だが、さすがは逃走の達人。一瞬の動揺の後、すぐに冷静さを取り戻す。
「は、はぁ? 何を言ってるんだ? 俺は商人のフレデリック! 人違いだ! 暴行傷害事件だぞお前!!」
レオンを煽りながら、男の手がさりげなく腰に伸びる。
短剣を抜こうとしていたのだ。
「動くなって言ってるだろ!」
レオンは素早く古傷があるはずの左膝に蹴りを入れ、バランスを崩す。
「ぐっ……!」
たまらず崩れた男に、レオンは後ろから組み付いた。
「観念しろ!」
腕を捻り上げ、短剣を抜く前に動きを封じる。
「離せ! 何の権利があって……!」
男がもがく。
だが、次の瞬間。
ヒュン、と風を切る音。
そして。
シャリン――――。
男の喉元に、錆びた剣の切っ先が突きつけられていた。
エリナだった。
風のように現れた黒髪の剣士は、朝日を受けて煌めいていた。
埃まみれだった黒髪が、光を浴びて艶やかに輝く。まるで黒い炎のようになびいている。
その動きには、一切の無駄がなかった。
剣先を喉元に突きつける動作は、まるで舞のように流麗で、しかし確実に相手の命を握っている。
これが、S級剣聖の片鱗。
レオンは確信した。彼女の才能は、やはり本物だ。
「賞金首なんだって? お前」
エリナの声が、低く響く。
その漆黒の瞳には、冷たい炎が宿っていた。
「おとなしくしろ。じゃないと――」
剣先が、わずかに男の喉を押す。薄皮一枚切っただけで、赤い線が浮かんだ。
「首が飛ぶ」
本気だ。
この少女は、本気でやる。
エリナに威圧され、男は本能的にそれを悟り、顔から血の気が引いた。
「ち、違う! 俺は商人の……」
「左頬の傷」
レオンが、冷静に指摘した。
「隠し持った短剣。そして――」
横転した馬車から散乱した荷物を指差す。
色とりどりのかつら。付け髭。顔料。変装道具の山が、石畳の上に無様に散らばっていた。
「変装道具だらけの商人がどこにいる?」
男の顔が、絶望に歪む。
「観念しろ、ゴードン・ブラック」
「く……くそっ!」
男が必死にもがく。
だが、もう遅い。
「ふふっ、逃がさないわよ」
涼やかな声が響く。
ミーシャだった。
いつの間にか、男の背後に回り込んでいる。聖女の微笑みを浮かべながら、その手には――どこから出したのか――ロープが握られていた。
左右からは、ルナとシエルが退路を塞いでいる。
ルナの手には、不安定だが確かな炎。
シエルの弓には、新たな矢がつがえられている。
いつの間にか、四人の美少女たちが完璧な包囲陣を形成していた。
復讐の剣士、炎の魔女、月の射手、氷の聖女。
四方を塞がれた男に、もはや逃げ場はない――――。
ミーシャは微笑みを浮かべながら、優雅な手つきでロープをさばいていく。
「うふふ……抵抗すればするほど、縛り方がきつくなりますわよ?」
聖女の仮面の下から覗く、どこか嗜虐的な笑み。
男は、本能的な恐怖を感じた。
この女は、やばい。
見た目は聖女だが、中身は絶対に違う。
男は必死に何とか活路を見出そうとするものの、ここまで囲まれてしまってはもはや打つ手がなかった。
四人の美少女たちが、それぞれの武器を構えて男を囲んでいる。それは、まるで神話の一場面のようだった。
地獄に堕ちた四人の女神が、罪人を裁こうとしている。
ミーシャが手際よくロープで男を縛り上げていく。
その手つきは、まるでリボンを結ぶかのように優雅で、しかし確実に男の自由を奪っていった。関節を極め、逃走を不可能にする、プロの技だ。
聖女が、なぜこんな技術を持っているのか。
それを問う者は、誰もいなかった。
「離せ! 俺は何もしてない!」
縛り上げられた男が、最後の抵抗とばかりに喚き散らす。
「俺は善良な商人だ! これは暴行傷害だ! 訴えてやる!」
だが、もはや誰も耳を貸さなかった。
「それは衛兵に言うんだな」
レオンが、静かな微笑みを浮かべた。
全てが、【運命鑑定】の示した通りに進んでいる。
彼女たちの才能は本物だった。
バラバラだった四人が、ほんの数分で完璧な連携を見せた。
これが、SSS級の潜在能力を持つ者たちの片鱗。
レオンは確信した。
この少女たちと一緒なら、本当に世界を変えられる。
「どこだ!?」「あそこです! 急いで!!」
騒ぎを聞きつけた衛兵たちが、重い足音を響かせながら駆けつけてきた。
鎧が朝日を受けて眩しく輝く。五人、六人、七人――次々と集まってくる衛兵たちに、野次馬も増え始めていた。
「何事だ! 何があった!」
隊長格の衛兵が、厳めしい顔で状況を見渡す。
横転した馬車。散乱した荷物。そして、ロープで縛られて地面に転がっている男。
衛兵の視線が、縛られた男の顔に留まった。
その瞬間。
