生徒会室から2学年教室へ向かう茂也は肩を落としていた。
「はぁ、せっかく4階まで登ったのによ。」
「次の委員会で、って話だったもんな。委員会で話したら、きっとOKもらえるさ。」
「で、それだけ?」
貞宗の「きっと」に反し、委員会でもみさきの風当たりは強かった。
「それだけって、出店を復活させるって充分な案じゃねぇのか?」
茂也の案はコロナの簡素化で消滅した文化祭の出店を復活させるというものだった。
コロナをきっかけに、飲食はダメ、ミツはダメ、となっていくと、出店は無くなり学校の中に絵画や新聞などの作品を展示するに留まる文化祭となっていた。
「出店の種類は? 規模は? 誰が出すの?」
「はぁ!? んなもん、これからに決まってんだろ。」
みさきはお得意のクルクル椅子に脚組みで、メガネの上から視線を送る。
「これからじゃ困るの。あのね、店を出すのにどれだけの手続きと準備が必要か、わかってる? もっと詰めてから言ってちょうだい。」
ため息を漏らしながら出ていくみさきを委員長が追いかけて出て行った。
「うっわ、マジかよ。」
「そんなに詰めてから提案しないといけないなら、先に言ってくれよな。先週行ったんだからよ。」
発案者茂也は両腕で頭を抱えて机に突っ伏している。貞宗は天を仰いでいる。
「本当に星くんの提案に穴があったとしても、あの言い方は無くない?」
「やっぱ星くんの言う通り、怠慢かもなぁ。」
茂也と貞宗任せにしていた2年生からはそんな声が漏れてくる。やっと茂也の真理が証明されつつあるところで茂也が顔を上げた。
「じゃあ、細かいとこ、詰めっか! 種類とか、規模とか、誰が出すのかとか。よーし、燃えるぜ!」
「はぁ!? 今みんなお前の味方して落ち込んでたのに、切り替えハヤ!!」
「ん? なんか変なこと、言ったか?」
茂也は何事もなかったかのように、文化祭の企画詳細を詰め始めた。
それは放課後も続いていた。貞宗は科学部の活動もない日だったので、茂也にくっついて、1階の体育館前生徒ホールで2人きりの企画会議に付き合っていた。
「あー、やっぱ、無理か…。」
「うーん。どう計算しても、50店舗出すなら1店舗あたり2人しか割けないね。これじゃ店舗が回らないよ。」
出店を出していた頃は、出店担当の生徒はそれだけに集中して、ほかのポスター制作や劇の発表には関知しないことになっていたらしい。今回もそのように仮定すると、諸々の企画から最低限必要な人員を引いて、1店舗あたり2人という数字が出てきていた。
「あぁ〜! 俺が再現したいのは、あの文化祭なんだよ。サダは覚えてねぇか? 保育園で行った、あの頃の文化祭。」
貞宗もちゃんと覚えている。
かつての朝陽高校文化祭といえば、生徒玄関から校門まで、各クラスや部活から50店舗近い出店を出して、ちょっとした、それこそお祭り気分を味わえるものになっていた。
「あのお祭り気分でよ、みんなを楽しませたいんだ。」
「シゲは昔っから、ひとを楽しませるのが好きだよなぁ。」
「サダもじゃん!」
「キャー! クモ!!」
2人が笑い合っている横で、女子が蜘蛛と格闘しているようだ。その様子が貞宗のある記憶を呼び起こした。
「なぁ、あの時もそうだったよな。」
あれは、年中さんの頃。
保育園では友だちにプレゼントを渡すのが流行っていた。プレゼントといっても花で作った冠とか、自分で描いた絵とか、子どもが自分の力でなんとかできるもの。
ーなぁ! …ちゃんのたんじょうび、これわたそう!
そう言い出したのは貞宗だったと記憶している。もう誰だったかも覚えていないその女の子のために貞宗と茂也は外遊びの時間、あるものを集めて箱にしまっていた。
ーおたんじょうび、おめでとう!
ーキャー!!!
女の子は喜ぶどころか、箱を落としてギャン泣き。その様子を見て貞宗と茂也もギャン泣き。みんなで泣いているものだから先生がすぐにやって来て、状況を理解してくれた。
ーだれ! こんなものわたしたのは!!
