ねぇ、ちょっと昔の友達を探してるんだけど、保育園ってどこだった?」
「え? 私、幼稚園だけど。美鳥幼稚園。」
貞宗は次の日から手当たり次第に「被害者の女子」を探し始めた。まずは隣の席のボブをひとつ結びにしている真面目系女子。
「そっかぁ。俺、第二中島保育園だったんだよね。同じ保育園だった知り合いとか、居ない?」
「いやー、どこ中とかは知ってるけど、さすがに友達の保育園までは把握してないよ。」
ボブひとつ結びは首を傾げながら、手元の文庫本に目線を戻していった。
「そっかぁ。もし、知り合いで第二中島保育園の子が居たら教えてくれる?」
「あぁ、うん…。」
「お疲れ〜、次の単語テストどこだっけ?」
「72ページからだよ。」
「オッケー。」
ボブひとつ結びの周りに女子が集まってきて、ボブひとつ結びも単語帳を開き始めた。集まった女子に保育園を聞いてくれないのもどうかと思ったが、貞宗もとりあえず目先の単語テストに目を移した。
「やーん、お前もか…。」
茂也は両手で頭を後ろから押さえて、のけぞっている。
(あれ? 星茂也って。)
(そうそう! もー! しつこく幼稚園の思い出話してきて、気味悪いの。)
(うわっ。もう15年とか前じゃん。過去の栄光なんだか、未練がましいんだか。)
いつものように、体育館前生徒ホールで文化祭の企画を詰めていると、女子からの冷ややかな視線を感じた。
「なあ、なんか『星茂也がどうのこうの〜』ってウワサされてね?」
「あーん? あー、あの子たち今日ナンパ風に保育園のカメちゃん知らないか、聞いた子たち。」
貞宗と茂也の間では、探し求めている保育園時代の被害者を「カメちゃん」と、呼んでいた。
「マジかよ…。あんだけ言われるってことは、酷い聞き方したんじゃねぇの?」
「うーん、フツーに肩組む勢いで聞いただけだけどなぁ。」
「だから、そういうところ!」
茂也が本当に声をかけた女子はそう多くないはずなのに、体育館へ向かう女子は全員と言っていいくらいほとんどがこちらに冷たい視線を送って来ていた。
「なあ、こういうこと聞くのめっちゃ抵抗あるんだけど、シゲってもしかして、彼女いない歴…。」
「わあああああ!!! それ以上言うな!」
茂也は丸い顔をリンゴのように赤くして、両手で貞宗の口を塞ぎにかかる。
「大丈夫だ。俺も。」
「なーんだ。」
茂也は前屈みになっていた上体を一気にベンチに落とす。
「え〜、好きなタイプは?」
「お前に返すわ! サダのタイプは?」
「俺は可愛い系。ちょっと小さめで守ってあげたくなるような子がタイプ。」
茂也はそれを聞くと鼻の下を伸ばしてニタニタしてきた。
「シゲは? もしかして男?」
「いや、女の子が好きだけど、そうかもな。」
「えー!」
「いやいや、性格がね。男の子っぽいってか、カッコイイ系? 頼りになる、しっかりしてる子がいい。」
「へ〜。ヤンチャそうなのに、意外。」
「意外ってなんだよ!」
そんなことを話しているうちに、生徒の帰宅を促す17時のチャイムが鳴った。
「やべー。また企画が進まなかった。」
「うーん、ちょっと厳しいかもな。50店舗なんて、もはやどこで何やってるかわからんレベルだし、素人になってしまった俺らには店員もお客さんも、把握できるレベルじゃないと…。」
「サダ! サダ、サダ!! それだよ、それ!!」
家に帰り、茂也から貞宗の言葉をヒントにした案がラインで送られて来た。貞宗はOKスタンプで返事をした。
*
「へー、数店舗ねぇ。」
「な! これなら店員やお客さんの動きも実行委員で把握できるし、現実的じゃねぇ? って思ったんだけど…。」
数日後の朝。2人は生徒会室に直談判にやって来た。みさきはいつも通り先生用のクルクル椅子に座り、脚を組んで椅子をクルクルしている。茂也は自信満々のはずなのに、語尾に覇気がなかった。
「店は? なんの店にするの?」
「まずはカラフルなドリンクだろ。それからお祭りといえば焼きそばに、焼き鳥に…、クレープとか?」
