「魔法を使う一族……ということは、彼は正真正銘の魔法使いってことですか?」
改めて口にしてみても、やはり現実感はなかった。
魔法なんて、そんなものは御伽噺の中だけのものだと思っていたのに。
「そうですね。オーナーは本物の魔法使いです。ですが……魔法というものは、なんの対価も無しに使えるわけではありません。魔法を使うためには、それ相応の代償が必要となります」
「代償?」
不穏な響きだった。
魔法はタダで使えるわけじゃない。
力を使えばそれと引き換えに、相応の対価を払うことになるという。
「オーナーは魔法を使った後、しばらくのあいだ眠りについてしまうのです。使った力の大きさによって、眠りの長さは変動します。時には一日中、目を覚さないこともあります。あまりにも大きな力を使った場合は最悪、永遠の眠りについてもおかしくはありません」
永遠の眠り。
それは彼が二度と目を覚まさないということで——つまり、死ぬということ?
「そっ……それって大変なことじゃないですか。彼は大丈夫なんですか!?」
先ほど、彼は私のために魔法を使った。
そして今はソファの上で眠ったまま、一向に目を覚ます気配がない。
「クロの話ですと、確か服の汚れを魔法で落としたとのことでしたね。それくらいなら心配はいりません。きっと夜までには目を覚ますことでしょう」
そんなルナさんの返答に、私はホッと胸を撫で下ろす。
代償が必要だなんて、そんなこと考えもしなかった。
私のために彼が魔法を使って、それで命を落とすなんてことは絶対にあってはならない。
「オーナーが意識を失うタイミングは、毎回予測がつきません。今回は魔法を使ってすぐに眠りについたようですが、場合によっては数時間の時差があります。そのため、オーナーを一人で出歩かせたり、家事を任せたりするのはリスクが伴います。ましてや火を扱う料理などは……」
代償のことを考えると、普段の生活にもかなりの支障が出そうだった。
だからこそ、彼は私やルナさんたちのような使用人を雇っているのかもしれない。
「オーナーの性格上、困っている人を見ればすぐに魔法を使ってしまいます。放っておけば、きっと長生きはできないでしょう。今は我々がそばについていますが、いずれは一人になってしまう時が来る……その時までに、オーナーには《《人間の》》理解者が必要なのです」
「人間の……って?」
ルナさんの妙な言い方に、私は引っかかった。
「今さら隠す必要もないので、あなたには全てを白状しましょう」
ルナさんと、それから後ろに控えていたおじいさんとコハクが、一斉にその場でジャンプをして宙返りしてみせる。
すると一瞬のうちに、彼らの姿は人間ではない別の生き物——三匹の猫へと様変わりしていた。



