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厨房を出て掃除に戻り、廊下の窓を拭いていたところで、急に後ろから声をかけられた。
「オーナーの意識が戻ったぞ」
「ひゃっ!?」
掃除に集中していた私は、不意打ちを喰らってたまらずヘンな声を上げてしまった。
振り返ってみると、そこにはオーバーオール姿の高校生くらいの男の子がいた。髪色の明るいこの少年は、人間の姿のコハクだ。
「あ……コハクくん、だよね。ごめんね、びっくりしちゃって」
「コハクでいい。それより、オーナーの顔を見てやって。まだ部屋にいるから」
相変わらず何にも興味がなさそうな、どこか無気力な顔をしているコハク。
けれどそんな彼もオーナーのことは心配していたのだろうか。私を連れて、例の部屋へとずんずん進んでいく。
やがて部屋の前にたどり着くと、彼はノックもせずに扉を開けた。
「連れてきたぞ」
そう彼が声をかけた先には、ベッドに腰掛けているオーナーの姿があった。
「ああ、ごめんね。わざわざ来てもらって」
そう言った彼の顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
まだ寝起きで目がとろんとしているものの、顔色は悪くない。倒れる前とほとんど変わらない彼の姿がそこにあった。
そして、そんな彼の膝の上では二匹の猫が丸まっていた。
全身が真っ白な白猫と、対照的に全身が真っ黒な黒猫。
おそらく白猫の方はあの白髭のおじいさんで、黒猫の方はクロだ。
膝の上で気持ちよさそうに目を瞑っている彼らの頭を、オーナーは優しく撫でている。
思えばクロは私と同じように掃除をしていたはずだけれど、これだけ早く駆けつけたところを見るとまたどこかでサボっていたのだろうか。
ルナさんは夕食の用意のために厨房に行っている。したがって、今この空間には彼女だけがいなかった。
私とコハクがベッドの方へ歩み寄ると、オーナーは改めて私の顔を見上げた。
「さっきは驚かせて悪かったね。魔法のことはちゃんと話すつもりだったんだけど、今回は眠りに落ちるのが早かったから、説明する暇もなかったんだ」
「い、いえ! 悪かっただなんて……それに、謝るのはむしろ私の方です。私が服の袖を気にしていたから、あなたは私のために魔法を使ったんですよね?」
あの時、私が袖の汚れなんて気にしなければ、こんなことにはならなかった。
「いや。あれは君が頼んだわけじゃない。僕が勝手にやったことだ。それに——」
彼はそこで、どことなく気まずそうに視線を逸らす。
「——……それに、人の願いをなんでも叶えようとするのは『本当の優しさ』じゃない。わかってはいるつもりなんだ」
「え……?」
最後の方の言葉の意味は、よくわからなかった。
私が首を傾げていると、彼は膝の上の二匹をそっと横へ移動させて立ち上がった。
「よかったら、一緒にバルコニーへ出ない? できれば二人きりで話したいんだ」
そんな彼の申し出を受けて、私はもちろん、他の三匹の猫たちも一斉に彼の顔を凝視した。



