日原先輩と月宮くんは飴と無知でできている



「……よりによってなんでここにいるんですか」
 体育館と部室棟を繋ぐ道。少ないヒントでようやく見つけた先に日原先輩はいた。夕焼けが差し込む境界線の手前に。俺が見つけられるのを当然かのような顔で微笑んで。
「だって俺たちっていったらここじゃん? 思ったより早くてびっくりしちゃった。上手く戻ってこれたんだね。褒めてあげるよ、おいで」
 学校の一番奥、人も過ぎ去った体育祭の後。昇降口では帰宅する生徒で溢れかえっているのに、逆走して来た理由なんてひとつしかない。この人に呼ばれたから。ただそれだけ。
 壁にもたれている日原先輩が手招きをする。言われるがままに近寄って、ほんの少し一定の距離を取った。
 だけど日原先輩は「もっとこっち」と腕を伸ばし、俺の手を掴んで抱きしめた。これじゃあまるで逃げられない。肩口に額を当てて熱くなった顔を隠すも、お見通しのようで、笑って耳元で俺の名前を囁いてきた。
「俺が今から何言うかわかる?」
 呼び返そうとする俺よりも先に、日原先輩は言葉を続けた。甘くて、暖かくて、受け入れてしまいたくなるような瞳で。
「何って、わかるっていうより……」
 言わなくてもと伝えれば、すぐ進んでしまうかもと思ったから。今さらだけど、まだ勇気が出なかった。とはいえ、いつまでもこのままじゃいられない。熱を持った頭を持ち上げて、日原先輩の顔を見る。俺と同じぐらい真っ赤な姿がそこにあった。
「いい?」
 いつもはあんまり同意を求めないくせに。指先が口の端を掠める。きゅっとシャツの裾を引いて、言葉を待った。
「――好きだよ、快くん。俺とずっと一緒にいて」
 好きだよ。頭の中で繰り返しながら、はい、と小さく頷いた。
 視界が夜に染まり、初めてのときよりも長い熱が唇に重なる。離れてもなお熱は冷めなくて、分け合うように指を深く絡めた。日原先輩が背負う先には、いくつもの方向から光が集まって輝きを放っていて、伸ばしたら手が届きそうで、目を細める。
「食べてくれた? 俺がこの前あげたやつ」
「当たり前じゃないですか。――一番、ですからね。あんたの。……だから俺も、これあげます」
 俺が差し出したのは、あの日最初にくれたのと同じレモンの飴。驚いて、笑って。やっぱりあんたってそういう表情が似合いますよね。
 この世界の太陽みたいに、眩しい笑顔が。