ガチャッガチャッ、ガチャッガチャッ!
騎士たちの足音が近づいてくる。無骨な重い足音が祠の前を通り過ぎようとして止まった。レオンの心臓が激しく波打つ。シエルの手が震えた。
「くそっ! 見失った!」
一人の騎士が悔しそうに叫ぶ。
「お前はあっちだ!」「了解!」
バタバタと散開していく足音。レオンはまだ動かない。シエルはぎゅっとレオンにしがみつく――――。
足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなった。それでもしばらく待つ。一分、二分と時間が過ぎていく。
「うちの騎士団……ギルバートまで……」
シエルが頭を抱える。その声が震えている。
「ついに、見つかっちゃった……もう、逃げられない……」
その言葉にレオンの胸が締め付けられた。シエルはずっと、この日が来ることを恐れていた。家に連れ戻される日。自由を奪われる日。また『商品』として扱われる日。
「大丈夫」
レオンはシエルを抱きしめた。ぎゅっと、温かく、しっかりと。
「絶対に守り切るから」
耳元で囁く。その言葉にシエルの体が少しだけ力を抜いた。
「……ありがとう……」
シエルは涙目で小さく頷く――。
けれどレオンの心は穏やかではなかった。【運命鑑定】を失った今の自分に、最善の選択肢は見えない。ただ全力を尽くすしかないのだ。
シエルの銀髪が頬に触れ、その震える体温が伝わってくる。この温もりは、絶対に守る!
「行こう。みんなが待ってる」
「……うん」
レオンが手を差し出すと、シエルはその手をしっかりと握った。碧眼には恐怖と不安の中にも、レオンへの信頼の光が宿っている。
二人は再び走り出した。追手の声が遠くから聞こえる。けれど二人は諦めなかった。希望が待つ場所へ、必ず辿り着いてみせる――――。
◇
レオンは事前に調査しておいた、フェンスの壊れた場所を抜けた。そこから民家の庭に侵入する。洗濯物が干され、シーツが風に揺れている。その間を二人は駆け抜けた。
「あら!?」
庭にいた主婦が驚いて声を上げる。
「すみません! 通ります!」
レオンは謝りながら走る。裏口から路地に出て、また民家の庭を走る。シエルの手を引いて道なき道を、ただひたすらに駆けていく。
息が上がる。喉が渇く。足が痛い。けれど止まらない。止まれない。背後からまだ追ってくる気配がある。鎧の音が、じわじわと近づいてくる。
ピィィィィ!
「いたぞーー! あそこだ!」
時計台の上から指示が飛ぶ。さすが王国最強の騎士団、包囲探索能力も想像以上だった。
「くそっ! しつこい……!」
レオンの額に汗が滲む。シエルも必死についてきている。その顔は汗と涙で濡れていた。
やがて二人がたどり着いたのは、木々が茂る街で最も大きな公園だった。
「シエル! あの一番高い木の上に!」
「分かった!」
シエルは弓を背負い直すと、しなやかな動きで大木の幹を駆け上がった。まるでリスのように軽やかに枝から枝へと飛び移り、あっという間に木の上に姿を消す。
レオンも不器用に木を登り始める。
「レオン! 手を!」
シエルが手を伸ばしてくれた手を掴み、引っ張り上げてもらう。
ようやく太い枝の上にたどり着いて、やれやれという感じで息を整えるレオン。
木の葉がいい感じに二人を隠してくれていた。
次々と公園になだれ込んでくる騎士たち。その数、およそ三十。ガシャ、ガシャ、ガシャと重い足音が響く。
「どこだぁ!?」「探せぇ! 遠くへは行ってないはずだ!」
怒号が飛び交い、騎士たちが公園中を探し回っている。
木の上でレオンとシエルは身を寄せ合った。レオンがシエルを抱きしめ、シエルもレオンにしがみつく。二人の体温が重なり、心臓の音が聞こえる。ドクン、ドクン、ドクンと、二人とも激しく波打っている。
息を殺し、身じろぎもせず、ただ通り過ぎるのを待った。シエルの銀髪がレオンの頬に触れる。その髪は汗で湿っていた。レオンの腕の中で、シエルが小刻みに震えている。レオンはシエルを抱く腕に力を込めた。大丈夫、絶対に守る。そう無言で伝える。
時間が永遠のように感じられた。下では騎士たちが草むらを探り、茂みを調べ、噴水の裏を確認している。
頼む、気づかないでくれ。
レオンは心の中で祈った――――。
