「まぁ、自分でも驚いてるよ」
レオンが、照れくさそうに頭を掻いた。
四人の熱い視線に、少し気恥ずかしくなったのだ。
「今朝、覚醒したばかりだからね。正直、まだ使いこなせてない部分も多いんだ」
「それでも、すごいわ」
エリナが、静かに言った。
『誰も傷つけずに勝つ』ことの、途方もない難しさ。
剣を振るうことしか知らない自分にはできない。
でも、この男には、それができる。
だから――。
「……ありがとう」
エリナが、小さく呟いた。
「仲間だろ? 当然のことさ」
レオンは、穏やかに微笑んだ。
仲間。
その言葉に、エリナの胸が熱くなった。
レオンは、少女たちの顔を見回す。
エリナ。ミーシャ。ルナ。シエル。
四つの宝石のような瞳が、レオンを見つめ返している。
そこに宿る光は、数時間前とは明らかに違っていた。
警戒が信頼に変わり、疑念が期待に変わりつつある。
まだ完全ではない。まだ道半ばだ。
でも、確かに、関係は前に進んでいる。
温かい料理。予期せぬ奇跡。そして、生まれたばかりの絆。
『腹ペコグリフォン亭』の喧騒の中で、新生パーティの物語が、確かに動き始めていた。
◇
満腹の幸福感が、テーブルを包んでいた。
空になった皿。骨だけになった肉。拭われたシチューの器。
全員が、久しぶりの満腹感に浸っている。
少女たちの顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
その静かな幸福の中で、レオンは革袋をドサッとテーブルに置いた。
金貨二百枚。
ずっしりとした重みが、木のテーブルを軋ませる。
チャリ、チャリン。
革袋の中で金貨が奏でる音が、まるで運命の鐘のように、五人の間に響き渡った。
少女たちの視線が、一斉に革袋に集まる。
これが、今日の成果。
そして、これから始まる新しい人生の軍資金。
「さて」
レオンが、静かに口を開いた。
「分配の話をしよう」
その言葉を聞いた瞬間、空気が微かに変わった。
分配。
それは、パーティにとって最も繊細な問題の一つだ。
金の問題で揉めて解散したパーティは、数え切れないほどある。
信頼関係が薄いうちは、なおさらだ。
レオンが次の言葉を紡ぐより早く、ミーシャが動いた。
「あらあら」
優雅に、両手を組み合わせる。
その仕草は完璧に計算されていて、まるで舞台女優のようだった。
聖女の微笑み。
だが、その空色の瞳の奥では、冷徹な観察者が獲物を値踏みしている。
「ここは公平に、五等分がよろしいのではありませんこと? 私たちはまだ、お互いをよく存じませんもの」
ミーシャは、意味深な微笑みを深めた。
「ただ……」
空色の瞳が、レオンを射抜く。
「賞金首を見つけたのは、レオンさんですわ。あなたが多く取りたいとおっしゃるなら、それも一つの考え方ですわね」
レオンに配慮したような提案。
しかし、その甘い声音には、毒蜜のような試練が潜んでいた。
――罠だ。
レオンは、瞬時に理解した。
これは、ミーシャの試験だ。
エリナもルナもシエルも、その真意に気づいていない。
表面上は、レオンに有利な提案をしているように見える。
「あなたが多く取ってもいい」と言っているのだから。
だが、本当の意味は違う。
もしここで自分が「じゃあ、僕が多くもらう」と言えば、どうなるか。
ミーシャは、レオンを『自分たちを利用しようとする強欲な男』と判断するだろう。
そして、他の三人にもそう吹き込むだろう。
「ほら見なさい、やっぱり男なんてそんなものよ」と。
生まれたばかりの信頼関係は、一瞬で崩壊する。
これは、ミーシャが仕掛けた、巧妙な心理テストだ。
レオンの瞳が、密かに金色の光を宿した。
【運命鑑定】が、自動的に発動する。
【運命分岐点:踏み絵】
【発生イベント:ミーシャによる心理テスト】
【推奨行動:積極的に五等分を受け入れる】
やはり、そうだった。
ミーシャは、レオンを試している。
本当に信頼できる相手かどうか、ここで見極めようとしているのだ。
それは、ミーシャの過去を考えれば、当然のことだった。
孤児として教会で育ち、聖女を演じることでしか居場所を保てなかった少女。
誰も本当の自分を見てくれない。誰も本心を受け入れてくれない。
だから、他人を信じられずにこうやって試す。
相手の本性を、暴こうとする。
「そうだね……」
レオンは、静かに微笑んだ。
そして、ミーシャの挑戦を、真正面から受けて立った。
「君の言う通り、五等分が正解だ」
迷いのない、真っ直ぐな声。
「あら?」
ミーシャの眉が、わずかに上がった。
「いいんですの? あなたが見つけた賞金首ですのに」
