「それで、さっきはルナたちから何か変な話をされなかった?」
「変な話、ですか?」
どれのことだろう、と私は思案した。
ここに来てからというもの、普通ではない会話ばかりしている気がする。
「僕がパートナーを捜してるとか、そういう話」
「ああ……」
そのことか、と納得した。
オーナーを末長く愛し、添い遂げてくれる人間の女性、つまりはお嫁さんを捜しているのだとルナさんたちが言っていた。
確かにあれは衝撃的だった。
「あれはルナたちが勝手に言っているだけだから、本気にしなくていいよ」
「そうなんですか?」
「うん。僕の魔法や代償についての理解者が欲しい、という意味では僕も同意だけど。何も結婚相手を捜す必要はないと思ってる。ルナたちのように、そばで支えてくれる人が居てくれたら僕は十分だから」
その意見を聞いて、少しだけほっとする。
お嫁さん候補というのはあくまで猫ちゃんたちの要望であって、当のオーナーが決めたことではないのだ。
「あ、でも。私はオーナーたちの秘密を知ってしまいましたから、この館からはもう出してはもらえないのですか?」
「ふふ、それも本気にしなくていいよ。警察でも何でもない僕が君を監禁する権利なんてないからね」
彼は可笑しそうに笑ってから、さらに付け加えた。
「ただ、魔法のことについてはできれば秘密にしてほしい。それから、君さえよければこの先もここで働いてほしいと思ってる。ルナたちは僕ら二人をくっつけようとしてくるかもしれないけれど、それとなく受け流してくれればいいから」
最後の一文だけは、ちょっとだけ難易度が高い気もするけれど。
それでも、ここで働かせてもらえるなら私にとっては何よりありがたい。
「わかりました。ふつつか者ですが、これからどうぞよろしくお願いいたします」
そう改めて挨拶をしたところで、部屋の方からドンドンドン! と壁を叩くような音が聞こえた。
二人で同時にそちらを見ると、窓ガラスの向こう側に人間の姿のクロが張り付いていた。
「二人ともー! もうすぐご飯ができるんだって! 一緒に食堂に行こー!」
ガラス越しに、彼女の元気な声が届く。
どうやら食事の用意が整ったらしい。
「もうそんな時間か。そういえばお腹もペコペコだな」
思い出したように、オーナーのお腹が鳴った。
彼は昼間は眠っていたので、昼食もとっていない。
魔法の代償のせいで食事も満足にとれなかったことを思うと、彼の体がやけに細いのもそのせいなのかもしれない。
「それじゃ、行こうか。ルナの夕食はいつも豪華だからね。楽しみにしててよ」



