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食堂の場所は、ちょうど厨房の真上にあった。
二階の東端、私の部屋から一番遠い所に位置している。
観音開きの豪華な扉を開けて中に入ると、広々とした部屋の中央には奥行きのある長テーブルが設置されていた。
真っ白なテーブルクロスの上には花が飾られ、それぞれの席にはナイフやフォーク等がすでに並べられている。
まるで高級レストランのような様相に、私は改めて息を呑んだ。
今日の昼食時もここでルナさんのお料理をご馳走になったのだけれど、ごく一般家庭で育った私にはこのお洒落な風景は落ち着かない。
「叶さん、すみませんが一緒に料理を運んでいただけますか?」
部屋の奥からルナさんが言った。
彼女の目の前には下の階へ続く階段があり、それは厨房と直接繋がっている。
「あ、はい! もちろんです!」
私はすぐさま彼女の後を追う。
そこへ背後から「あたしも手伝うー!」とクロの元気な声が届いた。
しかしルナさんは一度足を止めると、少々困ったような顔をする。
「クロは結構です。お料理を運ぶ途中で転んだりしたら大変ですからね」
「えー? 大丈夫だよう。あたし転んだりしないよー!」
「先日もワインを何本も落として駄目にしましたよね? こちらは手が足りていますから、あなたはテーブルに着いて大人しくしていてください」
「ちえー。ルナのわからず屋ー!」
二人の会話を聞く限り、クロに炊事を任せるのは危険だ。
結局、私とルナさんの二人で全ての料理を運ぶことになった。
そら豆や新玉ねぎ等の春野菜を使ったサラダに、じゃがいものポタージュ、スライスされたバゲット、鰆のムニエルに、メインのローストビーフ。
(これ、全部ルナさんが一人で作ったんだ)
どれも盛り付けが美しく、そのままお店に出しても問題ない見た目だった。
全てをテーブルに並べてみんなで席に着くと、その場は貴族の晩餐会のような雰囲気に包まれる。
上座——いわゆる『お誕生日席』にオーナーが座り、他のメンバーは思い思いに席に着く。
クロは私の隣に座りたいと言ってきたので、ルナさんと私とでクロを挟む形になった。
「全員そろったね。それじゃ、いただこうか」
シャンパンを手にしたオーナーの声を合図に、私以外の全員が一斉に「いただきます!」と手を合わせる。
私も一拍遅れてそれに倣った。
カチャカチャと食器が鳴る音とともに、食欲をそそる美味しそうな香りが部屋を満たす。
私はまず春野菜のサラダに手をつけた。
「あ。このサラダのドレッシング、すごく好きな味かも」
一口目からビビッときて、思わず呟いていた。フルーティな甘さのあるすっきりとした味わいで、とても食べやすい。
すると、斜め前の席に座っていた白髭のおじいさんが嬉しそうに笑った。
「それもルナの手作りだよ。わしらも気に入っているんだ」
「えっ。ルナさん、ドレッシングまで一から作ってるんですか」
お料理だけでなく調味料まで、彼女の手作り。
半ば無意識のうちに尊敬の念を込めた眼差しを彼女に向けると、
「いずれは叶さんにも食事を作ってもらうことになりますからね。期待していますよ」
そんなルナさんの言葉で、私は一気に現実へと引き戻される。
考えてみればそうだ。
これからここで働くということは、私もルナさんのように何でもできるようにならなければいけない。
しかしお菓子づくりならまだしも、料理はずぶの素人なので現状は自信がない。
「が、がんばります」
再びカチコチに緊張した私のことを、オーナーは相変わらず穏やかな笑みを浮かべて見つめていた。