歴戦の衛兵の顔が、驚愕に染まった。
「は、はぁ? 何を言ってるんだ? 俺は商人のフレデリック! 人違いだ! 暴行傷害事件だぞお前!!」
レオンを煽りながら、男の手がさりげなく腰に伸びる。
短剣を抜こうとしていたのだ。
「動くなって言ってるだろ!」
レオンは素早く古傷があるはずの左膝に蹴りを入れ、バランスを崩す。
「ぐっ……!」
たまらず崩れた男に、レオンは後ろから組み付いた。
「観念しろ!」
腕を捻り上げ、短剣を抜く前に動きを封じる。
「離せ! 何の権利があって……!」
男がもがく。
だが、次の瞬間。
ヒュン、と風を切る音。
そして。
シャリン――――。
男の喉元に、錆びた剣の切っ先が突きつけられていた。
エリナだった。
風のように現れた黒髪の剣士は、朝日を受けて煌めいていた。
埃まみれだった黒髪が、光を浴びて艶やかに輝く。まるで黒い炎のようになびいている。
その動きには、一切の無駄がなかった。
剣先を喉元に突きつける動作は、まるで舞のように流麗で、しかし確実に相手の命を握っている。
これが、S級剣聖の片鱗。
レオンは確信した。彼女の才能は、やはり本物だ。
「賞金首なんだって? お前」
エリナの声が、低く響く。
その漆黒の瞳には、冷たい炎が宿っていた。
「おとなしくしろ。じゃないと――」
剣先が、わずかに男の喉を押す。薄皮一枚切っただけで、赤い線が浮かんだ。
「首が飛ぶ」
本気だ。
この少女は、本気でやる。
エリナに威圧され、男は本能的にそれを悟り、顔から血の気が引いた。
「ち、違う! 俺は商人の……」
「左頬の傷」
レオンが、冷静に指摘した。
「隠し持った短剣。そして――」
横転した馬車から散乱した荷物を指差す。
色とりどりのかつら。付け髭。顔料。変装道具の山が、石畳の上に無様に散らばっていた。
「変装道具だらけの商人がどこにいる?」
男の顔が、絶望に歪む。
「観念しろ、ゴードン・ブラック」
「く……くそっ!」
男が必死にもがく。
だが、もう遅い。
「ふふっ、逃がさないわよ」
涼やかな声が響く。
ミーシャだった。
いつの間にか、男の背後に回り込んでいる。聖女の微笑みを浮かべながら、その手には――どこから出したのか――ロープが握られていた。
左右からは、ルナとシエルが退路を塞いでいる。
ルナの手には、不安定だが確かな炎。
シエルの弓には、新たな矢がつがえられている。
いつの間にか、四人の美少女たちが完璧な包囲陣を形成していた。
復讐の剣士、炎の魔女、月の射手、氷の聖女。
四方を塞がれた男に、もはや逃げ場はない――――。
ミーシャは微笑みを浮かべながら、優雅な手つきでロープをさばいていく。
「うふふ……抵抗すればするほど、縛り方がきつくなりますわよ?」
聖女の仮面の下から覗く、どこか嗜虐的な笑み。
男は、本能的な恐怖を感じた。
この女は、やばい。
見た目は聖女だが、中身は絶対に違う。
男は必死に何とか活路を見出そうとするものの、ここまで囲まれてしまってはもはや打つ手がなかった。
四人の美少女たちが、それぞれの武器を構えて男を囲んでいる。それは、まるで神話の一場面のようだった。
地獄に堕ちた四人の女神が、罪人を裁こうとしている。
ミーシャが手際よくロープで男を縛り上げていく。
その手つきは、まるでリボンを結ぶかのように優雅で、しかし確実に男の自由を奪っていった。関節を極め、逃走を不可能にする、プロの技だ。
聖女が、なぜこんな技術を持っているのか。
それを問う者は、誰もいなかった。
「離せ! 俺は何もしてない!」
縛り上げられた男が、最後の抵抗とばかりに喚き散らす。
「俺は善良な商人だ! これは暴行傷害だ! 訴えてやる!」
だが、もはや誰も耳を貸さなかった。
「それは衛兵に言うんだな」
レオンが、静かな微笑みを浮かべた。
全てが、【運命鑑定】の示した通りに進んでいる。
彼女たちの才能は本物だった。
バラバラだった四人が、ほんの数分で完璧な連携を見せた。
これが、SSS級の潜在能力を持つ者たちの片鱗。
レオンは確信した。
この少女たちと一緒なら、本当に世界を変えられる。
「どこだ!?」「あそこです! 急いで!!」
騒ぎを聞きつけた衛兵たちが、重い足音を響かせながら駆けつけてきた。
鎧が朝日を受けて眩しく輝く。五人、六人、七人――次々と集まってくる衛兵たちに、野次馬も増え始めていた。
「何事だ! 何があった!」
隊長格の衛兵が、厳めしい顔で状況を見渡す。
横転した馬車。散乱した荷物。そして、ロープで縛られて地面に転がっている男。
衛兵の視線が、縛られた男の顔に留まった。
その瞬間。
歴戦の衛兵の顔が、驚愕に染まった。



