レオンは両手を上げて彼女たちを制した。
「まあまあ、落ち着いて。とりあえず、何か美味しいものでも食べよう。今後のことは、そこで……」
「やったぁ!」
ルナが両手を挙げてぴょんと飛び跳ねた。
「あたし、お肉がいい! 大きいお肉! こーんなの!」
両手を広げて肉の大きさを示す。その仕草が、なんとも愛らしい。
「無駄遣いはダメよ!」
エリナが腕を組んで釘を刺す。だが、その表情は緩んでいた。
「でも……今日だけは、特別ね。ふふっ」
「ふふふ、ならちょっとだけエールも飲ませてもらおうかしら」
ミーシャが、悪戯っぽく微笑む。
「一杯だけよ!」
エリナはジト目でミーシャをにらんだ。
その視線には、何か過去の出来事を感じさせるものがあった。
ミーシャの酒癖には要注意かもしれない。
「あのお店にしようよ、大通りの!」
シエルが商店街の方を指差した。
「ずっと行きたかったの! いつも外から見るだけだったんだけど……」
「よーし、じゃあ決まりだ!」
レオンは、拳を突き上げた。
「今日はパーッと行こう! 僕たちの門出を祝って!」
「おー!」「やったぁ!」「うーれしー!」「ふふっ、飲むわよぉ!」
四人の声が重なる。
バラバラだった声が、初めて一つになった瞬間だった。
一行は、賑やかに商店街の方へと歩き出す。
レオンと四人の元気な美少女たち――――。
傍から見れば、仲の良いパーティに見えるだろうか。
まだ、そこまでの信頼関係はない。
でも、確かに、第一歩を踏み出せた。
その時だった。
ピロン。
脳裏に、軽やかな音と共にメッセージが浮かんだ。
【スキルメッセージ】
【好感度変動検知】
エリナ・ブラックソード
好感度:10→25
状態:【警戒】→【一安心】
ミーシャ・ホーリーベル
好感度:5→20
状態:【無関心】→【観察】
ルナ・クリムゾン
好感度:5→15
状態:【敵意】→【感謝】
シエル・フォン・アステリア
好感度:10→30
状態:【不信】→【安堵】
レオンは、思わず足を止めた。
――こんなことまで分かるのか!?
好感度が、数値で見える。
しかも、心の中の評価まで。
これは……とんでもないスキルだ。
レオンは驚きながら、前を歩く四人の後ろ姿を見つめた。
黒、金、赤、銀。
四色の髪が、陽の光を受けて揺れている。
それぞれに、まだ距離を感じる。
エリナは警戒を解いただけで、まだ心を開いてはいない。
ミーシャは興味を持っただけで、信頼には程遠い。
ルナは感謝してくれてはいるが、本質的に彼女の不安定さという問題が残っている。
シエルが一番信頼度が高いが、それでもまだ三十。「安堵」はしているが、「信頼」にはまだ届かない。
でも、確かな一歩を踏み出せた。
ゼロから始まった関係が、少しずつ、少しずつ、前に進んでいる。
こうして、全てを失った朝は、新たな仲間と希望を得た朝へと変わった。
カインよ。セリナよ。
見ていろ。
僕は必ず、最高のパーティを作ってみせる。
そして、いつか――お前たちの届かぬ高みへと達して見せる。
レオンは、ぎゅっと固く拳を握った。
それは、運命への反逆の、第一歩だった。
◇
一行はとりとめもない話をしながら石畳の道を歩いていく。
「ねえ、レオンって普段何食べてたの?」
「普通に食堂とか……」
「Aランクパーティだったんでしょ? もっと豪華なもの食べてたんじゃないの?」
「いや、僕は軍師だから、報酬の取り分は少なくて……」
「えー、ひどーい!」
「あらあら、搾取されていたのね。可哀想に」
「ボクなんか三日間何も食べてなかったんだから!」
「それはお前が方向音痴で迷子になったからだろ」
「う、うるさいな!」
姦しい少女たちの声を聞きながら、レオンは胸の奥が温かくなるのを感じていた。
つい数時間前まで、孤独だった。
仲間に裏切られ、恋人に捨てられ、家族に見放された。
世界中で、誰一人として自分の味方がいなかった。
なのに今、隣には四人の仲間がいる。
足取りが心なしか弾んでしまう。
これが、新しい人生の始まりなのだ。
「ここよ!」
シエルが足を止めて、一軒の店を指し示した。
煙突から、香ばしい白煙が立ち昇っている。
歴史を感じさせる木造建築。年季の入った梁と柱が、幾多の冒険者たちを見守ってきた証だった。
看板には、よだれを垂らしながら肉を見つめるグリフォンの、どこか愛嬌のある姿が描かれている。
『腹ペコグリフォン亭』
冒険者たちの間では、「少し値は張るが、間違いなく美味い店」として知られていた。
