【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~戦闘力ゼロの追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と送る甘々ライフ~

 レオンは『太陽の剣』に所属していた頃、大きな依頼を達成した後にここに何度か訪れたことがある。

 あの頃は、カインやセリナと一緒に……。

 ――いや、今はそんなことを考えるのはやめよう。

 レオンは過去の記憶を振り払った。

「ついに入れるんだわ……」

 シエルが、感慨深そうに看板を見上げる。

「ここ、知ってる! あたしもずっと来たいと思ってたんだ」

 ルナが、目を輝かせて声を上げた。

「ここかぁ……。いつも前を通るたびに、いい匂いがして……でも、高そうだから入れなくて……ふふふっ」

 エリナも、珍しく機嫌が良さそうだ。

「何してるの? 早く入りましょ!」

 ミーシャが、優雅に扉に手をかけた。

 ギギィと重い木の扉を押し開けた瞬間。

 店内の熱気と活気が、まるで温かい抱擁のように一行を包み込んだ。

 香ばしい肉の焼ける匂い。芳醇なスープの香り。焼きたてのパンの甘い香り。

 そして、冒険者たちの笑い声と――まだお昼だというのにジョッキがぶつかり合う音。

 ここには、生きている者たちの熱気があった。

「いらっしゃい!」

 カウンターの奥から、威勢の良い声が響いた。

「おや、お嬢ちゃんたちは……見ない顔だね」

 小麦色に日焼けした、恰幅の良い女将が近づいてきた。

 エプロンで手を拭きながら、人懐っこい笑顔を浮かべている。

 その笑顔には、数え切れないほどの冒険者たちを見送ってきた、温かさと逞しさがあった。

「五人かしら? 奥のテーブルが空いてるよ。さあさあ、こっちにおいで」

 案内された席は、店の奥まった場所にある重厚な木製テーブルだった。

 レオンは壁に掛けられた黒板を見上げながら椅子に腰かける。

 そこには今日のおすすめメニューが、チョークで書かれていた。

「今日のシチューを五人前、黒パンは山盛りで。それと……」

 レオンは、少女たちの顔を見回した。

 全員、キラキラと期待に目を輝かせている。

「今日のおすすめの肉の塊を二皿……、それとお勧めのプレートをいくつかお願いします!」

「おお、景気がいいね!」

 女将が、嬉しそうに目を細めた。

「いい依頼でもこなしてきたのかい?」

「まあ、そんなところです」

「そうかい、そうかい。若いのに大したもんだ。すぐ持ってくるから、待っててね!」

「ふふっ」「やったぁ」「楽しみ!」

 女の子たちはうきうきした様子で顔を見合わせた。


       ◇


 しばらくして、料理が運ばれてきた。

 テーブルが、豪華な料理で埋め尽くされていく。

 まず、シチュー。

 大きな陶器の器に、野菜がごろごろと入った濃厚なシチューが注がれている。じゃがいも、人参、玉ねぎ、そして大きな肉の塊。白い湯気が立ち昇り、クリーミーな香りが鼻腔をくすぐった。

 次に、黒パン。

 籠に山盛りにされた、焼きたての黒パン。外はカリカリ、中はふわふわ。バターを塗れば、溶けて甘い香りを放つ。

 ほかにもサラダや前菜が並ぶ。

 そして、圧巻は肉だった。

 熱々の鋳物皿の上に、拳二つ分はある巨大な肉塊が鎮座している。

 表面はカリカリに焼き上げられ、中は綺麗なピンク色。切り分けると、肉汁がジュワッと溢れ出す。

 ジュウジュウ、ジュウジュウ。

 肉汁が鋳物皿の上で音を立てる。その音だけで、唾液が溢れてくる。

 空腹に耐えていた少女たちの瞳が、まるで宝石を前にした子供のように輝いた。

「す、すごい……」

 ルナが、呆然と呟いた。

「こんなの、初めて見た……」

「いい匂い……」

 シエルが、無意識に鼻をヒクヒクさせている。

「早く食べましょう」

 ミーシャでさえ、聖女の仮面を維持するのが難しそうだった。

 エリナは無言だったが、その漆黒の瞳は、肉から離れなかった。


      ◇


「い、いただきます!」

 ルナが、待ちきれないといった様子でスプーンを握りしめた。

 震える手で、シチューを掬う。

 口に運んだ瞬間。

「熱っ!」

 舌を火傷しそうになって、慌てて口を押さえる。

 だが、その顔は――幸福に満ちていた。

「でも、おいしい……!」

 涙が滲んできた。

「すっごく、おいしい……!」

 それは、空腹を満たす喜びだけではなかった。

 温かいものを、誰かと一緒に食べる。

 それが、どれほど幸せなことか。

 ルナは、この三ヶ月間、ずっと一人だった。

 魔法学院を飛び出してから、家に帰るわけにもいかず、誰にも頼れず、ただ一人で彷徨い続けた。

 そして女の子たちとパーティーを組むも全てがうまくいかず、常に崖っぷちの暮らし。

 ゴミ箱を漁ったこともある。残飯を恵んでもらったこともある。

 温かい食事なんて、いつ以来だろう。

「ルナ、泣いてるの?」

 シエルが、心配そうに覗き込んだ。

「な、泣いてないわよ!」

 ルナは慌てて涙を拭った。

「ただ、熱かっただけ! 目から汗が出ただけ!」

「目から汗……?」

「う、うるさいわよ! いいから食べなさいよ!」

 ルナの照れ隠しに、シエルが小さく笑った。

 その笑顔につられて、張り詰めていた空気が和らいでいく。