「どういう、ことですか?」
美味しいお菓子を食べたせいで表情が雲るなんて、そんなことがあるだろうか。
優しい彼のことだから、私が落ち込まないようにそんな嘘を吐いているのでは、とつい勘繰ってしまう。
「ちゃんと話すよ。でも、少し長くなるだろうから……とりあえずレジを済ませて、ゆっくり歩きながら話そう」
カゴいっぱいの商品のお会計を済ませてから、私たちは帰路に就いた。袋は二つに分けたので、私とオーナーとでそれぞれ一つずつ持つ。
「……僕も、もともとはお菓子づくりが好きだったんだ」
魚の鱗みたいな石畳の道を進みながら、オーナーはぽつりと語り始めた。
彼も私と同じで、お菓子づくりが好き。
意外な共通点を知って内心舞い上がりそうになったものの、彼がなぜか過去形で話すので、私は不思議に思った。
(好きだった……ってことは、今はそうじゃないってこと?)
すかさず本人に尋ねたくなったけれど、口に出す寸前で飲み込む。
せっかく彼が説明してくれているのに、初っ端から話の腰を折るわけにはいかない。
「うちの家、今は拝観のみになってるけど、数年前まではスイーツの提供もやっていたんだよ。一階にカフェスペースがあるのは知ってるだろう?」
聞かれて、私は頷く。
一階の厨房の手前にはお洒落なカフェスペースがあり、庭に面した扉を開けると日当たりの良いテラス席まであった。
「カフェは、祖母が始めたんだ。祖母も僕と同じでお菓子を作るのが好きだったから……いや、逆だな。祖母の作るお菓子がとても美味しかったから、僕もお菓子づくりに興味を持ったんだ」
オーナーの話す過去には、何度もおばあ様が出てくる。
こうして聞いていると、彼女はきっとオーナーにとってとても大きな存在だったのだろうなと感じる。
「祖母に色んなお菓子の作り方を教わって、僕もカフェの手伝いをしてた。その時間は、とても幸せだったよ。この時間がこれからもずっと続けばいいと思ってた。でも祖母が亡くなって、それは叶わなくなった。僕一人だけでは、厨房に立つことはできないから」
魔法の代償のことを考えると、彼を一人で厨房に立たせるのは危険だとルナさんも言っていた。
おばあ様が一緒だった頃は二人でお互いを支え合っていたのかもしれないけれど、今ではそれもできなくなってしまった。
「ルナたちには他の仕事を任せてるし、僕のわがままでカフェを続けることはできない。だから諦めたんだ。でも……」
そこで彼は、色素の薄い綺麗な瞳で、まっすぐに私の顔を見る。
「絵馬が隣にいてくれるなら。僕と一緒にお菓子を作ってくれるなら、また再開できるかもしれないと思ってる」



