青春ボーイズ

 2年生最初のテストをなんとか切り抜け、朝陽高校にも夏がやってきた。茂也が珍しく、自分から各クラスをまわり、実行委員の2年生を第二理科室に集めた。
 理由は他でもない、文化祭の実行委員企画の最終調整だ。

 店名は「朝高(ちょうこう)焼きそば」。名前の通り、焼きそばを作って売る。販売は一般客に限定し、500食を用意する予定だ。

 「500人前か。」

 「このメンバーなら、1人で50人前? 1年生と3年生もお願いしたら、3人で50人前くらいになるか。」

 どの発言にもため息が混じっている。
 500食という途方もない数字は生徒会のみさきから出てきた数字だ。1クラス40人で10組までが3学年の全校生徒1,200人。それぞれ1人のお客さんを連れてきたとして、半分くらい食べるかなぁとして、最低限揃えておきたいギリギリのところだった。

 「そうなんだ。作るのはもちろん、売るのにも人数が要る。委員会のメンバーだけではとても足りないよ。」

 貞宗が口を尖らせて机に置いた手に体重をかけると、皆口々に「どうしようね」と言った。

 「なー、男ばっかだけどよ、サッカー部、出せるよ。」

 右手を耳につけてまっすぐ伸ばした三浦(みうら)が言った。彼はサッカー部で3年生が引退した今、部長になろうとしている。

 「バスケ部も行ける! 細かい動きは得意だよ。男子も連れてく?」

 女子バスケ部の田中(たなか)も言い出した。彼女も次期部長だ。

 「みんな、ありがとう!」

 茂也はガラに無く、深々と礼をした。
 これで人手の部分は不安解消だ。

 *

 蝉の鳴き声がうるさい、夏休み目前の放課後。貞宗と茂也は体育館前の生徒ホールで、朝高焼きそばの準備をしていた。

 「サダ、チラシの図案、こんな感じで来たんだけど、どう?」

 茂也は持ち前の人脈で、美術部にチラシの作成を依頼していた。できた図案は茂也の思惑通り、かつての文化祭を彷彿とさせる、お祭りノレンが印象的なイラストが中心だった。

 「お祭りっぽくていいな! ってか美術部にも知り合い居たのかよ。カメちゃん情報は?」

 「それが部長の3年生が仏頂面(ぶっちょうずら)で、聞かせてもらえる隙なんて無くてよ。」

 貞宗はそれを聞いてプッと吹き出した。

 「なんだよ!」

 「いや、狙っただろ。」

 貞宗は相変わらずニヤニヤしている。

 「聞けはしなかったんだけど、思い出したことあって。カメちゃんすぐに保育園辞めたけど、そのとき大福もらったのを思い出したんだよ。」

 茂也の言葉に、貞宗は記憶を手繰り寄せる。
 確かに食べた。柔らかくほんのり甘い餅の中にあんこが入った大福。

 ーこれ、…ちゃんちのおもちなんだよ!

 「誰の家だったんだろう?」

 「ん? なんだって?」

 「いや、だからあのとき食べた大福。誰かの家の大福だったはずだけど。」

 話しているうちに茂也のハの字眉も解かれ、同じエピソードを思い出したようだ。

 「カメちゃんち、じゃね?」

 今度は貞宗の顔が明るくなった。

 「たしかに! 学園町の栄福堂(えいふくどう)って、一回閉店してたもんな。」

 「そうだったんだ。俺は引っ越してて知らなかったけど。じゃあ決まりだな。」

 カメちゃんの糸口が見つかり、2人はハイタッチをして、にこやかに過ごしていたが、例のチラシの一部が貞宗の目に留まり空気は一転した。

 「なあ。値段350円って、誰が決めたんだよ。」

 チラシには大きく「350」とゴシック体で描かれている。

 「俺が計算しといたんだ。材料費と光熱費と計算したらピッタリ350円になったんだよ。いやー、みさきってそこまで計算して500人前って言ってたのかな。」

 貞宗のため息がホール全体を包み込み、茂也の背中にはこの猛暑の中ゾワゾワと冷たいものが走った。

 「…絶交だ。もう、もうシゲには付き合えない。」

 静かだけど確実に伝わる声で、貞宗はつぶやき、生徒玄関に消えていった。
 生徒ホールには体育館から漏れ聞こえるバレー部のボールの音だけが響いていた。

 *

 翌日。委員長の招集で夏休み前最後に実行委員会が開かれた。もちろん生徒会のみさきも同席だ。いつもの席で貞宗と茂也は目を合わせないで、険悪な空気を放っている。

 「じゃあチラシができたから、夏休み前にこれだけ確認してもらいたくて。あと細かい役割分担は夏休み明けだけど、みんなお力添えいただけるってことでいいんだよね?」

 3年生から順にチラシが流れてくる中、1年生も3年生も、もちろん2年生も大きくうなずいた。

 「あと、サッカー部とバスケ部も。」

 「はい。男ばかりですが。」

 「顧問と部員の許可ももらってまーす。」

 三浦と田中が委員長に報告した。委員長が確認したかったことが確認し終わる頃、貞宗のところにもチラシがやってきた。

 「あ。」

 300。

 そこだけ、明らかに太いマジックで二度描きしたようなガタガタした線になっている。他は美術部の漫画のように細い線なのに。

 「やっぱ50円が気になってたの?」

 「え? うん。」

 貞宗に声をかけてきたのはバスケ部の田中だった。

 「やっぱり。昨日アップ終わって体育館行こうとしたら、1人でショゲてんだもん。みさきも通りかかって、50円じゃね? ってなって。」

 「お釣りがすごく大変になるから…。」

 「うん、だよね! 2人でがっつり言っておいたから、絶交は無しにしてあげて。松島くんも居ないと星くんだけなら暴走しちゃいそうだから。」

 「おい!」

 茂也は上目遣いに貞宗の様子を確認しながら貞宗の方に向き直ってきた。

 「何でもかんでも『絶交』ってガキかよ。今度からちゃんと理由言ってくれよな。」

 「シゲもガキみたいに勝手に突っ走んなよ。絶交終わりだ。ってか、話せてよかったじゃん。」

 「え? 何がよかったって?」

 「違う! こっちの話!」

 田中の話を遮る茂也は息が上がっていた。