――先輩と別れて一ヶ月。
期末テストが終わるのと同時に、学校は文化祭の準備に入った。
クラスの出店は無難に焼きそば屋に決定。また、部活でも何か出し物をしようということになった。
僕は歴史部という部に所属している。
勉強の時間を確保したかったので、帰宅部があればそこにしたかったけれども、この高校は文武両道がモットーでそれがなかった。なら、文化系でなるべく時間を取らないところを……と探したところ、この歴史部を見つけた。
歴史部は地元の史跡巡りやそれに関する文献の調査、レポート作成が主な活動内容だ。しかし、いつもはそんなに真面目にやることはない。僕と同じように帰宅部に入れなかったから……という部員がほとんどだ。
とはいえ、さすがに文化祭の展示物だけは手を抜けない。部活動の熱心さも内申の評価になるからだ。
暑すぎてセミも鳴かない夏休み直前のある日、顧問の先生は部室のホワイトボードに「I町の信仰について」と書いた。I町はこの学校のある町の名前だ。
「今回は地域信仰についての研究発表をやろうと思う」
I町には江戸時代より前から続く、大きくはないけど由緒ある神社がいくつかある。そのうちの一つの神社に絞って、創建から現代までの歴史をまとめ、更にその神社の模型を製作するという内容だった。
「部員を歴史担当と模型担当に分けよう。今回は平等にくじ引にするから」
できれば歴史をまとめる方がよかった。模型を作ったことなんてなかったし、僕には美術やハンドメイドの才能は皆無だ。模型どころか物体X並みのゴミを作り出す予感しかない。
でも、僕の願いはいつも叶わない。大体二番目の役割が割り振られる。
結果、案の定僕は模型担当になった。救いはもう一人模型担当の生徒がいたことだろうか。
「模型製作担当班はどちらも初心者だったな。なら、知り合いの宮大工を紹介するから、そこに行っていろいろ話を聞いてくるといい」
「宮大工?」
先生によると宮大工とは神社仏閣などの、伝統的な木造建築の新築、修復、保存を手がける技術職なのだそうだ。
特に新築する時と一から建て直す時には、実物を造る前の確認作業と施主に全体像を伝えるのを兼ねて、本物そっくりのミニチュアを作る。
つまり、建築物の模型作成でもプロということだ。
先生は帰り際に一枚のメモをくれた。
「これがその宮大工の工務店の連絡先。社長は昭和生まれの職人気質の人で、ちょっと気難しいけどいい人だから。前も模型作り手伝ってもらって、評判良かったから間違いない」
手伝ってもらえると聞いてほっとした。今から文化祭まで夏休みを挟んで三ヶ月ある。それだけの時間と部員二人とサポート役がいれば、きっとなんとかなる……と思いたい。
「ありがとうございます。早速連絡してみます」
その工務店は銀太郎建設と言って、なんと三四〇年前の創業だそうだ。従業員数は十二人と規模は小さいけれども、とにかく歴史が長く、江戸時代の設計図も保管しているのだとか。
「創業が江戸時代!?」
「すごいだろう。この業界、結構歴史のある企業がゴロゴロあるんだ」
――ところが、ちょっと興味を持てた神社模型の作製は、早々に出鼻を挫かれることになった。
一緒にやるはずだった部員が事故で入院してしまったのだ。それも、例の工務店にアポイントを取って、二人で訪問しようという前日の夜にだ。
『悪い、佐々木。車に轢かれて利き手をやられて……。複雑骨折らしい。全治……半年……』
「……」
当然模型製作など絶望的だ。
スマホを握り締める手が震える。僕はなんとか自分を落ち着かせ、「わかったよ。大丈夫。一人でやるから」と伝えた。
『悪いな。どこかで埋め合わせはするから』
電話を切り部屋の中で立ち尽くす。
思わず頭を抱えてしまった。
「僕一人で……模型製作!?」
期末テストが終わるのと同時に、学校は文化祭の準備に入った。
クラスの出店は無難に焼きそば屋に決定。また、部活でも何か出し物をしようということになった。
僕は歴史部という部に所属している。
勉強の時間を確保したかったので、帰宅部があればそこにしたかったけれども、この高校は文武両道がモットーでそれがなかった。なら、文化系でなるべく時間を取らないところを……と探したところ、この歴史部を見つけた。
歴史部は地元の史跡巡りやそれに関する文献の調査、レポート作成が主な活動内容だ。しかし、いつもはそんなに真面目にやることはない。僕と同じように帰宅部に入れなかったから……という部員がほとんどだ。
とはいえ、さすがに文化祭の展示物だけは手を抜けない。部活動の熱心さも内申の評価になるからだ。
暑すぎてセミも鳴かない夏休み直前のある日、顧問の先生は部室のホワイトボードに「I町の信仰について」と書いた。I町はこの学校のある町の名前だ。
「今回は地域信仰についての研究発表をやろうと思う」
I町には江戸時代より前から続く、大きくはないけど由緒ある神社がいくつかある。そのうちの一つの神社に絞って、創建から現代までの歴史をまとめ、更にその神社の模型を製作するという内容だった。
「部員を歴史担当と模型担当に分けよう。今回は平等にくじ引にするから」
できれば歴史をまとめる方がよかった。模型を作ったことなんてなかったし、僕には美術やハンドメイドの才能は皆無だ。模型どころか物体X並みのゴミを作り出す予感しかない。
でも、僕の願いはいつも叶わない。大体二番目の役割が割り振られる。
結果、案の定僕は模型担当になった。救いはもう一人模型担当の生徒がいたことだろうか。
「模型製作担当班はどちらも初心者だったな。なら、知り合いの宮大工を紹介するから、そこに行っていろいろ話を聞いてくるといい」
「宮大工?」
先生によると宮大工とは神社仏閣などの、伝統的な木造建築の新築、修復、保存を手がける技術職なのだそうだ。
特に新築する時と一から建て直す時には、実物を造る前の確認作業と施主に全体像を伝えるのを兼ねて、本物そっくりのミニチュアを作る。
つまり、建築物の模型作成でもプロということだ。
先生は帰り際に一枚のメモをくれた。
「これがその宮大工の工務店の連絡先。社長は昭和生まれの職人気質の人で、ちょっと気難しいけどいい人だから。前も模型作り手伝ってもらって、評判良かったから間違いない」
手伝ってもらえると聞いてほっとした。今から文化祭まで夏休みを挟んで三ヶ月ある。それだけの時間と部員二人とサポート役がいれば、きっとなんとかなる……と思いたい。
「ありがとうございます。早速連絡してみます」
その工務店は銀太郎建設と言って、なんと三四〇年前の創業だそうだ。従業員数は十二人と規模は小さいけれども、とにかく歴史が長く、江戸時代の設計図も保管しているのだとか。
「創業が江戸時代!?」
「すごいだろう。この業界、結構歴史のある企業がゴロゴロあるんだ」
――ところが、ちょっと興味を持てた神社模型の作製は、早々に出鼻を挫かれることになった。
一緒にやるはずだった部員が事故で入院してしまったのだ。それも、例の工務店にアポイントを取って、二人で訪問しようという前日の夜にだ。
『悪い、佐々木。車に轢かれて利き手をやられて……。複雑骨折らしい。全治……半年……』
「……」
当然模型製作など絶望的だ。
スマホを握り締める手が震える。僕はなんとか自分を落ち着かせ、「わかったよ。大丈夫。一人でやるから」と伝えた。
『悪いな。どこかで埋め合わせはするから』
電話を切り部屋の中で立ち尽くす。
思わず頭を抱えてしまった。
「僕一人で……模型製作!?」
