カルロスの仲間たちが真っ青になる。
「くっ……! 何やってんだよ、カルロス!」
「情けねぇ……俺たちまで笑いもんじゃねぇか……!」
「ち、治療院に連れてってくれぇぇぇ!!」
顔を真っ赤に腫らしたカルロスが、涙声で叫ぶ。
トマトソースまみれの顔は、もはや見る影もない。
さっきまでの威勢は、どこへやら。ただの惨めな酔っ払いに成り下がっていた。
「ほら、立てよ……! 行くぞ……!」
仲間たちは、恥ずかしさと怒りで顔をしかめながら、トマトまみれのカルロスを引きずって店を出ていった。
扉が閉まる音。
そして、再び爆笑。
店内は、すっかりお祭り騒ぎになっていた。
「いやぁ、今日一番の見世物だったな!」
「あのカルロスがあんな目に遭うとは……!」
「お嬢ちゃんたち、よくやった! 次の飲み物は俺が奢るぜ!」
客たちが、口々に声をかけてくる。
レオンたちのテーブルには、差し入れのエールやつまみが積み上がっていく。
エリナは、ゆっくりと剣を鞘に収めた。
カチン、と金属音が響く。
「一体これは……?」
エリナが、呆然とした顔でレオンを見つめた。
さっきまで、本当に斬る気でいた。本気で、あの男の喉を掻き切るつもりだったのに。
それが、こんな形で終わるなんて。
「今の……」
エリナの声が、震えていた。
漆黒の瞳には、驚愕と、困惑と、そして――畏怖に近い感情が渦巻いていた。
「見えてたの? こうなるって、全部」
「ああ。【運命鑑定】は、こういう時にも役立つんだ」
レオンは、肩をすくめてみせる。
まるで、大したことではないかのように。
だが、これがどれほど凄いことなのか、少女たちには分かっていた。
数秒先の未来が見えれば、それだけで戦況は一変する。
まさに、軍師として究極の能力だ。
「戦闘力はゼロだけど」
レオンが、苦笑を浮かべた。
「戦わずに勝つこともできる。これが、僕なりの戦い方なんだ」
戦わずに勝つ。
その言葉が、エリナの胸に深く響いた。
五年間、ずっと剣を振るってきた。
復讐のために、敵を斬ることこそが自分の道だと信じてきたのだ。
力で敵を倒す。それ以外の方法など、考えたこともなかった。
でも、この男は違う。
剣を振るわずに、敵を無力化した。
血を一滴も流さずに、勝利を収めた。
「……戦わない強さ、か」
エリナが呟いた。
その漆黒の瞳に、新しい光が宿っている。
今まで見えなかったものが、見え始めていた。
力だけが、強さではない。
この男は、別の形の強さを持っている。
そして、それは――自分に欠けているものかもしれない。
「うふふ」
ミーシャが、くすくすと笑った。
聖女の仮面は相変わらずだが、その空色の瞳には、本物の輝きが宿っていた。
興味。好奇心。そして、期待。
「とっても面白いわ」
ミーシャが、レオンをじっと見つめる。
観察するような、品定めするような、それでいてどこか楽しそうな視線。
「あなた、本当に面白い人ね。こんな人、初めて会ったわ」
今までミーシャが出会ってきた男たちは、みんな同じだった。
下心を持って近づき、自分の力を誇示する。
でも、この男は違う。
こんな奇跡のような力を持っているのに、それを見せつけない。
まるで、物語の中の英雄のようだ。
もっと知りたい。もっと観察したい。
ミーシャの中で、好奇心がふつふつと湧き上がっていた。
「すごい!」
ルナが、子供のように目を輝かせた。
「すごい、すごい! まるで予言者みたい!」
両手を握りしめ、興奮気味に声を上げる。
「未来が見えるなんて、魔法学院でも聞いたことない! そんなスキル、本当にあるんだ!」
ルナにとって、レオンの力は、まさに奇跡だった。
レオンが導いてくれるなら、もしかしたら自分も力を制御できるようになるかも――。
小さな希望が、ルナの胸に芽生えていた。
「ボクたち、とんでもない人と組んだんだね」
シエルが、感嘆の息を漏らした。
碧眼が、驚きに見開かれている。
「未来が見える軍師……。こんな人がいるなんて、思わなかった」
公爵家にいた頃、様々な人間を見てきた。
将軍、魔法使い、商人、政治家。
だが、未来を見通す力を持つ者など、一人もいなかった。
そんな力があれば、家を逃げ出すような自分の運命も変えられただろう。
でも今、自分の隣には、その力を持つ男がいる。
そして、その男は、自分を「仲間」と呼んでくれた。
――本当に、自由になれるかもしれない。
シエルの胸に、確かな希望が灯っていた。
