「祖母は、僕の憧れだった。……彼女の娘である母も、きっと僕と同じ気持ちだったと思う」
オーナーのお母様。
そういえば、今この家には彼と血の繋がっている家族はいない。
ご両親はどこか別の場所で離れて暮らしているのだろうか。
ふと浮かんだその疑問に応えるように、オーナーは続けた。
「両親は、僕がまだ幼い頃に亡くなった。ちょうど君が生まれたくらいの頃かな」
彼は今度は冷蔵庫を開けると、中から私の作りかけのケーキを取り出した。一緒に冷やしていた生クリームも取り出して、口金をセットした絞り袋に入れる。
ケーキの天辺に、生クリームを絞って飾り付けをしていく。
ピンクのグラサージュが滴るケーキの上に、薔薇の蕾の形をした白い生クリームが並べられていく。
「昔、大きな列車事故があってね。両親と僕の三人は、それに巻き込まれたんだ」
「列車事故……」
それには私も覚えがあった。
私が生まれてまだ間もない頃、今から二十年ほど前。県内で電車の脱線事故があり、多数の死傷者が出た。
私はまだ小さかったので、当時の様子を直に見たわけじゃない。けれど事故のことは全国ニュースで取り上げられる程の規模だったので、今でも語り継がれている。
「父は助からなかった。僕は瀕死の重傷を負った。唯一無事だったのが母だった。そして母は……僕と同じ、未熟な魔法使いだった」
嫌な予感がした。
彼の言う未熟な魔法使いとはつまり、魔法を使うことで代償を払う運命にある人のこと。
「もしかして、オーナーのお母様は……」
生クリームを搾り終えると、最後はフルーツの飾り付けだった。
オーナーはイチゴとラズベリーとブルーベリーとを素早く水で洗い、キッチンペーパーで水気を拭き取る。
さらにペティナイフでイチゴのヘタを切り落とし、実は真っ二つになるようにカットしていく。
「母は僕を助けようとして、魔法を使ったんだ。その代償として長い眠りにつき、二度と目を覚まさなかった」
カツン、とナイフがまな板に当たる音が響いた。
オーナーはイチゴと向き合ったまま、こちらと目を合わせようとしない。
「僕ら一族の魔法は、誰かの願いを叶える形で発動する。事故に遭ったあの時……死にかけていた僕は、母に『助けて』と言ってしまったんだ。痛くて怖くて、どうすればいいのかわからなくて……そんな僕の言葉が、母に魔法を使わせた。僕の願いが、母の命を奪ったんだ」
カツン、とまた音が上がった。
真っ二つになったイチゴの片割れが、まな板の上を転がって床に落ちる。



