カーテンの隙間から漏れる陽射しが、ぽかぽかと身体を包んでいる。寝起きは割と良い方だと思っていたはずだが、今日はやけに瞼が重い。気のせいでなければ、身体も重いような……。
眠気になんとか打ち勝って瞼を持ち上げると、目の前にさらさらとした黒い髪が見えた。
僅かに視線を上げれば、彫刻かと見間違うほど綺麗な顔が眼前に広がる。
一瞬驚いて目を見開く俺のすぐそばで、静かに目を閉じてすうすうと寝息を立てている。
あれ、成海くんだ。なんで成海くんが俺と同じベッドで寝ているんだろう。
「……え、なんか眩し……」
嫌な予感がして身体を起こした。窓から漏れる光はいつも起きる時間帯のそれよりも明らかに明るい。
ポケットの中からスマホを取り出して確認すると、いつもはとっくに家を出発している時刻だった。
「な、成海くんっ! 起きて! やばい、寝坊した!」
「んー……」
ゆさゆさと身体を揺さぶる俺の横で、まだうとうととしている様子の成海くんが目を擦る。
しまった、成海くんは朝が苦手なんだった……!
だけど今はそんな悠長なことを言っていられない。
俺は無理やり毛布を剥ぎ取って、二度寝をしようとしている彼の腕を引っ張ってベッドから降ろすと、そのまま一階まで背中を押して階段を降り、洗面所に押し込んだ。
「沙也ちゃん、だいたーん」
「ばかなこと言ってないで早く! 一秒でも早く出ないと遅刻するから!」
「えー、急ぐのだるいし俺のこと置いてっていーよ、別に」
「わああ、もう、諦めないで……っ!」
その後、寝起きで一段とやる気のないふにゃふにゃした成海くんを連れてなんとか家を出て、なんとか一本遅い電車に乗り込んで、なんとか予鈴ギリギリに教室に駆け込むことに成功した。
朝から色んな意味で疲れた。息を乱しながら席に着くと、前の席のサトシがニヤニヤしながら振り返ってきた。
「おはよー沙也。珍しくギリギリじゃん」
「おはよ……ちょっとね……」
それにしても、段々と昨夜の記憶が蘇ってきた。
ほっと気が緩んだ瞬間に急激に眠気が襲ってきて、部屋に戻るのも億劫でそのまま成海くんのベッドで眠ってしまったのだ。
眠すぎて思考力が鈍っていたとはいえ、成海くんと二人で寝たという事実を思い出すだけで頭を抱えてしまいそうになる。
「ってかそんなことより、まずいことになってんぞ」
「え? なにが?」
ぼんやりと回想をしているとサトシが急に険しい表情をして、俺の目の前にスマホを突き付けてきた。
近すぎて画面が読めない。僅かに仰け反りながら目を細めると、やっと焦点が合った。
表示されているのはよくあるSNSの画面。スマチャとは違う、写真の投稿を主とする、派手な人達の使うアプリだ。そこに映し出されていたのは──。
「……っなにこれ。俺と成海くん?」
それは間違いなく、制服を着て通学路を歩く俺と成海くんの写真だった。どこか遠くからこっそりと撮影したからなのか、少し写真はブレていて表情までは見えない。俺達が二人で登校することはほとんどないから、おそらく今朝撮られた写真だろう。
遅刻寸前だというのにも関わらず、だるそうに後ろを歩く成海くんを振り返り、急いでと腕を引っ張っているところだ。
でも、どうしてこんな写真を?
