神戸北野 まどろみ異人館の魔法使い 〜猫とお菓子と、やさしい魔法〜

 
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 やがて辿り着いた先には、確かに公園があった。
 坂道の途中、住宅街の中にひっそりと佇む子どもたちの遊び場。入口に立つ銘板(めいばん)には『山本通東公園』とある。

 元は洋画家のアトリエがあったというこの敷地は、今は外国人向けの社交場や教会などに囲まれていた。

 虹の光はその広場の端、花壇の茂みへと降り注いでいる。

「ルナ。そこにいるのか?」

 オーナーが声をかけ、私たちはそこへ近づいていく。
 早朝の公園内には他に人の気配はなく、私たちの足音だけが響いていた。

 花壇には低木が植わっており、ぱっと見た程度ではそこに何かがいるとは思えない。
 しかし、耳を澄ませて神経を集中させてみれば、何者かの息遣いが確かに感じられた。

「ルナ?」

 オーナーは土の上に膝をつき、茂みをかき分けていく。
 すると、乱雑に生えた雑草に紛れて灰色の毛玉がそこに転がっていた。

 ロシアンブルーの猫。
 本来の姿に戻ったルナさんが、眠るようにしてそこに横たわっていた。

「ルナ!」

 オーナーは血相を変えてその体に手を伸ばす。そうして抱き上げた彼女の全身は、泥水に塗れて一回り小さくなっていた。

「体が冷たい……。ルナ、しっかりしろ!」

「ルナさん!」

「リーダー」

 昨夜の雨にずっと濡れていたのだろうか。
 その場の誰もが固唾を飲んで見守る中、何度目かの呼びかけで、彼女の瞳がわずかに開く。

「あっ。リーダー、気がついた!」

 クロが安堵の声を漏らしたものの、ルナさんの容態についてはまだ安心できなかった。意識があるとはいえ、体が弱っているのは火を見るより明らかだ。

「なーん……」

 ルナさんはオーナーの腕に四肢を預けたまま、頼りなく首を持ち上げて空を仰いだ。
 消え入りそうなその声は、何かを訴えているようにも思える。

「どうしたルナ? 誰か、彼女の言葉を通訳してくれ!」

 猫の言葉は人間にはわからない。
 オーナーが助けを求めると、すぐさまその役目を引き受けたのはおじいさんだった。

「……『この虹は、あなたの魔法ですか?』」

 ルナさんの言葉を、おじいさんが代弁する。
 彼女のブルーの瞳は、自らに注がれる七色の光を見上げていた。

「いいや。僕が魔法を使おうとしたわけじゃない。みんなの祈りが、この虹を出現させたんだ。君のことを思って……」

 そんなオーナーの言葉を受けて、ルナさんは再び小さく鳴き、おじいさんが通訳する。

「『ずっと昔にも、似たようなことがありました。あの時は、あなたのおばあ様が、この虹を目印にして私を迎えにきてくださったのです』」

 その告白は、かつてオーナーのおばあ様が語っていた虹の麓のお話を彷彿させた。

「『私がまだ仔猫だった頃、私はこの公園で息絶えようとしていました。母猫の居場所がわからず、お腹も空いて動けなくて、もはやこれまでと諦めかけていたのです。そんな時に、この虹の光が空から降ってきて、おばあ様はここへやってきたのです』」

 二十年前。ルナさんをたまたま拾ったと笑っていたおばあ様。
 その話がここに繋がっているのだとしたら、彼女もまたこの虹に導かれてルナさんを見つけたのだ。