「だから、そこは…。」
事前の打ち合わせになかったところを茂也の独断で言ってしまうものだから、貞宗は頭を抱えてしまっている。その様子をみさきもため息をつきながら見ていた。
「はー、店の中身となると、頭の中お花畑だな。とりあえず、焼き鳥は無しだ。外で焼かないと匂いがヤバいのに、雨が降ったら詰む。」
「あと、クレープも難しいんじゃない? 工程が多いし、ナマモノの食中毒も怖いし。ジュースこぼされても、ねぇ。」
「サダまでそんなこと言うのかよ…。でも、焼きそばは譲れないからな。朝陽の文化祭といえば、焼きそばだったんだから。」
茂也は拳を握りながら、震えそうな脚を必死に押さえている。
「焼きそばなら切って焼くだけだし、事前に蒸せば光熱費も節約できるし、行けるんじゃないの? 焼きそば1店舗が落とし所かな。」
「え!? オッケーってこと??」
茂也は前のめりになった。
「まだまだ甘いけどね。一般客に絞ったとして100、いや500人前は必要だな。どうさばくか見ものだね。」
「マジか! えー、あ、ありがとう!!」
茂也は礼もせずに生徒会室を飛び出した。
「ちょっと! ちゃんと細かいところ、詰めるんだよー!」
「うん、わかった! ありがとう、小倉さん。」
無礼な茂也の分も貞宗が礼を重ね、生徒会室をあとにした。
「シゲ、急に飛び出すとか、ガキかよ。」
「いやー、ごめんごめん。ちょっと嬉しくて。」
そう言って頭をかく茂也は耳まで顔を赤くして、口角が上がりっぱなしだった。貞宗は遠い昔にこの顔を見たことがある。例のカメちゃんにプレゼントしよう、と決めた時。
「なあ、勘違いだったら悪いんだけどよ。」
「どうしたんだよ、改まって。」
「もしかして、シゲ、小倉さんのこと、好き?」
茂也は大股で貞宗のところまでやって来て、両手で貞宗の口をふさいだ。耳まで顔を赤くして、眉はハの字を描いている。
ああ図星だ。貞宗は確信の笑みを浮かべた。
「え? 私、幼稚園だけど。美鳥幼稚園。」
貞宗は次の日から手当たり次第に「被害者の女子」を探し始めた。まずは隣の席のボブをひとつ結びにしている真面目系女子。
「そっかぁ。俺、第二中島保育園だったんだよね。同じ保育園だった知り合いとか、居ない?」
「いやー、どこ中とかは知ってるけど、さすがに友達の保育園までは把握してないよ。」
ボブひとつ結びは首を傾げながら、手元の文庫本に目線を戻していった。
「そっかぁ。もし、知り合いで第二中島保育園の子が居たら教えてくれる?」
「あぁ、うん…。」
「お疲れ〜、次の単語テストどこだっけ?」
「72ページからだよ。」
「オッケー。」
ボブひとつ結びの周りに女子が集まってきて、ボブひとつ結びも単語帳を開き始めた。集まった女子に保育園を聞いてくれないのもどうかと思ったが、貞宗もとりあえず目先の単語テストに目を移した。
「やーん、お前もか…。」
茂也は両手で頭を後ろから押さえて、のけぞっている。
(あれ? 星茂也って。)
(そうそう! もー! しつこく幼稚園の思い出話してきて、気味悪いの。)
(うわっ。もう15年とか前じゃん。過去の栄光なんだか、未練がましいんだか。)
いつものように、体育館前生徒ホールで文化祭の企画を詰めていると、女子からの冷ややかな視線を感じた。
「なあ、なんか『星茂也がどうのこうの〜』ってウワサされてね?」
「あーん? あー、あの子たち今日ナンパ風に保育園のカメちゃん知らないか、聞いた子たち。」
貞宗と茂也の間では、探し求めている保育園時代の被害者を「カメちゃん」と、呼んでいた。
「マジかよ…。あんだけ言われるってことは、酷い聞き方したんじゃねぇの?」
「うーん、フツーに肩組む勢いで聞いただけだけどなぁ。」
「だから、そういうところ!」
茂也が本当に声をかけた女子はそう多くないはずなのに、体育館へ向かう女子は全員と言っていいくらいほとんどがこちらに冷たい視線を送って来ていた。