不思議に思いながら視線を下げると、写真の下にはコメントが記されていた。
『日南兄弟の喧嘩シーン』
『言い争ってるの見た。ふたりの仲は偽装で、本当は不仲っぽい』
文章の意味を理解してすぐ、ことの重大さを理解した。咄嗟にSNSの反応を確認すると、どこかで拡散でもされているのか、すでに三桁もいいねがついている。
「なにこれ……誰がこんなこと」
「他に投稿ないし、捨てアカっぽくね。てか、これ明らか盗撮だよな。マジで喧嘩してたん?」
「ううん。今朝は遅刻しそうで、成海くんを急かしてただけだよ」
「そうだよなー……まぁでもこのいいね数見る限り、周りは鵜呑みにしてそうだけど……」
まだ話の続きがしたかったが、担任が入ってきたので一旦中断となった。サトシが前を向いてSHRが始まった後も、悶々と考え込んでしまう。
今までに盗撮まがいのことをされることは少なくなかったが、こんな風に悪意を持った投稿をされたことは初めてだった。
高校に入ってから、どんな小さな噂でも尾ひれがついて一瞬で広まってしまうことを実感した。
たとえば俺と成海くんが義兄弟だということだって、サトシに話しただけなのに、近くで聞いていたクラスメイトによってあっという間に全校生徒に行き渡ってしまったのだ。
今回のいわゆる不仲説だってそうだ。このままだと悪い風に噂が広まりかねない。
「ねえ、これ見た?」
「あー見た見た。ビックリだよね。ほんとなのかなー……」
「でも確かに沙也くんが腕引っ張ってるっぽいし、成海くんも睨んでるように見えるよね……」
「仲が良いっていうの嘘なのかな。ウチら騙されてたりして」
後ろの方の席から聞こえてきた声を拾って、俺は頭を抱えたい気持ちになった。
これは想像以上に情報の伝達が早い。まさかもうクラスメイトにまで届いてしまっているとは。
(どうしよう、とにかくなんとかしないと……)
俺は三年だし、半年も経たずに卒業することになるが、成海くんは違う。俺がいなくなった後もずっとこの学校に通うんだから、なるべく悪いイメージは払拭してあげたい。
「じゃあ続いて文化祭実行委員からの連絡でーす。毎年恒例、文化祭の大目玉『カップルコンテスト』についてですが──参加を希望する人は早めに教えてくださーい」
近くで立ち上がってクラスメイトが話している言葉が耳に入る。一度は聞き流そうとしたが、その単語がやけに胸に引っかかった。
カップルコンテスト。毎年恒例かつその日一番の盛り上がりを見せる、文化祭のステージ企画のひとつだ。二人組で出場して、五分間の持ち時間を使って仲の良さをアピールするという内容のもの。
生徒会のときに俺も運営に携わっていたから企画の内容は心得ている。カップルとは名ばかりで、漫才コンビを組んで出る男子達もいれば、仲の良い女子同士で出る者もいる。
つまりはペアであれば参加は可能。つまり全校生徒が一堂に会する大注目のステージ企画で、成海くんと俺が仲の良さをアピール出来たら、疑惑は完全に晴れるのではないか。
「……これしかない」
全ては成海くんの安泰な高校生活を守るため。そのためにはもう手段なんて選んでいられない。
問題はどうやってあの彼を説得するかということ。
実行委員の彼からコンテストの詳細についてのプリントを受け取った俺は、成海くんの承諾を得るために頭を悩ませることになった。
帰宅して夕飯を済ませた後、俺は沈痛な面持ちで成海くんの部屋を訪れた。
「……ということでですね、俺とカップルになってほしいんだ」
「は?」
長い脚を組んで背もたれに背中を預ける成海くんの顔が、訝しげに歪められる。
今日の成海くんの部屋着は俺が一昨年の誕プレであげたジャージだ。これまでにも何度か着ているのを見たことはあるが、やっぱり実際に目にすると嬉しくなって頬が緩んでしまう。
「どゆこと。いつも以上に意味がわかんないんだけど」
「安心して、ちゃんとこれから話すから。えーっと、成海くんと俺の不仲説がSNSで流れちゃってるのは知ってる?」
「あーなんかどっかで聞いたかも。でも別に放っておけばよくない? 実際仲悪くないし」
図らずも声にならない声をあげてしまいそうになって、口元を片手で覆い隠した。
実際仲悪くないし……!?
確かに近頃薄々、いやはっきりと成海くんの態度が変わってきたのを実感していた。だけどまさか本人の口からこうもしっかり確認することができるなんて……!
