【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~戦闘力ゼロの追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と送る甘々ライフ~

 エリナの漆黒の瞳に、暗い炎が宿っている。

 せっかく見つけた仲間たち。

 せっかく掴んだ希望の光。

 やっと笑えるようになった、温かな時間。

 それを踏みにじられ、大切なものを汚された怒り。

 ――許さない。

 仲間の尊厳を踏みにじり、それを楽しんでいるような奴らを放置なんて、できるわけがない。

「近づかないで」

 シャリィィィン!

 剣を抜く音が、店内に響き渡った。

 錆びた刀身が、ランプの光を受けて鈍く輝く。

 エリナの構えは、完璧だった。

 重心は低く、足は肩幅に開き、剣先は相手の喉を狙っている。

 五年間、復讐のためだけに磨いてきた剣技。

 その全てが、今、カルロスに向けられていた。

 漆黒の瞳に、殺意が宿っている。

 本気だ。

 この少女は、本気でこの男に剣を振るうつもりだ。

 凍てつくような殺気が、店内の空気を一変させた。

 さっきまで談笑していた客たちが、一斉に息を呑む。

 酒を飲んでいた手が止まり、会話が途切れ、誰もが固唾を飲んでこちらを見つめている。

 女将が、カウンターの奥から心配そうに様子を窺っていた。

 だが、カルロスは怯まなかった。

「おお、怖い怖い」

 むしろ、面白そうに目を輝かせている。

「だがな、お嬢ちゃん」

 カルロスが、ゆっくりと懐に手を伸ばした。

「剣を抜くって意味、わかってるか?」

 シャリン。

 短剣が、抜き放たれた。

 エリナの剣よりも短いが、よく手入れされた、鋭い刃。

 ギラリと、不吉な光を放つ。

「それは、殺し合いの合図ってことだぜ?」

 カルロスが、嘲笑を浮かべた。

「Fランクの小娘が、俺たちCランクに勝てると思ってるのか?」

 カルロスの仲間たちも、武器に手をかけた。

 一人は剣。もう一人は斧。

 どちらも使い込まれた、本物の武器だ。

 刃こぼれの跡が、幾多の戦いを物語っている。

 一触即発。

 店内の空気が、針で刺せば弾けそうなほど張り詰めていく。

 周囲の客たちが、巻き込まれないように席を立ち始めた。

 椅子が倒れる音。足音。誰かが小さく悲鳴を上げる声。

 だが、誰も止めに入ろうとはしない。

 Cランクの冒険者相手に、命を懸けて仲裁に入る勇気のある者は、この場にはいなかった。

 カルロスが、一歩踏み出した。

 エリナとの距離が、詰まる。

 剣の間合い。

 あと一歩踏み込めば、お互いの刃が届く距離。

 エリナは、剣を振るうタイミングを計っていた。

 次の瞬間、血が流れる。

 誰もがそう思った。

 あと、一秒。

 あと、一瞬で――――。

 その時だった。

 レオンの瞳が、黄金の光を帯びた。


【運命分岐点:不戦勝】
【発生イベント:十秒後カルロスが自滅】
【推奨行動:何もせずに待たせる】


「待って、エリナ」

 確信を持った、落ち着いた声だった。

「何もしなくていい」

「は? 何を言ってんの?」

 エリナが、困惑した声を出す。

「彼は、勝手に自滅する」

 その言葉に、カルロスが激昂した。

「なんだぁ!?」

 顔を真っ赤にして、怒鳴り散らす。

「この俺様が自滅だとぉ!? 舐めてんのか、コラァ!」

 威嚇するように、大股で一歩踏み出した。

 だが。

 酒で鈍った足は、思うように動かなかった。

 椅子の足に、見事に引っかかる。

「うわっ!?」

 巨体が、無様にバランスを崩した。

 必死に何かに掴まろうと、手を伸ばす。

 その手が掴んだのは、隣のテーブルのテーブルクロス。

 そして、そのテーブルの上には。

 ちょうど運ばれてきたばかりの、グツグツと煮えたぎるトマト鍋が。

「あ」

 カルロスが、間抜けな声を漏らした。

 次の瞬間。

 ガッシャァァァン!!

 凄まじい音と共に、鍋がひっくり返った。

 真っ赤なトマトソースが、カルロスの顔面に直撃する。

「ぎゃあああああああ!!」

 絶叫が、店内に響き渡った。

「熱いィィィ!! 熱い熱い熱いいいいいい!!」

 カルロスが、顔を押さえて転げ回る。

 真っ赤なトマトソースが、顔中にべったりと付着していた。

 まるで血まみれの怪物のような惨状。

 いや、実際に火傷を負っているのだろう。顔が赤く腫れ上がり始めていた。


      ◇


 一瞬の静寂。

 誰もが、目の前で起きたことを理解できずにいた。

 そして。

「ぶはっ……!」

 誰かが、吹き出した。

 それが合図だったかのように、店内が爆笑の渦に包まれた。

「ぶはははははは!! カルロスの野郎、鍋に頭突っ込みやがった!」

「自分から顔面ダイブとか、どんなギャグだよ!」

「これがCランクの実力か! 笑わせるぜ!」

「煮込み料理に負けた男! 伝説になるぞ!」

 客たちが、腹を抱えて笑い転げている。