「本当だ。綺麗に架かってるね」
緩やかな弧を描くそれを見て、オーナーは愛おしげに目を細める。
そして、
「……『虹の麓には、宝物が眠ってる』」
まるで幼子を寝かしつける時のような優しい声で、彼は囁いた。
「宝物?」
私が聞き返すと、彼は虹を見つめたまま頷く。
「祖母がよく言っていたんだ。虹の根元には、自分にとって大切なものが埋まっているんだって」
言われてみれば、私も幼い頃にどこかでそんな話を聞いたことがある気がする。
一体誰が最初に言い出したのかはわからないけれど、とても夢のあるお話だと思う。
「素敵ですね。虹の麓……そこに行けば、何が見つかるんでしょうか」
「わからない。虹の性質上、僕らはけっしてそこにたどり着くことはできないから。でも、祖母はそこに行ったことがあるって言ってた。その場所で大切なものを見つけたって。……今となっては、それが冗談だったのかどうか確かめることはできないんだけれどね」
オーナーのおばあ様は、残念ながらすでに亡くなっているらしい。
けれど、こんなお話をするくらいなのだからきっと素敵なおばあ様だったのだろうなと思う。
そしてオーナーと血が繋がっているということは、彼女もやはり魔法使いだったのだろうか。
「っと、こうしている場合じゃないね。早く買い出しに行かないと、ルナに文句を言われてしまう」
少しだけ名残惜しく思いながらも、私たちは虹に背を向けて歩き始めた。
前庭を抜けて敷地の外に出ようとすると、チケットブースの中から白髭のおじいさんが顔を出す。
「やあ、ご両人。これからデートかな?」
わざとらしく尋ねてくるおじいさんに、オーナーは慣れた様子で微笑み返す。
「ルナに頼まれていたものを買ってくるよ。お昼ご飯が質素だと寂しいだろう?」
「ああ、そりゃ助かる。腹が減ってはなんとやらだ」
事情を察したおじいさんは快く私たちを送り出す。
穏やかに手を振る彼の姿が見えなくなってから、私はふと、オーナーに一つ質問がしたくなった。
(あのおじいさんの名前、オーナーに聞いてもいいのかな?)
今朝は結局教えてもらえなかった、彼の名前。
できれば私も早く知りたい——けれど、本人が頑なに口にしなかったそれを他の人から聞き出しても良いのだろうか。
「絵馬。何か悩んでる?」
「えっ」
不意打ちで指摘されて顔を上げると、いつのまにかオーナーがこちらの顔を覗き込んでいた。
「何か困ってることがあるなら、遠慮せず僕に言ってね。どんな些細なことでも、気軽に相談してくれればいいから」
「え、ええと……」