「なあ、こういうこと聞くのめっちゃ抵抗あるんだけど、シゲってもしかして、彼女いない歴…。」
「わあああああ!!! それ以上言うな!」
茂也は丸い顔をリンゴのように赤くして、両手で貞宗の口を塞ぎにかかる。
「大丈夫だ。俺も。」
「なーんだ。」
茂也は前屈みになっていた上体を一気にベンチに落とす。
「え〜、好きなタイプは?」
「お前に返すわ! サダのタイプは?」
「俺は可愛い系。ちょっと小さめで守ってあげたくなるような子がタイプ。」
茂也はそれを聞くと鼻の下を伸ばしてニタニタしてきた。
「シゲは? もしかして男?」
「いや、女の子が好きだけど、そうかもな。」
「えー!」
「いやいや、性格がね。男の子っぽいってか、カッコイイ系? 頼りになる、しっかりしてる子がいい。」
「へ〜。ヤンチャそうなのに、意外。」
「意外ってなんだよ!」
そんなことを話しているうちに、生徒の帰宅を促す17時のチャイムが鳴った。
「やべー。また企画が進まなかった。」
「うーん、ちょっと厳しいかもな。50店舗なんて、もはやどこで何やってるかわからんレベルだし、素人になってしまった俺らには店員もお客さんも、把握できるレベルじゃないと…。」
「サダ! サダ、サダ!! それだよ、それ!!」
家に帰り、茂也から貞宗の言葉をヒントにした案がラインで送られて来た。貞宗はOKスタンプで返事をした。
*
「へー、数店舗ねぇ。」
「な! これなら店員やお客さんの動きも実行委員で把握できるし、現実的じゃねぇ? って思ったんだけど…。」
数日後の朝。2人は生徒会室に直談判にやって来た。みさきはいつも通り先生用のクルクル椅子に座り、脚を組んで椅子をクルクルしている。茂也は自信満々のはずなのに、語尾に覇気がなかった。
「店は? なんの店にするの?」
「まずはカラフルなドリンクだろ。それからお祭りといえば焼きそばに、焼き鳥に…、クレープとか?」
「だから、そこは…。」
事前の打ち合わせになかったところを茂也の独断で言ってしまうものだから、貞宗は頭を抱えてしまっている。その様子をみさきもため息をつきながら見ていた。
「はー、店の中身となると、頭の中お花畑だな。とりあえず、焼き鳥は無しだ。外で焼かないと匂いがヤバいのに、雨が降ったら詰む。」
「あと、クレープも難しいんじゃない? 工程が多いし、ナマモノの食中毒も怖いし。ジュースこぼされても、ねぇ。」
「サダまでそんなこと言うのかよ…。でも、焼きそばは譲れないからな。朝陽の文化祭といえば、焼きそばだったんだから。」
茂也は拳を握りながら、震えそうな脚を必死に押さえている。
「焼きそばなら切って焼くだけだし、事前に蒸せば光熱費も節約できるし、行けるんじゃないの? 焼きそば1店舗が落とし所かな。」
「え!? オッケーってこと??」
茂也は前のめりになった。
「まだまだ甘いけどね。一般客に絞ったとして100、いや500人前は必要だな。どうさばくか見ものだね。」
「マジか! えー、あ、ありがとう!!」
茂也は礼もせずに生徒会室を飛び出した。
「ちょっと! ちゃんと細かいところ、詰めるんだよー!」
「うん、わかった! ありがとう、小倉さん。」
無礼な茂也の分も貞宗が礼を重ね、生徒会室をあとにした。
「シゲ、急に飛び出すとか、ガキかよ。」
「いやー、ごめんごめん。ちょっと嬉しくて。」
そう言って頭をかく茂也は耳まで顔を赤くして、口角が上がりっぱなしだった。貞宗は遠い昔にこの顔を見たことがある。例のカメちゃんにプレゼントしよう、と決めた時。
「なあ、勘違いだったら悪いんだけどよ。」
「どうしたんだよ、改まって。」
「もしかして、シゲ、小倉さんのこと、好き?」
茂也は大股で貞宗のところまでやって来て、両手で貞宗の口をふさいだ。耳まで顔を赤くして、眉はハの字を描いている。
ああ図星だ。貞宗は確信の笑みを浮かべた。



