神戸北野 まどろみ異人館の魔法使い

 
 オーナーと二人でお菓子をつくる。
 お菓子づくりを仕事にする、というのは、私がずっと思い描いていた夢だ。

「絵馬さえよければ、僕と一緒にカフェをやってもらえないかな?」

 目の前に突如として現れた、幸運の糸。
 もはや運命としか思えない巡り合わせに、私はたまらず胸を高鳴らせる。

「わ、私……」

 願ってもない展開に、つい気持ちが昂って舌がもつれてしまう。
 落ち着け自分、と心の中で言い聞かせているうちに、そこへふわりと甘い香りが漂ってきた。

 釣られて目をやると、道の脇には一軒の店があった。白壁とレンガとを組み合わせた可愛らしい建物で、入口の(ひさし)には『パティスリー』の文字がある。

 ガラス張りの扉の奥には、ショーケースに並んだカラフルなケーキたち。さらに窓の方からは厨房の様子も見え、白い制服を着た店員が生クリームを絞っているところだった。

 パティシエだ、と思った。
 私がなりたくてもなれなかった、夢の職業。

 窓の向こうで真剣に働いているその人物に思わず見入っていると、再びオーナーが口を開く。

「もちろん、絵馬が嫌なら無理にとは言わない。もともと勤務内容は基本的な家事と雑務だけの契約だし」

「い、いえ! 私っ……ぜひともやらせていただきたいです。オーナーさえご迷惑でなければ」

 興奮気味に私が返すと、オーナーは「ほんと?」と顔全体を綻ばせる。

「そう言ってもらえると嬉しいよ。絵馬がいてくれるなら、本当にカフェを再開できるかもしれない……あとは、ルナが納得してくれるかどうかだな」

「ルナさん?」

「ああ。僕がカフェをやることに一番反対しているのは、ルナなんだ」

 人一倍真面目で、オーナーの身を案じているルナさん。彼女の性格から考えると、確かに説得するのは難しそうだ。

 とはいえ、オーナーはその呼び名の通りあの館の主人であるわけだし、ルナさんの飼い主でもあるのだから、最終的な決定権はオーナーが握っているのではとも思う。

「オーナーがやると決めたことなら、さすがのルナさんも強く反対はできないんじゃないですか?」

「そうだね。僕が自信を持って彼女を説得すれば、彼女も折れてくれるとは思う。ただ、僕には一つ後ろめたいことがあって……」

 そこで彼は、またあの顔をした。
 おそらくはこれから話そうとしている内容に、その理由が含まれているのだろう。

「オーナー。それは、私には話しにくいことですか?」

 もしも私に知られたくないことであれば、無理に話さなくていい。そう伝えたけれど、オーナーは静かに首を横に振る。

「いや。この際、絵馬にはちゃんと伝えておきたい。もともと隠すつもりはなかったんだ。でも、今の状況だと僕は、君に一つ嘘を吐いていることになる」

「嘘?」