「その……何も、見てません」
苦し紛れにそう答えると、ルナさんのこちらを見る目がスッと細められる。
「何も見ていない? では、この部屋で一体何をしていたのですか?」
「そ、それは、その」
だらだらと嫌な汗が背中を伝う。
秘密を守りながら、あの状況になった経緯をどう説明すればいいのか。
焦りと緊張とで目が回りそうな私に、ルナさんは無言の圧を加えてくる。
その重苦しい空気を和らげるように、隣から優しげな声を出したのは例の居眠りおじいさんだった。
「まあまあ、ルナ。そう怖い顔をしなくたっていいじゃないか。絵馬ちゃんも緊張しているだろう」
ふくよかな体に、声と同じく穏やかな顔をした彼。
まさかのフォローを受けた私は、胸の奥にポッとあたたかい火が灯るのを感じた。
(こ、このおじいさん……優しい!)
白い髪に白い眉毛、それから口元に蓄えられた豊かな髭も白い。
ラフな服装が赤系統なのもあって、どことなくサンタクロースを彷彿させる出で立ちだった。
「そうだよリーダー! じいじの言う通りだよ! もっと楽しく話そうよー!」
と、今度はサボり魔の少女・クロが声を上げる。
ルナさんは少々ムッとした様子で彼女を睨み返した。
「クロは黙っていてください。元はと言えば、あなたが仕事をサボって叶さんを一人にさせたのが悪いのですよ」
「えー? あたし悪くないもん! それにオーナーなら仕事をサボったって怒らないし。ね、コハク!」
彼女は隣に立つ少年を見上げて言う。
コハクと呼ばれた彼は「さあな。どうでもいい」と、心底興味なさそうに言って欠伸をした。
髪色の明るいこの少年は、どうやらコハクという名前らしい。
宝石の琥珀から取った名前だろうか。
確かに髪の色は琥珀っぽい——と一瞬思ったけれど、さすがに地毛ではないだろうし関係ないか。
改めて、ここに集った使用人たちはそれぞれ自由な性格をしているように思えた。
おそらく仕事熱心なのはルナさんだけで、他の三人はまるで気まぐれな猫のように伸び伸びとしている。
尚も一人だけ難しい顔をしているルナさんは、他の三人を叱責するようにわずかに声を低めた。
「三人とも、この状況をちゃんと理解していますか? 場合によっては、叶さんをこの屋敷から出すことは二度とできなくなるのですよ?」
「…………えっ」
さらりと告げられた衝撃の事実に、私は耳を疑った。
「ど、どういうことですか? 二度と外に出られないって、そんなの……」
そんなの聞いてない。
住み込みで働くという話ではあったけれど、一生そこに縛り付けられるような契約ではなかったはずだ。



