し、投げ飛ばした。
瞬間的に手首のスナップを加えることにより、バットまでもがプロペラのように回転。
そして、白球を捉える。
バットの芯が直撃。
ラブ将軍の回転と手首のスナップにより、バットに与えられたエネルギーが、白球へと伝導していく。
これがラブ将軍の狙いだった。
遅く緩い敬遠球相手であれば十分な回転時間が取れる。
エネルギーも十分に蓄えられる。
また、白球に狙いを定めやすい。
ふらつく足でも、回転運動であれば遠心力で体重が支えられ、立つことに労力を費やす必要もない。
見事に捉えられた白球はぐんぐんと伸びていく。
外野が慌てて追いかけるが――無念。
白球はギリギリで仮設フェンスを超えて着弾。
完全なホームランとなる。
「――ふん。この程度の飛距離では誇る気にもなれんな」
ラブ将軍は皮肉を言って、それが強がりだと誰の目にも分かるぐらいの危なげな足取りでベースラン。
二塁上に倒れる剣は日佳留が抱え、全員がホームへと帰還する。
一挙四点。
現在五対〇で、点差を五点とした。
今回は五回までの十点差でコールドゲームとなるので、残り五点で試合終了となる。
故に、この満塁本塁打は勝利へ大きく近づく一打となった。