レオンが、照れくさそうに頭を掻いた。
四人の熱い視線に、少し気恥ずかしくなったのだ。
「今朝、覚醒したばかりだからね。正直、まだ使いこなせてない部分も多いんだ」
「それでも、すごいわ」
エリナが、静かに言った。
『誰も傷つけずに勝つ』ことの、途方もない難しさ。
剣を振るうことしか知らない自分にはできない。
でも、この男には、それができる。
だから――。
「……ありがとう」
エリナが、小さく呟いた。
「仲間だろ? 当然のことさ」
レオンは、穏やかに微笑んだ。
仲間。
その言葉に、エリナの胸が熱くなった。
レオンは、少女たちの顔を見回す。
エリナ。ミーシャ。ルナ。シエル。
四つの宝石のような瞳が、レオンを見つめ返している。
そこに宿る光は、数時間前とは明らかに違っていた。
警戒が信頼に変わり、疑念が期待に変わりつつある。
まだ完全ではない。まだ道半ばだ。
でも、確かに、関係は前に進んでいる。
温かい料理。予期せぬ奇跡。そして、生まれたばかりの絆。
『腹ペコグリフォン亭』の喧騒の中で、新生パーティの物語が、確かに動き始めていた。
◇
満腹の幸福感が、テーブルを包んでいた。
空になった皿。骨だけになった肉。拭われたシチューの器。
全員が、久しぶりの満腹感に浸っている。
少女たちの顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
その静かな幸福の中で、レオンは革袋をドサッとテーブルに置いた。
金貨二百枚。
ずっしりとした重みが、木のテーブルを軋ませる。
チャリ、チャリン。
革袋の中で金貨が奏でる音が、まるで運命の鐘のように、五人の間に響き渡った。
少女たちの視線が、一斉に革袋に集まる。
これが、今日の成果。
そして、これから始まる新しい人生の軍資金。
「さて」
レオンが、静かに口を開いた。
「分配の話をしよう」
その言葉を聞いた瞬間、空気が微かに変わった。
分配。
それは、パーティにとって最も繊細な問題の一つだ。
金の問題で揉めて解散したパーティは、数え切れないほどある。
信頼関係が薄いうちは、なおさらだ。
レオンが次の言葉を紡ぐより早く、ミーシャが動いた。
「あらあら」
優雅に、両手を組み合わせる。
その仕草は完璧に計算されていて、まるで舞台女優のようだった。
聖女の微笑み。
だが、その空色の瞳の奥では、冷徹な観察者が獲物を値踏みしている。
「ここは公平に、五等分がよろしいのではありませんこと? 私たちはまだ、お互いをよく存じませんもの」
ミーシャは、意味深な微笑みを深めた。
「ただ……」
空色の瞳が、レオンを射抜く。
「賞金首を見つけたのは、レオンさんですわ。あなたが多く取りたいとおっしゃるなら、それも一つの考え方ですわね」
レオンに配慮したような提案。
しかし、その甘い声音には、毒蜜のような試練が潜んでいた。
――罠だ。
レオンは、瞬時に理解した。
これは、ミーシャの試験だ。
エリナもルナもシエルも、その真意に気づいていない。
表面上は、レオンに有利な提案をしているように見える。
「あなたが多く取ってもいい」と言っているのだから。
だが、本当の意味は違う。
もしここで自分が「じゃあ、僕が多くもらう」と言えば、どうなるか。
ミーシャは、レオンを『自分たちを利用しようとする強欲な男』と判断するだろう。
そして、他の三人にもそう吹き込むだろう。
「ほら見なさい、やっぱり男なんてそんなものよ」と。
生まれたばかりの信頼関係は、一瞬で崩壊する。
これは、ミーシャが仕掛けた、巧妙な心理テストだ。
レオンの瞳が、密かに金色の光を宿した。
【運命鑑定】が、自動的に発動する。
【運命分岐点:踏み絵】
【発生イベント:ミーシャによる心理テスト】
【推奨行動:積極的に五等分を受け入れる】
やはり、そうだった。
ミーシャは、レオンを試している。
本当に信頼できる相手かどうか、ここで見極めようとしているのだ。
それは、ミーシャの過去を考えれば、当然のことだった。
孤児として教会で育ち、聖女を演じることでしか居場所を保てなかった少女。
誰も本当の自分を見てくれない。誰も本心を受け入れてくれない。
だから、他人を信じられずにこうやって試す。
相手の本性を、暴こうとする。
「そうだね……」
レオンは、静かに微笑んだ。
そして、ミーシャの挑戦を、真正面から受けて立った。
「君の言う通り、五等分が正解だ」
迷いのない、真っ直ぐな声。
「あら?」
ミーシャの眉が、わずかに上がった。
「いいんですの? あなたが見つけた賞金首ですのに」



