そのただならぬ叫び声に、隣の部屋で眠っていたエリナが目を覚ました。
最初は夢かと思った。けれど、壁越しに聞こえてくるのは、確かにレオンの声だった。苦しみに満ちた、絞り出すような声。エリナの胸に、鋭い痛みが走る。
彼が、苦しんでいる――――。
それだけでエリナの体は動いていた。ベッドから飛び起き、パジャマのまま部屋を飛び出す。月明かりに照らされた廊下に出ると、既にミーシャも部屋から出てきていた。その顔には深い憂いが浮かんでいる。
「お聞きになりました……?」
「うん……」
短く頷き合った時、ルナとシエルも部屋から駆け出してくる。赤いパジャマ姿のルナは息を切らせ、白いパジャマ姿のシエルは碧眼を不安で曇らせていた。
「な、何なの、今の声……レオンの声よね?」
「レオンが……苦しんでる……」
四人の視線が、一斉にレオンの部屋の扉に向けられた。その向こうから、まだ苦しそうな呻き声が漏れ聞こえてくる。
みんないたたまれなくなってお互いの顔を見合わせた。
昼間は、あんなに元気そうにしていたのに――きっと、無理をしていたのだ。私たちを心配させまいと、ずっと一人で抱え込んでいたのだ。
「あいつは、いつも一人で抱え込みすぎるのよ……」
エリナの言葉に、三人が力強く頷いた。ミーシャの瞳には決意の光が宿り、ルナは拳を握りしめ、シエルは唇を引き結んでいる。
「言葉だけの慰めでは……ダメね」
ミーシャが、普段の演技を脱ぎ捨てた素の声で呟く。
「行動あるのみ。彼が一人じゃないって、体で感じてもらうしかないわ!」
ミーシャはぐっと両こぶしを握った。
「え……? それって……」
エリナはたじろいだ。『体で感じてもらう』という響きにはさすがに抵抗を感じてしまう。
しかし――。
「そうよ……あたしたちの想いで、あいつを守るんだ」
ルナが頷き、シエルも決意を込めて言葉を継ぐ。
「ボクたちは、いつもレオンに守られてばかり。今度は……ボクたちが、彼を温める番ね」
三人はうなずき合い、ミーシャが、そっとレオンの部屋の扉に手をかける。
「えっ……。ほ、本気……なの?」
エリナは慌ててミーシャの肩に手をかけるが――。
「あなたは外で待っててもいいのよ? ふふっ」
ニヤリと笑ったミーシャはエリナの手を振り切って突入し、ルナとシエルも続いた。
「あぁぁ……。もぅ……」
エリナもせめぎあう心のうちを振り切ってみんなに続いた。
◇
四人は息を潜め、お互いに顔を見合わせ、静かに、できるだけ音を立てないようにそーっと部屋の中に足を踏み入れた。
カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。その淡い銀色の光が、ベッドの上の影を浮かび上がらせていた。
横たわるレオンの姿は、見ているだけで胸が痛くなるほど苦しそうだった。脂汗が額を伝い、枕を湿らせている。シーツを握りしめた拳は白く、呼吸は浅く不規則だ。その体は悪夢の中で何かと戦っているかのように小刻みに震え、時折ピクリと痙攣する。
「……やめ……ろ……」
うわ言のように、レオンが何かを呟いた。その声は絞り出すような、痛々しい声――。
「……逃げ……て……」
その必死な響きに四人の胸が締め付けられる。
ミーシャはタタッと小走りで駆け寄り、誰よりも先にレオンの右側に滑り込む。そしてそっと、その肩に頬を寄せた。
(あっ!)(ずるーい!)(んんっ!)
三人が、声にならない声で抗議する。
けれど、シエルも負けていない。すかさず反対側、レオンの左側に潜り込み、その左腕を両手で優しく包み込んだ。まるで壊れ物を扱うかのに、慈しむように。
タッチの差で負けたルナとエリナも必死だった。このまま引き下がるわけにはいかない。ルナは素早くミーシャとレオンの間に体を滑り込ませようと試み、エリナはシエルとレオンの間、レオンの胸のあたりに体を寄せた。
(んーーっ!)(んっ!)(んんっ!)
