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一日の仕事を終えると、私とオーナーは毎日欠かさず厨房で顔を合わせた。
特に約束などはしなくても、まるで示し合わせたかのようにお互いが同じ時間にそこへ足を運ぶのだ。
「絵馬に頼まれてたマカロンの生地、今朝焼いておいたよ」
オーナーの手元のお皿には、小麦色のマカロン生地が並んでいる。丸い形とドーナツ型の二種類があり、この二つで真ん中のクリームを挟むのだ。
「私もチョコレートクリームを用意しました。冷凍してあるので、しっかり固まっているはずです」
私は冷凍庫からそれを取り出す。
型に流し込んだチョコレートの中には、砂糖や卵、生クリームの他にもアプリコット、クランベリー、ヌガチン(ナッツ類を飴で固めたもの)を細かく刻んだものを混ぜてある。
二人でそれぞれ用意したものをテーブルに乗せ、最後の仕上げに取り掛かる。
凍らせたチョコレートクリームを型から外し、さらにアーモンドクリームのグラサージュを塗る。それを接着剤の代わりにして、マカロン生地で挟む。
ドーナツ型のマカロンを上にして、そこにヌガチンの残りとセミドライフルーツを乗せれば完成だ。
「できた!」
私とオーナーの声が重なった。
ナッツの香ばしさとフルーツの酸味を閉じ込めた、チョコレートクリームをサンドしたマカロン。
私とオーナーとで初めて一緒に作ったお菓子だ。
「なんだか食べるのがもったいないね」
オーナーはどことなく達成感を滲ませた笑みを浮かべる。
「そうですね。でもあまり日持ちはしませんし、明日中にはみんなに食べてもらいましょうか」
明日の朝か、遅くても夜のデザートに——と二人で話を進めていたところで、ふとオーナーが窓の方に目をやった。
どうしたんだろう、と思って私もそちらを見ると、
「あ」
夜闇に浮かんだ月を映し出す窓辺に、三つの丸い影があった。
ふわふわの体毛に、細長い尻尾。頭の上には三角形の耳が二つ。
きらりと光る円らな瞳が、こちらをロックオンしている。
「そこにいるのって、もしかして猫ちゃん?」
あきらかに猫のシルエットが三つ、窓の外に並んでいた。
オーナーがすぐさま窓を開けて「おいで」と声を掛けると、三匹ともすぐに中へ入ってくる。
白猫、黒猫、茶トラ……見覚えのある三匹のうち、黒猫がすぐさま人間の少女の姿に変身して歓喜の声を上げた。
「甘くて良いにおい! これってもしかしてチョコレート!?」
甘いものに目がないクロは、今にもマカロンに飛びかからん勢いでテーブルの周りをぐるぐるしている。
他の二匹もクロほどではないものの、甘い香りに釣られてテーブルのそばに歩み寄る。
「ちょうどいい。みんなで食べようか」
オーナーが言うと、クロは飛び上がって喜び、隣の二匹も嬉しそうに尻尾をピンと立てる。
すぐさま紅茶とコーヒーを用意すると、厨房はたちまちカフェへと様変わりした。
「あの、オーナー。後で一緒に、ルナさんにもマカロンを渡しに行きませんか?」
満足顔でマカロンを頬張る三人を横目に、私はオーナーに提案した。
この賑やかな部屋に、彼女だけがいない。
せっかく同じ館に住んでいるのに、一人だけ蚊帳の外になるのはいたたまれなかった。
美味しいものは、みんなで味わいたい。
どれだけささやかな幸せでも、味わう時はみんな一緒がいい。
「そうだな。厨房を片付けたら一緒に行こう」
そう話し合う私たちの隣で、三人はぺろりとマカロンを完食した。
コーヒーを飲み干したコハクが、珍しく「うまかった」と呟いた。