「まあまあ、落ち着いて。とりあえず、何か美味しいものでも食べよう。今後のことは、そこで……」
「やったぁ!」
ルナが両手を挙げてぴょんと飛び跳ねた。
「あたし、お肉がいい! 大きいお肉! こーんなの!」
両手を広げて肉の大きさを示す。その仕草が、なんとも愛らしい。
「無駄遣いはダメよ!」
エリナが腕を組んで釘を刺す。だが、その表情は緩んでいた。
「でも……今日だけは、特別ね。ふふっ」
「ふふふ、ならちょっとだけエールも飲ませてもらおうかしら」
ミーシャが、悪戯っぽく微笑む。
「一杯だけよ!」
エリナはジト目でミーシャをにらんだ。
その視線には、何か過去の出来事を感じさせるものがあった。
ミーシャの酒癖には要注意かもしれない。
「あのお店にしようよ、大通りの!」
シエルが商店街の方を指差した。
「ずっと行きたかったの! いつも外から見るだけだったんだけど……」
「よーし、じゃあ決まりだ!」
レオンは、拳を突き上げた。
「今日はパーッと行こう! 僕たちの門出を祝って!」
「おー!」「やったぁ!」「うーれしー!」「ふふっ、飲むわよぉ!」
四人の声が重なる。
バラバラだった声が、初めて一つになった瞬間だった。
一行は、賑やかに商店街の方へと歩き出す。
レオンと四人の元気な美少女たち――――。
傍から見れば、仲の良いパーティに見えるだろうか。
まだ、そこまでの信頼関係はない。
でも、確かに、第一歩を踏み出せた。
その時だった。
ピロン。
脳裏に、軽やかな音と共にメッセージが浮かんだ。
【スキルメッセージ】
【好感度変動検知】
エリナ・ブラックソード
好感度:10→25
状態:【警戒】→【一安心】
ミーシャ・ホーリーベル
好感度:5→20
状態:【無関心】→【観察】
ルナ・クリムゾン
好感度:5→15
状態:【敵意】→【感謝】
シエル・フォン・アステリア
好感度:10→30
状態:【不信】→【安堵】
レオンは、思わず足を止めた。
――こんなことまで分かるのか!?
好感度が、数値で見える。
しかも、心の中の評価まで。
これは……とんでもないスキルだ。
レオンは驚きながら、前を歩く四人の後ろ姿を見つめた。
黒、金、赤、銀。
四色の髪が、陽の光を受けて揺れている。
それぞれに、まだ距離を感じる。
エリナは警戒を解いただけで、まだ心を開いてはいない。
ミーシャは興味を持っただけで、信頼には程遠い。
ルナは感謝してくれてはいるが、本質的に彼女の不安定さという問題が残っている。
シエルが一番信頼度が高いが、それでもまだ三十。「安堵」はしているが、「信頼」にはまだ届かない。
でも、確かな一歩を踏み出せた。
ゼロから始まった関係が、少しずつ、少しずつ、前に進んでいる。
こうして、全てを失った朝は、新たな仲間と希望を得た朝へと変わった。
カインよ。セリナよ。
見ていろ。
僕は必ず、最高のパーティを作ってみせる。
そして、いつか――お前たちの届かぬ高みへと達して見せる。
レオンは、ぎゅっと固く拳を握った。
それは、運命への反逆の、第一歩だった。
◇
一行はとりとめもない話をしながら石畳の道を歩いていく。
「ねえ、レオンって普段何食べてたの?」
「普通に食堂とか……」
「Aランクパーティだったんでしょ? もっと豪華なもの食べてたんじゃないの?」
「いや、僕は軍師だから、報酬の取り分は少なくて……」
「えー、ひどーい!」
「あらあら、搾取されていたのね。可哀想に」
「ボクなんか三日間何も食べてなかったんだから!」
「それはお前が方向音痴で迷子になったからだろ」
「う、うるさいな!」
姦しい少女たちの声を聞きながら、レオンは胸の奥が温かくなるのを感じていた。
つい数時間前まで、孤独だった。
仲間に裏切られ、恋人に捨てられ、家族に見放された。
世界中で、誰一人として自分の味方がいなかった。
なのに今、隣には四人の仲間がいる。
足取りが心なしか弾んでしまう。
これが、新しい人生の始まりなのだ。
「ここよ!」
シエルが足を止めて、一軒の店を指し示した。
煙突から、香ばしい白煙が立ち昇っている。
歴史を感じさせる木造建築。年季の入った梁と柱が、幾多の冒険者たちを見守ってきた証だった。
看板には、よだれを垂らしながら肉を見つめるグリフォンの、どこか愛嬌のある姿が描かれている。
『腹ペコグリフォン亭』
冒険者たちの間では、「少し値は張るが、間違いなく美味い店」として知られていた。