「くっ……! 何やってんだよ、カルロス!」
「情けねぇ……俺たちまで笑いもんじゃねぇか……!」
「ち、治療院に連れてってくれぇぇぇ!!」
顔を真っ赤に腫らしたカルロスが、涙声で叫ぶ。
トマトソースまみれの顔は、もはや見る影もない。
さっきまでの威勢は、どこへやら。ただの惨めな酔っ払いに成り下がっていた。
「ほら、立てよ……! 行くぞ……!」
仲間たちは、恥ずかしさと怒りで顔をしかめながら、トマトまみれのカルロスを引きずって店を出ていった。
扉が閉まる音。
そして、再び爆笑。
店内は、すっかりお祭り騒ぎになっていた。
「いやぁ、今日一番の見世物だったな!」
「あのカルロスがあんな目に遭うとは……!」
「お嬢ちゃんたち、よくやった! 次の飲み物は俺が奢るぜ!」
客たちが、口々に声をかけてくる。
レオンたちのテーブルには、差し入れのエールやつまみが積み上がっていく。
エリナは、ゆっくりと剣を鞘に収めた。
カチン、と金属音が響く。
「一体これは……?」
エリナが、呆然とした顔でレオンを見つめた。
さっきまで、本当に斬る気でいた。本気で、あの男の喉を掻き切るつもりだったのに。
それが、こんな形で終わるなんて。
「今の……」
エリナの声が、震えていた。
漆黒の瞳には、驚愕と、困惑と、そして――畏怖に近い感情が渦巻いていた。
「見えてたの? こうなるって、全部」
「ああ。【運命鑑定】は、こういう時にも役立つんだ」
レオンは、肩をすくめてみせる。
まるで、大したことではないかのように。
だが、これがどれほど凄いことなのか、少女たちには分かっていた。
数秒先の未来が見えれば、それだけで戦況は一変する。
まさに、軍師として究極の能力だ。
「戦闘力はゼロだけど」
レオンが、苦笑を浮かべた。
「戦わずに勝つこともできる。これが、僕なりの戦い方なんだ」
戦わずに勝つ。
その言葉が、エリナの胸に深く響いた。
五年間、ずっと剣を振るってきた。
復讐のために、敵を斬ることこそが自分の道だと信じてきたのだ。
力で敵を倒す。それ以外の方法など、考えたこともなかった。
でも、この男は違う。
剣を振るわずに、敵を無力化した。
血を一滴も流さずに、勝利を収めた。
「……戦わない強さ、か」
エリナが呟いた。
その漆黒の瞳に、新しい光が宿っている。
今まで見えなかったものが、見え始めていた。
力だけが、強さではない。
この男は、別の形の強さを持っている。
そして、それは――自分に欠けているものかもしれない。
「うふふ」
ミーシャが、くすくすと笑った。
聖女の仮面は相変わらずだが、その空色の瞳には、本物の輝きが宿っていた。
興味。好奇心。そして、期待。
「とっても面白いわ」
ミーシャが、レオンをじっと見つめる。
観察するような、品定めするような、それでいてどこか楽しそうな視線。
「あなた、本当に面白い人ね。こんな人、初めて会ったわ」
今までミーシャが出会ってきた男たちは、みんな同じだった。
下心を持って近づき、自分の力を誇示する。
でも、この男は違う。
こんな奇跡のような力を持っているのに、それを見せつけない。
まるで、物語の中の英雄のようだ。
もっと知りたい。もっと観察したい。
ミーシャの中で、好奇心がふつふつと湧き上がっていた。
「すごい!」
ルナが、子供のように目を輝かせた。
「すごい、すごい! まるで予言者みたい!」
両手を握りしめ、興奮気味に声を上げる。
「未来が見えるなんて、魔法学院でも聞いたことない! そんなスキル、本当にあるんだ!」
ルナにとって、レオンの力は、まさに奇跡だった。
レオンが導いてくれるなら、もしかしたら自分も力を制御できるようになるかも――。
小さな希望が、ルナの胸に芽生えていた。
「ボクたち、とんでもない人と組んだんだね」
シエルが、感嘆の息を漏らした。
碧眼が、驚きに見開かれている。
「未来が見える軍師……。こんな人がいるなんて、思わなかった」
公爵家にいた頃、様々な人間を見てきた。
将軍、魔法使い、商人、政治家。
だが、未来を見通す力を持つ者など、一人もいなかった。
そんな力があれば、家を逃げ出すような自分の運命も変えられただろう。
でも今、自分の隣には、その力を持つ男がいる。
そして、その男は、自分を「仲間」と呼んでくれた。
――本当に、自由になれるかもしれない。
シエルの胸に、確かな希望が灯っていた。