騎士たちの足音が近づいてくる。無骨な重い足音が祠の前を通り過ぎようとして止まった。レオンの心臓が激しく波打つ。シエルの手が震えた。
「くそっ! 見失った!」
一人の騎士が悔しそうに叫ぶ。
「お前はあっちだ!」「了解!」
バタバタと散開していく足音。レオンはまだ動かない。シエルはぎゅっとレオンにしがみつく――――。
足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなった。それでもしばらく待つ。一分、二分と時間が過ぎていく。
「うちの騎士団……ギルバートまで……」
シエルが頭を抱える。その声が震えている。
「ついに、見つかっちゃった……もう、逃げられない……」
その言葉にレオンの胸が締め付けられた。シエルはずっと、この日が来ることを恐れていた。家に連れ戻される日。自由を奪われる日。また『商品』として扱われる日。
「大丈夫」
レオンはシエルを抱きしめた。ぎゅっと、温かく、しっかりと。
「絶対に守り切るから」
耳元で囁く。その言葉にシエルの体が少しだけ力を抜いた。
「……ありがとう……」
シエルは涙目で小さく頷く――。
けれどレオンの心は穏やかではなかった。【運命鑑定】を失った今の自分に、最善の選択肢は見えない。ただ全力を尽くすしかないのだ。
シエルの銀髪が頬に触れ、その震える体温が伝わってくる。この温もりは、絶対に守る!
「行こう。みんなが待ってる」
「……うん」
レオンが手を差し出すと、シエルはその手をしっかりと握った。碧眼には恐怖と不安の中にも、レオンへの信頼の光が宿っている。
二人は再び走り出した。追手の声が遠くから聞こえる。けれど二人は諦めなかった。希望が待つ場所へ、必ず辿り着いてみせる――――。
◇
レオンは事前に調査しておいた、フェンスの壊れた場所を抜けた。そこから民家の庭に侵入する。洗濯物が干され、シーツが風に揺れている。その間を二人は駆け抜けた。
「あら!?」
庭にいた主婦が驚いて声を上げる。
「すみません! 通ります!」
レオンは謝りながら走る。裏口から路地に出て、また民家の庭を走る。シエルの手を引いて道なき道を、ただひたすらに駆けていく。
息が上がる。喉が渇く。足が痛い。けれど止まらない。止まれない。背後からまだ追ってくる気配がある。鎧の音が、じわじわと近づいてくる。
ピィィィィ!
「いたぞーー! あそこだ!」
時計台の上から指示が飛ぶ。さすが王国最強の騎士団、包囲探索能力も想像以上だった。
「くそっ! しつこい……!」
レオンの額に汗が滲む。シエルも必死についてきている。その顔は汗と涙で濡れていた。
やがて二人がたどり着いたのは、木々が茂る街で最も大きな公園だった。
「シエル! あの一番高い木の上に!」
「分かった!」
シエルは弓を背負い直すと、しなやかな動きで大木の幹を駆け上がった。まるでリスのように軽やかに枝から枝へと飛び移り、あっという間に木の上に姿を消す。
レオンも不器用に木を登り始める。
「レオン! 手を!」
シエルが手を伸ばしてくれた手を掴み、引っ張り上げてもらう。
ようやく太い枝の上にたどり着いて、やれやれという感じで息を整えるレオン。
木の葉がいい感じに二人を隠してくれていた。
次々と公園になだれ込んでくる騎士たち。その数、およそ三十。ガシャ、ガシャ、ガシャと重い足音が響く。
「どこだぁ!?」「探せぇ! 遠くへは行ってないはずだ!」
怒号が飛び交い、騎士たちが公園中を探し回っている。
木の上でレオンとシエルは身を寄せ合った。レオンがシエルを抱きしめ、シエルもレオンにしがみつく。二人の体温が重なり、心臓の音が聞こえる。ドクン、ドクン、ドクンと、二人とも激しく波打っている。
息を殺し、身じろぎもせず、ただ通り過ぎるのを待った。シエルの銀髪がレオンの頬に触れる。その髪は汗で湿っていた。レオンの腕の中で、シエルが小刻みに震えている。レオンはシエルを抱く腕に力を込めた。大丈夫、絶対に守る。そう無言で伝える。
時間が永遠のように感じられた。下では騎士たちが草むらを探り、茂みを調べ、噴水の裏を確認している。
頼む、気づかないでくれ。
レオンは心の中で祈った――――。