嬉しさとむず痒さと感動がごちゃ混ぜになっていた俺は、うんそうだね、と言いかけてハッと我に返った。
「いやだめだよっ! 今のままだと成海くんのイメージが悪くなりそうだもん。成海くんが誤解されるなんて許せない!」
「えー……俺だけじゃなくて沙也ちゃんも巻き込まれてんだけどね。相変わらず俺のことばっかり」
呆れた様子の成海くんは、そう言いつつもどこかご機嫌だ。
「で、その疑いを晴らすためにカップルコンテストに出て、仲良しアピールをしようって?」
「ご名答です」
「ぜってー嫌だ」
間髪入れずに爽やかな笑顔で拒絶されて、俺もつられて笑顔になりながら硬直した。
まさか即答で断られるとは思わなかった。てっきりいつもみたいに、なんだかんだ頷いてくれると信じていたのに。
「えっなんで? お願い、そこを何とか……!」
「沙也ちゃんって本当頭お花畑だよね。俺はそんなくだらない噂のために沙也ちゃんとの仲が衆目にさらされるのも、おもちゃみたいにされるのも嫌なんだけど」
「くだらないって思うからこそ早めに火消ししておかないと、来年から俺はいないわけだし……」
そうしたら本当に成海くんのことを守れなくなってしまう。
大学は実家から通える距離にしたとはいえ、春からはアルバイトもしないといけないし、成海くんとも生活リズムが合わなくて、また会話が減ってしまうかもしれない。
何かあってもすぐに気付いてあげられないからこそ、せめて俺のいるうちに問題は解決しておきたい。
「……はあ。まあ好きにすれば」
俺の悲痛な様子を見かねたのか、成海くんが頬杖をつきながら渋々承諾をしてくれた。
やっぱり俺の弟は優しい。俺が勝手に押し付けた誕プレだってなんだかんだで使ってくれるし、昔から優しいところは変わっていない。
受け入れてくれたことよりも、俺の頼みを聞き入れてくれたことの方が嬉しいかもしれない。
「ありがとう、成海くん……っ」
俺の顔は緩みに緩みきっているに違いない。嬉しさを前面に出す俺のことを、成海くんが見やる。
「でも出るからには、ちゃんと恋人らしくしてよ」
「えっ?」
意味がわからず目を丸くする俺の視線の先で、彼の目が悪戯っぽく細められる。
カップルコンテストは過去の傾向から、実際には付き合っていないペアもたくさん出ている。だから俺もそのつもりだったのだが……。
「そこまでしなくても。俺達は兄弟なんだし」
「だーめ。募集要項に『カップル(交際中)』ってちゃんと書いてあるでしょ。優等生なのに規約違反すんの?」
「いや、でも実際は同性同士でネタとして出る人達もたくさんいるし……」
「よそはよそ。うちはうち。沙也ちゃんは俺のルールに従えばいいの、わかった?」
なんだか無理やり丸め込まれそうになっているのを、ひしひしと感じる。
また俺はからかわれているのだろうか。
徐ろに腰を上げた成海くんが、俺の目の前に立って、ゆるりと口角を上げた。
「ってことで当日は恋人として、期待してるね」
すっと伸びてきた手に顎を掬い取られて、びくっと肩を揺らしてしまった。
成海くんの後ろにベッドが見える。
昨夜ここで二人で寝てしまったことを思い出して、二重で居た堪れなくなった俺は、やっぱり逃げるように彼の部屋を飛び出すのであった。
眠気になんとか打ち勝って瞼を持ち上げると、目の前にさらさらとした黒い髪が見えた。
僅かに視線を上げれば、彫刻かと見間違うほど綺麗な顔が眼前に広がる。
一瞬驚いて目を見開く俺のすぐそばで、静かに目を閉じてすうすうと寝息を立てている。
あれ、成海くんだ。なんで成海くんが俺と同じベッドで寝ているんだろう。
「……え、なんか眩し……」
嫌な予感がして身体を起こした。窓から漏れる光はいつも起きる時間帯のそれよりも明らかに明るい。
ポケットの中からスマホを取り出して確認すると、いつもはとっくに家を出発している時刻だった。
「な、成海くんっ! 起きて! やばい、寝坊した!」
「んー……」
ゆさゆさと身体を揺さぶる俺の横で、まだうとうととしている様子の成海くんが目を擦る。
しまった、成海くんは朝が苦手なんだった……!
だけど今はそんな悠長なことを言っていられない。
俺は無理やり毛布を剥ぎ取って、二度寝をしようとしている彼の腕を引っ張ってベッドから降ろすと、そのまま一階まで背中を押して階段を降り、洗面所に押し込んだ。
「沙也ちゃん、だいたーん」
「ばかなこと言ってないで早く! 一秒でも早く出ないと遅刻するから!」
「えー、急ぐのだるいし俺のこと置いてっていーよ、別に」
「わああ、もう、諦めないで……っ!」
その後、寝起きで一段とやる気のないふにゃふにゃした成海くんを連れてなんとか家を出て、なんとか一本遅い電車に乗り込んで、なんとか予鈴ギリギリに教室に駆け込むことに成功した。
朝から色んな意味で疲れた。息を乱しながら席に着くと、前の席のサトシがニヤニヤしながら振り返ってきた。
「おはよー沙也。珍しくギリギリじゃん」
「おはよ……ちょっとね……」
それにしても、段々と昨夜の記憶が蘇ってきた。
ほっと気が緩んだ瞬間に急激に眠気が襲ってきて、部屋に戻るのも億劫でそのまま成海くんのベッドで眠ってしまったのだ。
眠すぎて思考力が鈍っていたとはいえ、成海くんと二人で寝たという事実を思い出すだけで頭を抱えてしまいそうになる。
「ってかそんなことより、まずいことになってんぞ」
「え? なにが?」
ぼんやりと回想をしているとサトシが急に険しい表情をして、俺の目の前にスマホを突き付けてきた。
近すぎて画面が読めない。僅かに仰け反りながら目を細めると、やっと焦点が合った。
表示されているのはよくあるSNSの画面。スマチャとは違う、写真の投稿を主とする、派手な人達の使うアプリだ。そこに映し出されていたのは──。
「……っなにこれ。俺と成海くん?」
それは間違いなく、制服を着て通学路を歩く俺と成海くんの写真だった。どこか遠くからこっそりと撮影したからなのか、少し写真はブレていて表情までは見えない。俺達が二人で登校することはほとんどないから、おそらく今朝撮られた写真だろう。
遅刻寸前だというのにも関わらず、だるそうに後ろを歩く成海くんを振り返り、急いでと腕を引っ張っているところだ。
でも、どうしてこんな写真を?
