「うん。お昼用の食材が足りないってルナが言ってたから、補充しないと。僕一人で買い出しに行こうとすると反対されるんだけど、絵馬が一緒ならきっと大丈夫だから」
魔法の代償によって、いつ意識を失ってもおかしくないオーナー。
そんな彼が一人で外出するのは危険だと、ルナさんは心配している。
「いつもはコハクたちに買い出しを任せてるんだけど、僕もたまには外を歩きたいし……絵馬さえよければ、付き合ってもらえないかな?」
もちろん、オーナーの頼みとあれば私に断る選択肢はなかった。
けれどそれを抜きにしても、彼がそれを望んでいるなら叶えてあげたいという気持ちもあった。
(さすがに、家の中にずっといるのは退屈だよね)
自由に外を出歩くことができないというのは、いくら本人のためとは言っても窮屈だろう。たまには外の空気を吸って気分転換もしたいはず。
オーナーも本当はもっと気軽に外へ出たいだろうに、それをしないのはきっとルナさんたちに心配をかけたくないからだ。
「わかりました。私でよければ、ぜひ」
「ありがとう。無理を言って悪いね、絵馬」
「いえ。私もそのうち買い出し係になると思いますし……今のうちに、この辺りのお店のことも知っておきたいですから」
今後のことを考えると、ここでオーナーに街を案内してもらえたら助かる。
お互いにWin-Winということで、私たちはすぐさま出かける準備を始めた。
そういえば今日はまだメイド服に着替えていなかったけれど、それはもしかしたらこの買い出しのためだったのかなと今になって気づく。
さすがに館の外を出歩くとなると、メイド服姿では浮いてしまう。
……いや、この異国風の街並みの中なら意外と馴染んだりするのかな?
なんて、どうでもいいことを考えているうちにオーナーに呼ばれて、私たちは二人で外を目指した。
◯
玄関の扉を開けてイングリッシュガーデン風の前庭に出ると、観光客が行き交う横でコハクが水やりをしている姿が見えた。長いホースを手に持ち、赤やピンクのチューリップに向かってシャワーをかけている。
「やあコハク、いつもご苦労様。ちょっと絵馬と買い出しに行ってくるね」
「おー。いってらー」
コハクはこちらを振り返ることもせず、相変わらず興味のなさそうな声で応える。
そのまま彼の横を通過しようとしたところで、私はあるものを見つけて反射的に声を上げた。
「あっ、虹が出てます!」
「え、どこ?」
オーナーに尋ねられて、「ほらあそこ!」と思わず興奮気味に指を差す。
コハクが水やりをしているチューリップにかかる形で、小さな虹が姿を見せていた。