四人はもぞもぞと動きながら、お互いを押しのけ、いい位置を奪い合う。けれどその動きは慎重で、レオンを起こさないように、傷つけないように。やがて絶妙な位置取りで落ち着いていった。
右側にミーシャとルナ。左側にシエルとエリナ。四人の体温が、レオンを包み込んでいく。狭くなったベッドの中で、四人の少女はそれぞれの温もりでレオンを守るように寄り添う。
レオンの顔に柔らかい髪がかかり、四つの呼吸が聞こえ、心臓の鼓動が伝わってくる。
その変化に、レオンの体がピクリと反応した。震えが、少しずつ収まっていく。荒かった呼吸が、穏やかになっていく。
そして――レオンの目がゆっくりと開いた。
最初は夢かと思った。けれど、壁越しに聞こえてくるのは、確かにレオンの声だった。苦しみに満ちた、絞り出すような声。エリナの胸に、鋭い痛みが走る。
彼が、苦しんでいる――――。
それだけでエリナの体は動いていた。ベッドから飛び起き、パジャマのまま部屋を飛び出す。月明かりに照らされた廊下に出ると、既にミーシャも部屋から出てきていた。その顔には深い憂いが浮かんでいる。
「お聞きになりました……?」
「うん……」
短く頷き合った時、ルナとシエルも部屋から駆け出してくる。赤いパジャマ姿のルナは息を切らせ、白いパジャマ姿のシエルは碧眼を不安で曇らせていた。
「な、何なの、今の声……レオンの声よね?」
「レオンが……苦しんでる……」
四人の視線が、一斉にレオンの部屋の扉に向けられた。その向こうから、まだ苦しそうな呻き声が漏れ聞こえてくる。
みんないたたまれなくなってお互いの顔を見合わせた。
昼間は、あんなに元気そうにしていたのに――きっと、無理をしていたのだ。私たちを心配させまいと、ずっと一人で抱え込んでいたのだ。
「あいつは、いつも一人で抱え込みすぎるのよ……」
エリナの言葉に、三人が力強く頷いた。ミーシャの瞳には決意の光が宿り、ルナは拳を握りしめ、シエルは唇を引き結んでいる。
「言葉だけの慰めでは……ダメね」
ミーシャが、普段の演技を脱ぎ捨てた素の声で呟く。
「行動あるのみ。彼が一人じゃないって、体で感じてもらうしかないわ!」
ミーシャはぐっと両こぶしを握った。
「え……? それって……」
エリナはたじろいだ。『体で感じてもらう』という響きにはさすがに抵抗を感じてしまう。
しかし――。
「そうよ……あたしたちの想いで、あいつを守るんだ」
ルナが頷き、シエルも決意を込めて言葉を継ぐ。
「ボクたちは、いつもレオンに守られてばかり。今度は……ボクたちが、彼を温める番ね」
三人はうなずき合い、ミーシャが、そっとレオンの部屋の扉に手をかける。
「えっ……。ほ、本気……なの?」
エリナは慌ててミーシャの肩に手をかけるが――。
「あなたは外で待っててもいいのよ? ふふっ」
ニヤリと笑ったミーシャはエリナの手を振り切って突入し、ルナとシエルも続いた。
「あぁぁ……。もぅ……」
エリナもせめぎあう心のうちを振り切ってみんなに続いた。
◇
四人は息を潜め、お互いに顔を見合わせ、静かに、できるだけ音を立てないようにそーっと部屋の中に足を踏み入れた。
カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。その淡い銀色の光が、ベッドの上の影を浮かび上がらせていた。
横たわるレオンの姿は、見ているだけで胸が痛くなるほど苦しそうだった。脂汗が額を伝い、枕を湿らせている。シーツを握りしめた拳は白く、呼吸は浅く不規則だ。その体は悪夢の中で何かと戦っているかのように小刻みに震え、時折ピクリと痙攣する。
「……やめ……ろ……」
うわ言のように、レオンが何かを呟いた。その声は絞り出すような、痛々しい声――。
「……逃げ……て……」
その必死な響きに四人の胸が締め付けられる。
ミーシャはタタッと小走りで駆け寄り、誰よりも先にレオンの右側に滑り込む。そしてそっと、その肩に頬を寄せた。
(あっ!)(ずるーい!)(んんっ!)
三人が、声にならない声で抗議する。
けれど、シエルも負けていない。すかさず反対側、レオンの左側に潜り込み、その左腕を両手で優しく包み込んだ。まるで壊れ物を扱うかのに、慈しむように。
タッチの差で負けたルナとエリナも必死だった。このまま引き下がるわけにはいかない。ルナは素早くミーシャとレオンの間に体を滑り込ませようと試み、エリナはシエルとレオンの間、レオンの胸のあたりに体を寄せた。
(んーーっ!)(んっ!)(んんっ!)
四人はもぞもぞと動きながら、お互いを押しのけ、いい位置を奪い合う。けれどその動きは慎重で、レオンを起こさないように、傷つけないように。やがて絶妙な位置取りで落ち着いていった。
右側にミーシャとルナ。左側にシエルとエリナ。四人の体温が、レオンを包み込んでいく。狭くなったベッドの中で、四人の少女はそれぞれの温もりでレオンを守るように寄り添う。
レオンの顔に柔らかい髪がかかり、四つの呼吸が聞こえ、心臓の鼓動が伝わってくる。
その変化に、レオンの体がピクリと反応した。震えが、少しずつ収まっていく。荒かった呼吸が、穏やかになっていく。
そして――レオンの目がゆっくりと開いた。