不思議に思いながら視線を下げると、写真の下にはコメントが記されていた。
『日南兄弟の喧嘩シーン』
『言い争ってるの見た。ふたりの仲は偽装で、本当は不仲っぽい』
文章の意味を理解してすぐ、ことの重大さを理解した。咄嗟にSNSの反応を確認すると、どこかで拡散でもされているのか、すでに三桁もいいねがついている。
「なにこれ……誰がこんなこと」
「他に投稿ないし、捨てアカっぽくね。てか、これ明らか盗撮だよな。マジで喧嘩してたん?」
「ううん。今朝は遅刻しそうで、成海くんを急かしてただけだよ」
「そうだよなー……まぁでもこのいいね数見る限り、周りは鵜呑みにしてそうだけど……」
まだ話の続きがしたかったが、担任が入ってきたので一旦中断となった。サトシが前を向いてSHRが始まった後も、悶々と考え込んでしまう。
今までに盗撮まがいのことをされることは少なくなかったが、こんな風に悪意を持った投稿をされたことは初めてだった。
高校に入ってから、どんな小さな噂でも尾ひれがついて一瞬で広まってしまうことを実感した。
たとえば俺と成海くんが義兄弟だということだって、サトシに話しただけなのに、近くで聞いていたクラスメイトによってあっという間に全校生徒に行き渡ってしまったのだ。
今回のいわゆる不仲説だってそうだ。このままだと悪い風に噂が広まりかねない。
「ねえ、これ見た?」
「あー見た見た。ビックリだよね。ほんとなのかなー……」
「でも確かに沙也くんが腕引っ張ってるっぽいし、成海くんも睨んでるように見えるよね……」
「仲が良いっていうの嘘なのかな。ウチら騙されてたりして」
後ろの方の席から聞こえてきた声を拾って、俺は頭を抱えたい気持ちになった。
これは想像以上に情報の伝達が早い。まさかもうクラスメイトにまで届いてしまっているとは。
(どうしよう、とにかくなんとかしないと……)
俺は三年だし、半年も経たずに卒業することになるが、成海くんは違う。俺がいなくなった後もずっとこの学校に通うんだから、なるべく悪いイメージは払拭してあげたい。
「じゃあ続いて文化祭実行委員からの連絡でーす。毎年恒例、文化祭の大目玉『カップルコンテスト』についてですが──参加を希望する人は早めに教えてくださーい」
近くで立ち上がってクラスメイトが話している言葉が耳に入る。一度は聞き流そうとしたが、その単語がやけに胸に引っかかった。
カップルコンテスト。毎年恒例かつその日一番の盛り上がりを見せる、文化祭のステージ企画のひとつだ。二人組で出場して、五分間の持ち時間を使って仲の良さをアピールするという内容のもの。
生徒会のときに俺も運営に携わっていたから企画の内容は心得ている。カップルとは名ばかりで、漫才コンビを組んで出る男子達もいれば、仲の良い女子同士で出る者もいる。
つまりはペアであれば参加は可能。つまり全校生徒が一堂に会する大注目のステージ企画で、成海くんと俺が仲の良さをアピール出来たら、疑惑は完全に晴れるのではないか。
「……これしかない」
全ては成海くんの安泰な高校生活を守るため。そのためにはもう手段なんて選んでいられない。
問題はどうやってあの彼を説得するかということ。
実行委員の彼からコンテストの詳細についてのプリントを受け取った俺は、成海くんの承諾を得るために頭を悩ませることになった。
帰宅して夕飯を済ませた後、俺は沈痛な面持ちで成海くんの部屋を訪れた。
「……ということでですね、俺とカップルになってほしいんだ」
「は?」
長い脚を組んで背もたれに背中を預ける成海くんの顔が、訝しげに歪められる。
今日の成海くんの部屋着は俺が一昨年の誕プレであげたジャージだ。これまでにも何度か着ているのを見たことはあるが、やっぱり実際に目にすると嬉しくなって頬が緩んでしまう。
「どゆこと。いつも以上に意味がわかんないんだけど」
「安心して、ちゃんとこれから話すから。えーっと、成海くんと俺の不仲説がSNSで流れちゃってるのは知ってる?」
「あーなんかどっかで聞いたかも。でも別に放っておけばよくない? 実際仲悪くないし」
図らずも声にならない声をあげてしまいそうになって、口元を片手で覆い隠した。
実際仲悪くないし……!?
