「――お前らがどんだけウチらを憎いのか知らんが、甘ったれるなよ。
おどれら無力やからウチらに負けたんや。
戦いに敗れたもんは全てを奪われる。
居場所も、人生も、未来も。何もかも失うんや。
それが勝負ってもんやろ。
それぐらい分かっとるやろ。
真剣勝負は、一球一打に精魂込める戦争なんじゃ!
雁首並べて突っ立っとる以上、奪われるだけ奪われるのは分かっとるやろうが!
それで壊されたやのなんやの言うて、今さら被害者面するなよ。
お前らも、ウチもおんなじや。
奪い潰し合う加害者同士やないか!」
バッターボックスの中から、グラウンドへ向けて挑発する真希。
これに、元部長が声を貼り上げて答える。
「黙れ!
恵まれて生まれてきた人間に何が分かるか!
必死に努力して、どうにか形にしたものが全部壊される。
あんたらみたいな才能に恵まれた人間が、まるでゴミクズみたいに努力を皆殺しにする。
生まれてからずっと奪う側でいた人間が、奪われる側の人間の気持ちなんか分かるわけない!」
「どこまでも阿呆か貴様ら。
ほざくなよ!
才能に恵まれとろうが、奪われる時は奪われる。
全ての頂点におる人間以外は全員同じ地獄の釜で茹だっとるんや。
知ったような口を聞くな!
お前らが当然のように持っとるものを捨てて、捨て尽くして、それでどうにか超野球少女やってんねん。
ただ生まれてぼーっとしとっても才能ありゃあ勝てる、なんて大間違いやで!」
「ふん、それでいい。
そうだよ。
お前たちも奪われるんだよ。
野球でどんだけ勝ち続けようが、最後には何もかも失う。
私達と同じようにな。――やれェッ!」
元部長の絶叫。
マウンド上のピッチャーが頷き、セットポジションを取る。
真希は、恐らくデッドボールが来るだろうと身構えた。
来ると分かっていれば避けようもある。
だが、予想は外れる。
不意にピッチャーはプレートから足を外し、一塁側へ送球。
牽制だ。
負傷したラブ将軍はリードもしていないのに、何故。
という疑問も一瞬。
誰もがすぐさま意図を理解した。
憎悪と悪意に満ちた元野球部の考えそうなこと。
――牽制球を捕球するフリをして、ラブ将軍に暴行を加えようというのだ。
「逃げろ、ラブ将軍ッ!」
真希の叫び。
無論、ラブ将軍も身構える。
だが、何の意味があろうか。
塁から離れることは出来ず、かと言って反撃することもままならない。
殴られる覚悟以上の何が出来ようか。
牽制球は高めに飛ぶ。
一塁手はこれをジャンプして取り、わざとらしくラブ将軍の足を狙って着地。
脛をごりごりと削るようにスパイクが滑る。
「ぐぅッ!」
ラブ将軍は、痛みを堪える。
暴力に決して屈するものか、と。
情けない悲鳴を上げることを自身に許さない。
牽制はアウトにならず。
だが、暴行自体は成立してしまった。
一塁手がピッチャーへと返球し、再びセットポジションに。
今度こそ自分へのデッドボールが来るかと思った真希。
だが、ピッチャープレートから足は外れた。
再び牽制球。
一塁手は塁から離れており、助走をつけてベースカバーへ。
ボールを捕球しながら、逃げることの出来ないラブ将軍へ膝蹴り。
崩れるように倒れこむラブ将軍。
だが、それでも塁から離れなかった。
執念で塁上に張り付く。
「やめろやァ! これ以上殴る必要がどこにあるんや!」
真希が叫ぶ。
怒りと、悲鳴の叫び。
だが、元部長は皮肉に笑う。
「いくらでも殴るさ。
あんたたちから奪えるだけ奪い尽くす。
これはそういう勝負だろ、 超野球少女さん?」
「こんなん勝負ですら無いわ!
殴るならウチを殴れ!
正々堂々、ウチを殺しに来いや卑怯もんが!」
「お前も後で殺してやる。
あのボロ雑巾を引き裂いた後でな」
引き続き、牽制球。
一塁手はやはり、わざと塁から離れていた。
助走を付けての暴行。
避けることも出来ないラブ将軍は、一方的に暴行を受けるのみ。
そしてまたボールは返球され、また牽制。
延々と繰り返される暴力行為。
グラウンド上で異様なプレイが続く。
