パチン。まとめたテキストをホッチキスで留めていく。
日直だった俺は、担任から頼まれた資料をクラスの人数分まとめていた。
昼休み、物品室の窓の外からは、運動場で遊ぶ生徒の賑やかな声がよく響く。
「担任、絶対七海だから声をかけたんだよ」
「ん?」
長机で向かい合わせに座っている海里が呟いた。俺と一緒にいたばかりに担任が「皇も手伝ってやれ」と言ったのだ。
「巻き込んで悪いな」
「七海が謝ることないでしょ。なんでも引き受けちゃうんだから」
そう言って、海里はむくれた顔で唇を尖らせる。
幼馴染の彼は、俺が人に使われるのが不服そうだ。自分は割となんでも甘えてくるくせに。
「一年のときの文化祭で、七海のお人よしが皆にバレちゃったから。……俺の七海なのに」
「一年か。……大木たちとクラスが離れて、やっぱり淋しいな」
二年に進級して、あの賑やかトリオとクラスが離れた。あのトリオがいないとどうにもクラスが静かな気がする。五月に入った今でも、一年のころを思い出すと名残惜しい。
「クラスって、メンバーで雰囲気が変わるよな」
「だね。でも俺は七海が一緒で満足してる。中学の三年間は別々のクラスだったから、不貞腐れてた」
「そっか?」
「行事ごともばらばらだし。遠足や修学旅行も七海と一緒に回れなかったし……」
言いながら中学のころを思い出したようで、海里は眉間にシワを作った。
あぁ、それ。当時の海里も嘆いていたっけ。
風呂がどうのこうの、布団がどうのこうのって涙目になっている海里が面白くてけらけらと笑っていた。
「バスで七海の隣に座った奴、マジで呪った」
「確かに、ひとり食あたりになった奴がいたな……え、呪ってたの?」
「呪ってた」
「やめなさい。ごめんなさいしなさい」
窘めると、海里は窓の方を向いて小さく「七海の隣に座った奴、全員呪ってごめんなさい」と呟いた。……全員呪っていたのか。爽やかな顔して何考えているんだよ。
「でもまぁ……クラスが離れていてもさ。俺と海里は塾も一緒で、しょっちゅう互いの家に行き来していたし。俺は、特別離れているって感じしなかったけどな。なんかずっと一緒にいるから、兄弟みたい……」
そのとき、ふっと、影が俺を覆った。
ちゅ。
唇に柔らかな触感。
視界いっぱい、海里になった。
「兄弟じゃない。七海の恋人しかいらない」
顔を少し離した海里が切なげに俺を見つめるので、ぎゃ、と悲鳴をあげそうになる。
「──おっ、お前っ⁉ ここ、学校だぞ⁉」
「恋人」
そう言って、また顔を寄せてくる。またキス⁉
「わ、分かった! 分かってるってば!」
「分かってないよ」
「分かっ──」
ちゃんと分かっているのに唇を塞がれて、言えなかった。
終わり。
日直だった俺は、担任から頼まれた資料をクラスの人数分まとめていた。
昼休み、物品室の窓の外からは、運動場で遊ぶ生徒の賑やかな声がよく響く。
「担任、絶対七海だから声をかけたんだよ」
「ん?」
長机で向かい合わせに座っている海里が呟いた。俺と一緒にいたばかりに担任が「皇も手伝ってやれ」と言ったのだ。
「巻き込んで悪いな」
「七海が謝ることないでしょ。なんでも引き受けちゃうんだから」
そう言って、海里はむくれた顔で唇を尖らせる。
幼馴染の彼は、俺が人に使われるのが不服そうだ。自分は割となんでも甘えてくるくせに。
「一年のときの文化祭で、七海のお人よしが皆にバレちゃったから。……俺の七海なのに」
「一年か。……大木たちとクラスが離れて、やっぱり淋しいな」
二年に進級して、あの賑やかトリオとクラスが離れた。あのトリオがいないとどうにもクラスが静かな気がする。五月に入った今でも、一年のころを思い出すと名残惜しい。
「クラスって、メンバーで雰囲気が変わるよな」
「だね。でも俺は七海が一緒で満足してる。中学の三年間は別々のクラスだったから、不貞腐れてた」
「そっか?」
「行事ごともばらばらだし。遠足や修学旅行も七海と一緒に回れなかったし……」
言いながら中学のころを思い出したようで、海里は眉間にシワを作った。
あぁ、それ。当時の海里も嘆いていたっけ。
風呂がどうのこうの、布団がどうのこうのって涙目になっている海里が面白くてけらけらと笑っていた。
「バスで七海の隣に座った奴、マジで呪った」
「確かに、ひとり食あたりになった奴がいたな……え、呪ってたの?」
「呪ってた」
「やめなさい。ごめんなさいしなさい」
窘めると、海里は窓の方を向いて小さく「七海の隣に座った奴、全員呪ってごめんなさい」と呟いた。……全員呪っていたのか。爽やかな顔して何考えているんだよ。
「でもまぁ……クラスが離れていてもさ。俺と海里は塾も一緒で、しょっちゅう互いの家に行き来していたし。俺は、特別離れているって感じしなかったけどな。なんかずっと一緒にいるから、兄弟みたい……」
そのとき、ふっと、影が俺を覆った。
ちゅ。
唇に柔らかな触感。
視界いっぱい、海里になった。
「兄弟じゃない。七海の恋人しかいらない」
顔を少し離した海里が切なげに俺を見つめるので、ぎゃ、と悲鳴をあげそうになる。
「──おっ、お前っ⁉ ここ、学校だぞ⁉」
「恋人」
そう言って、また顔を寄せてくる。またキス⁉
「わ、分かった! 分かってるってば!」
「分かってないよ」
「分かっ──」
ちゃんと分かっているのに唇を塞がれて、言えなかった。
終わり。