確かに近頃薄々、いやはっきりと成海くんの態度が変わってきたのを実感していた。だけどまさか本人の口からこうもしっかり確認することができるなんて……!
嬉しさとむず痒さと感動がごちゃ混ぜになっていた俺は、うんそうだね、と言いかけてハッと我に返った。
「いやだめだよっ! 今のままだと成海くんのイメージが悪くなりそうだもん。成海くんが誤解されるなんて許せない!」
「えー……俺だけじゃなくて沙也ちゃんも巻き込まれてんだけどね。相変わらず俺のことばっかり」
呆れた様子の成海くんは、そう言いつつもどこかご機嫌だ。
「で、その疑いを晴らすためにカップルコンテストに出て、仲良しアピールをしようって?」
「ご名答です」
「ぜってー嫌だ」
間髪入れずに爽やかな笑顔で拒絶されて、俺もつられて笑顔になりながら硬直した。
まさか即答で断られるとは思わなかった。てっきりいつもみたいに、なんだかんだ頷いてくれると信じていたのに。
「えっなんで? お願い、そこを何とか……!」
「沙也ちゃんって本当頭お花畑だよね。俺はそんなくだらない噂のために沙也ちゃんとの仲が衆目にさらされるのも、おもちゃみたいにされるのも嫌なんだけど」
「くだらないって思うからこそ早めに火消ししておかないと、来年から俺はいないわけだし……」
そうしたら本当に成海くんのことを守れなくなってしまう。
大学は実家から通える距離にしたとはいえ、春からはアルバイトもしないといけないし、成海くんとも生活リズムが合わなくて、また会話が減ってしまうかもしれない。
何かあってもすぐに気付いてあげられないからこそ、せめて俺のいるうちに問題は解決しておきたい。
「……はあ。まあ好きにすれば」
俺の悲痛な様子を見かねたのか、成海くんが頬杖をつきながら渋々承諾をしてくれた。
やっぱり俺の弟は優しい。俺が勝手に押し付けた誕プレだってなんだかんだで使ってくれるし、昔から優しいところは変わっていない。
受け入れてくれたことよりも、俺の頼みを聞き入れてくれたことの方が嬉しいかもしれない。
「ありがとう、成海くん……っ」
俺の顔は緩みに緩みきっているに違いない。嬉しさを前面に出す俺のことを、成海くんが見やる。
「でも出るからには、ちゃんと恋人らしくしてよ」
「えっ?」
意味がわからず目を丸くする俺の視線の先で、彼の目が悪戯っぽく細められる。
カップルコンテストは過去の傾向から、実際には付き合っていないペアもたくさん出ている。だから俺もそのつもりだったのだが……。
「そこまでしなくても。俺達は兄弟なんだし」
「だーめ。募集要項に『カップル(交際中)』ってちゃんと書いてあるでしょ。優等生なのに規約違反すんの?」
「いや、でも実際は同性同士でネタとして出る人達もたくさんいるし……」
「よそはよそ。うちはうち。沙也ちゃんは俺のルールに従えばいいの、わかった?」
なんだか無理やり丸め込まれそうになっているのを、ひしひしと感じる。
また俺はからかわれているのだろうか。
徐ろに腰を上げた成海くんが、俺の目の前に立って、ゆるりと口角を上げた。
「ってことで当日は恋人として、期待してるね」
すっと伸びてきた手に顎を掬い取られて、びくっと肩を揺らしてしまった。
成海くんの後ろにベッドが見える。
昨夜ここで二人で寝てしまったことを思い出して、二重で居た堪れなくなった俺は、やっぱり逃げるように彼の部屋を飛び出すのであった。
