いつか、かぐや姫のお母さんだった話をしましょうか




「彼、いぶきちゃんが好きだったんですね」

 少し離れて一部始終を見ていた浅倉が感心したように言った。

「そうみたいです」

 忍の答えに「はい、そうします。ありがとうございます!」と元気に答えて戻って行った瑛太に、心の中でもエールを送る。
 忘れてしまっても、きっと大切な何かは残るのだと信じたくなった。痛みも愛しさも、きっと糧になる。いぶきにも、忍にも。

「浅倉さん、もしまだ時間があるなら、もう少しお話してもいいですか?」

 いぶき以外に話したことがない、荒唐無稽な話を彼にすると決めた。

   * * *

 翌々日。
 昼近く、忍がパソコンでDVDを見ているといぶきが帰ってきた。
 キャンプの子どもたちは朝食後解散なので、後片付けがあったのか、一緒に行っていた美奈子とおしゃべりをしていたかしたのだろう。

「おかえり。もう少ししたらお昼の準備するからちょっと待ってね」

「うん、ただいま。何見てるの?」

「亡くなった向こうのおじいちゃんからもらったDVD」

 元舅は三年ほど前に亡くなったが、離婚後も交流があり、元姑とは今もいぶき一人、もしくは忍とも一緒に年一回程度会っている。元夫には内緒だ。彼とは離婚以来、いぶきも一度も会っていない。会おうと言われたことがないし、小さいころ何度か約束をしてもすっぽかされてきた。約束を反故されるほうがいぶきが悲しむので、だったら会わないほうがいいだろうとそのままになったのだ。

「おじいちゃん、ビデオ編集上手だったよね」

 後ろからパソコンを覗きながら、いぶきが楽しそうにそう言う。
 元舅は新しいものが好きで、パソコンの動画編集も独学だそうだが、古いビデオを編集してくれたDVDはBGMやテロップも凝っていて、楽しい出来になっていた。その影響でいぶきも動画の編集をしてDVDにしてくれている。それが残るかどうかは別として、だ。

 いぶきが四歳までの歴史だが、元義父母は本当に可愛がってくれたと思う。
 今忍が見ているのは、離婚直前の春の運動会だ。いぶきがくりくりした目の友達と手をつないで歩いている。

「ねえ、いぶきさん?」

「なんでしょう、お母様」

 芝居がかった忍の言葉に、同じく芝居がかった言葉で返された忍は、動画を一時停止していぶきの友達を指さした。ショートカットというには長めの髪の、可愛い女の子――に見えるが、

「ねえこれ、瑛太君じゃない?」

「・・・・・・」

 冷蔵庫からアイスティーを取り出そうとしていたいぶきの手が止まる。

「ぱっと見女の子にしか見えないくらい可愛いけど、亀井瑛太くんよね?」

 子ども同士だと大きく変わって見えるかもしれないが、大人の目からすればわかることだ。結婚してた頃、幼稚園は行事しか見に行けなかった忍だが、たしかいつも仲良しの子がいたことを思い出す。

「なんで、気付くかなぁ」

 半泣きのような笑顔で、いぶきは認めた。