箱からこぼれていたのは、大量のカメムシだった。
「あの子、誰だっけ?」
「覚えてないな。あの後すぐに保育園やめちゃったし。」
そう言う茂也は口を尖らせている。
「なぁ。」
「ん?」
茂也は口を尖らせておとといのほうを見ながら話しかけた。
「あれ、絶対、俺らが悪かったよな。」
「うん。100%俺ら。」
風に吹かれて、窓に見える小枝が遠くに飛んでいった。貞宗は両手で頭をかいて「あー」とうなっている。
「あーっ! 謝りてぇな! なんか、思い出したらムズムズして来た。」
「俺も。なんか、このまま大人になりたくねぇよ。」
「はぁ、せっかく4階まで登ったのによ。」
「次の委員会で、って話だったもんな。委員会で話したら、きっとOKもらえるさ。」
「で、それだけ?」
貞宗の「きっと」に反し、委員会でもみさきの風当たりは強かった。
「それだけって、出店を復活させるって充分な案じゃねぇのか?」
茂也の案はコロナの簡素化で消滅した文化祭の出店を復活させるというものだった。
コロナをきっかけに、飲食はダメ、ミツはダメ、となっていくと、出店は無くなり学校の中に絵画や新聞などの作品を展示するに留まる文化祭となっていた。
「出店の種類は? 規模は? 誰が出すの?」
「はぁ!? んなもん、これからに決まってんだろ。」
みさきはお得意のクルクル椅子に脚組みで、メガネの上から視線を送る。
「これからじゃ困るの。あのね、店を出すのにどれだけの手続きと準備が必要か、わかってる? もっと詰めてから言ってちょうだい。」
ため息を漏らしながら出ていくみさきを委員長が追いかけて出て行った。
「うっわ、マジかよ。」
「そんなに詰めてから提案しないといけないなら、先に言ってくれよな。先週行ったんだからよ。」
発案者茂也は両腕で頭を抱えて机に突っ伏している。貞宗は天を仰いでいる。
「本当に星くんの提案に穴があったとしても、あの言い方は無くない?」
「やっぱ星くんの言う通り、怠慢かもなぁ。」
茂也と貞宗任せにしていた2年生からはそんな声が漏れてくる。やっと茂也の真理が証明されつつあるところで茂也が顔を上げた。
「じゃあ、細かいとこ、詰めっか! 種類とか、規模とか、誰が出すのかとか。よーし、燃えるぜ!」
「はぁ!? 今みんなお前の味方して落ち込んでたのに、切り替えハヤ!!」
「ん? なんか変なこと、言ったか?」
茂也は何事もなかったかのように、文化祭の企画詳細を詰め始めた。
それは放課後も続いていた。貞宗は科学部の活動もない日だったので、茂也にくっついて、1階の体育館前生徒ホールで2人きりの企画会議に付き合っていた。
「あー、やっぱ、無理か…。」
「うーん。どう計算しても、50店舗出すなら1店舗あたり2人しか割けないね。これじゃ店舗が回らないよ。」
出店を出していた頃は、出店担当の生徒はそれだけに集中して、ほかのポスター制作や劇の発表には関知しないことになっていたらしい。今回もそのように仮定すると、諸々の企画から最低限必要な人員を引いて、1店舗あたり2人という数字が出てきていた。
「あぁ〜! 俺が再現したいのは、あの文化祭なんだよ。サダは覚えてねぇか? 保育園で行った、あの頃の文化祭。」
貞宗もちゃんと覚えている。
かつての朝陽高校文化祭といえば、生徒玄関から校門まで、各クラスや部活から50店舗近い出店を出して、ちょっとした、それこそお祭り気分を味わえるものになっていた。
「あのお祭り気分でよ、みんなを楽しませたいんだ。」
「シゲは昔っから、ひとを楽しませるのが好きだよなぁ。」
「サダもじゃん!」
「キャー! クモ!!」
2人が笑い合っている横で、女子が蜘蛛と格闘しているようだ。その様子が貞宗のある記憶を呼び起こした。
「なぁ、あの時もそうだったよな。」
あれは、年中さんの頃。
保育園では友だちにプレゼントを渡すのが流行っていた。プレゼントといっても花で作った冠とか、自分で描いた絵とか、子どもが自分の力でなんとかできるもの。
ーなぁ! …ちゃんのたんじょうび、これわたそう!
そう言い出したのは貞宗だったと記憶している。もう誰だったかも覚えていないその女の子のために貞宗と茂也は外遊びの時間、あるものを集めて箱にしまっていた。
ーおたんじょうび、おめでとう!
ーキャー!!!
女の子は喜ぶどころか、箱を落としてギャン泣き。その様子を見て貞宗と茂也もギャン泣き。みんなで泣いているものだから先生がすぐにやって来て、状況を理解してくれた。
ーだれ! こんなものわたしたのは!!
箱からこぼれていたのは、大量のカメムシだった。
「あの子、誰だっけ?」
「覚えてないな。あの後すぐに保育園やめちゃったし。」
そう言う茂也は口を尖らせている。
「なぁ。」
「ん?」
茂也は口を尖らせておとといのほうを見ながら話しかけた。
「あれ、絶対、俺らが悪かったよな。」
「うん。100%俺ら。」
風に吹かれて、窓に見える小枝が遠くに飛んでいった。貞宗は両手で頭をかいて「あー」とうなっている。
「あーっ! 謝りてぇな! なんか、思い出したらムズムズして来た。」
「俺も。なんか、このまま大人になりたくねぇよ。」



