神戸北野 まどろみ異人館の魔法使い

 
「えっ、えっ?」

 光はどんどん膨らんでいく。
 一体どういう仕組みでそうなっているのかがわからず、私はただ狼狽していた。

 やがて光はパチンと泡のように弾ける。
 そうして最後は細かな粒子となって、キラキラと空気中に溶けていった。

 そこで青年はようやく目を開けて、ふわりと微笑んでみせた。

「これで大丈夫。ほら、見てごらん」

 その言葉とともに、彼は私の手を放した。
 訳がわからないまま、私は再び露わになった手首を見る。
 すると、

「……えっ。うそ。汚れが消えてる!?」

 白い袖の部分に染み込んでいた、ハーブティーの黄金色。
 それが、なぜか綺麗さっぱり消えている。

 まるで手品、あるいは魔法としか思えない現象に、私は目を白黒とさせた。

「い、今、何をしたんですかっ?」

 興奮を抑えられずに尋ねると、彼は穏やかな笑みを浮かべたまま、唇の前で人差し指を立ててみせた。

「ちゃんと説明するよ。ただ、ここで見聞きしたことは全部内緒にしてくれるかな?」

「へ……」

 彼はまるで悪戯(いたずら)が見つかった子どものように、困った顔で笑う。

「内緒に……ということは、ルナさんたちにも黙っておいた方がいいのですか?」

「うーん、そうだな。ルナにバレたら、また心配をかけるかもしれないし。できれば彼女にも黙っておいてほしい。それから——」

 と、何かを付け加えようとしたところで、彼は急に黙り込んだ。
 あれ? と思っていると、目の前の彼の顔がさらにこちらへ近づいてくる。

「え。あ、あの……っ?」

 わずかに開かれたままの彼の唇が、至近距離まで迫る。
 突然のことで頭が真っ白になった私は、その場から一歩も動くことができなかった。

「…………きゃっ!」

 そのまま、彼は私を正面から押し倒すようにしてソファに倒れ込んだ。

「な、なな、何するんですかっ!?」

 ふかふかのソファと彼の体とに挟まれる形になった私は、身動きもできずに叫ぶ。

 しかし、こちらに覆い被さったままの彼はなんの返事もしなかった。
 代わりに、すう、すう、と規則正しい呼吸音が耳に届く。

「あれ……?」

 一定のリズムで、ゆるやかに繰り返されるその呼吸だけが、二人きりの部屋の中に響いていた。

(もしかして、寝てる?)

 まさかとは思ったものの、安らかな寝息を立てる彼は、私の体の上であきらかに眠っていた。

 至近距離まで迫った、彼の美しい寝顔。
 肌は抜けるように白く、閉じられた(まぶた)を縁取るまつ毛は長い。

「え、えーっと……」

 こんなに綺麗な男の人が、私を押し倒して眠っている?
 いや、急に眠ったせいで体がこちらに倒れてきたのか?

(でも、急に眠っちゃうなんて、そんなことある?)

 さっきの不思議な現象も含めて、一体何が起こっているのか理解できず、もはや頭の中はパニックだった。