あまりの美しさに、私は思わず見惚れてしまった。ここまで顔の造形が整っていると、まるで自分と同じ人間とは思えない。
お互いに目を合わせたまま、数秒の沈黙があった。
ハッと我に返った私は、冷や汗をかきながら辺りを見渡す。
「ご、ごごごごめんなさい! あのっ、猫ちゃんさえ捕まえたらすぐに出て行きますのでっ……!」
しかし、部屋のあちこちに目をやってみたものの、あの黒猫の姿は見当たらない。
もはや緊張と焦りとでどうにかなってしまいそうな私を見て、オーナーの青年はくすくすと笑った。
「ふふ、面白い子だね。でも残念だけど、この部屋に猫はいないよ」
「えっ……」
猫はいない、と断言する彼に私は面食らった。
「そ、そんなはずは……。だって、さっきは確かに黒猫ちゃんがこの部屋に入っていったのに」
「きっと見間違いだよ。少なくとも僕は猫なんて見かけてないし」
見間違い、だなんて。そんなことがあるだろうか。
もともとこの部屋の扉だって、あの黒猫が開けたはずなのに。
「それより君、今日からここに入った子だよね? よかったら話を聞かせてよ」
彼はふわふわと歌うように言って、ゆっくりとベッドから立ち上がった。すらりとした体は脚が長く、想像していた以上に背が高い。
「ハーブティーは好きかな? 今日はカモミールとラベンダーをブレンドしたんだ」
言いながら、彼は部屋の隅にあった小型テーブルに歩み寄る。
どうやらお茶を淹れてくれるらしい。
さすがに自分の雇い主にそんなことをさせるわけにもいかず、私は慌てて彼のもとへ駆け寄る。
「あの、お茶なら私が淹れますから」
「いいよ、そんなに気を遣わなくても。ほら、そこのソファに座ってくれればいいからさ」
「そ、そんなわけにはいきません!」
ただでさえ私は今仕事中なのに、お茶をご馳走になるなんてとんでもない。
それに何より、この部屋には入るなとルナさんから言いつけられていたのだ。
この状況をもしも彼女に見られてしまったら……と考えると、想像しただけで足が震えてくる。
「お心遣いは嬉しいですが、やっぱり駄目です……!」
半ば奪い取る形で、私は彼の手元にあるティーポットを掴んだ。すると、その衝撃で揺れた中身が注ぎ口から溢れ出す。
「「あっ」」
彼と私の声が重なった。
と同時に、ティーポットから溢れ出た黄金色の液体が私の袖を濡らした。
「熱ッ……!」
「大丈夫!?」
青年は瞬時に顔色を変え、ティーポットをテーブルの上に戻すと、すぐさま私の手を取った。
火傷してない? と聞かれて、私はこくこくと頷く。
先ほどはつい反射的に「熱い」なんて口にしてしまったけれど、火傷するほどの高温ではなかった。
そしてそんなことよりも、私は別のことに気を取られて内心パニックになっていた。
「メ、メイド服、汚しちゃった……!」



