青ざめる私の隣で、クロはなぜか嬉しそうに目を輝かせる。
「えー! それってつまり、これから絵馬とずっと一緒に遊べるってこと!?」
やったー! と彼女は飛び上がって喜ぶ。
この屋敷から一生出られない=永遠に一緒に遊び倒せるとでも考えているのだろうか。
「浮かれている場合ではありませんよ、クロ。それに今後のことはまだ決まっていません。この部屋で何があったのかを確かめるまでは……」
尚も冷静に話を続けるルナさんの声を遮って、クロは一際元気な声を上げた。
「それならあたしが全部知ってるよー! 絵馬はね、ここで魔法を見たんだよ! オーナーが絵馬のために魔法を使ってた!」
直後、部屋の中は水を打ったようにしんと静まり返った。
「……魔法を見た、ですって?」
再び静寂を破ったのはルナさんだった。その声はさっきよりもさらに低く、珍しく動揺が滲んでいる。
魔法、というワードを日常会話で耳にしたのはこれが初めてだった。現実的に考えて、そんな非科学的なものはおよそファンタジーの世界にしか存在しない。
けれど、先程あの青年が起こした不思議な現象は、魔法と言う以外に説明が付かないようなものだった。
「叶さん。あなたは本当に、ここでそれを見たのですか?」
ルナさんの目が、再び私を捕らえる。
あの不思議な現象が、本当に魔法なのかどうかはわからない。
けれどどちらにせよ、あれを見たことがバレれば、私は一生この屋敷から出られなくなるかもしれない——そんな予感がして、私は慌ててしらを切る。
「……や、やだなぁ、クロ。魔法ってなんのこと? 私、そんなの見てないよ?」
不自然に裏返った声で、私は彼女に笑いかける。
しかし彼女は小悪魔っぽい笑みを浮かべて、まるで本物の悪魔のようなセリフを口にした。
「ふふふっ、絵馬は嘘つきだね! あたし見てたんだよ。絵馬がこの部屋に入るところから、ぜーんぶ!」
「へ……」
「お茶をこぼして、服が汚れちゃったから、オーナーが魔法で綺麗してくれたんだよね!」
全部見ていた、と彼女は言う。
けれどそんなはずはない。
あの時この部屋にいたのは私とオーナーの二人だけで、他には誰もいなかったはずなのに。
「な、なんでそれを……」
「あれ? 絵馬ってば、もしかしてまだ気づいてないの? あたし、ずっと絵馬のこと見てたんだよ。絵馬がこの屋敷に入ってくる前からずーっと!」
言い終えるが早いか、彼女はピョンッとその場でジャンプしたかと思うと、軽やかな動きで宙返りをしてみせる。
そうして再び絨毯の上に足を下ろした時には、彼女の姿は全く別のモノに変化していた。
「えっ。クロ、あなた……!」
信じられない光景に、私は目を見開く。
一瞬前まで中学生くらいの少女だったクロの姿は、今は一匹の黒猫へと変身していた。



