ブラコン新入生は、兄の友人から恋を学ぶ


 慌てて、集団の多かった辺りから離れて、光平さんの元へ走る。
 見せてもらった式次第を見る限り、それほど時間もないのだろう。

「こっち、ちょっとなら話せるから」
「……はい」

 ちらっと光平さんのセットされた髪を見て、ほう、とため息を零してしまった。
 それを否定と取ったのか、光平さんは目を伏せてしまった。

「あんまりまじまじ見るな。結構、気になってるから」
「なんでですか」
「なんでって……普段セットしないから、気になる」
「かっこいいですよ?」

 俺は見たままのことを口にしたが、光平さんは俺の両肩をがっと掴んで口を開いた。

「そういうのじゃ、なくて……っ!」
「……っ、あの」
「あ、悪い……」

 最近、光平さんに会ってなかったせいか、こういう行動がなにをさしているのか、俺には分かりかねていた。
 でも、なんとなくさっきの光平さんは、かわいいと思ってしまった。

「光平ーっ、次俺ら集まるんだけどー」
「ちょっと待て、すぐ行く!」

 光平さんは、少し離れた通路からかけられた言葉に、そう返して、はあと息をついていた。
 強い響きを間近で聞けて、耳の内側も、心の方もじんじんと波打っていた。

「うわ……」
「あ、すまん。ちょっと、待て」
「……はい」
「式終わったら、学科っつーか、全体の打ち上げがある。だから、今日は式終わった時くらいしかないんだけど」
「大丈夫です。待ってますよ」

 俺はそう言うしかないとわかっていた。
 今までの、兄さんに対する俺だったら、きっと「どうして」って言ったと思う。
 けどそれも「卒業」してしまった。

 そういう気持ちもわかってもらえたのか、光平さんは頭をガシガシかきかけて、セットしていることを思い出して、舌打ちをしていた。

「……しゃあねえ、また後で」
「わかりました、食堂、空いてました」
「じゃあそこで」

 いつもの場所で、俺は光平さんと会う。
 それがこの場所での最後だって、ちゃんと、わかっていた。