見慣れない天井が見える。
 ぼくはまぶしくて目を細める。
「あ、蒼!目を覚ましたか!」
「蒼くん!」
「ん……」
 照明だろうか。まぶしすぎて目が明るさに慣れない。誰かがぼくの顔を覗きこんでいる。
 だんだん目が慣れてきて、ふたりの顔を視認できるようになってきた。
 ふたりの顔は照明がうしろにあることによって逆光になっているため、なおも暗くてよくわからない。
「蒼!無事なんだな」
「蒼くん。よかった」
 ようやく目が慣れてきて、ふたりの顔を認識できるようになってきた。
 ひとりは、父さん。
「父さん」
「おお。父さんのことがわかるか」
「わかるよ」
「蒼くん。姉さんよ」
 いま姉さんといったもうひとりは。
 どこかで見たことがあるけど。
 あれ。なんだか、ずいぶん老けたような気がする。
 あなたは。
 どう見ても、母さん。
 母さんだ。
「か……母さん?」
「えっ」
 そのひとは口元に両手をあてて驚いていた。
「あ、蒼くん、いま、母さんって言ったの」
「あ、ああ、母さんだろう」
「ちょっと、あなた、蒼くんが、あたしのことを母さんって言ったわよ。あなたも聞いたでしょ」
「あ……ああ。蒼。母さんのことがわかるのか」
 なぜだかわからないけど、ふたりはひどく驚いているようだ。
「あ、うん。なんか、ずいぶん、老けたような気がするけど」
「ちょっと……なんてこと言うのよ」
 そう言うと母さんは涙を流し始めた。ハンカチを出して、涙をぬぐっている。
 そして母さんはぼくの両手を手繰り寄せて、握った。
「もしかして、治ったのか」
 父さんはそんなことを言う。
 何が治ったというのか。
「蒼くん。本当にあたしがあなたのお母さんだって、わかるの」
 ぼくはきょとんとする。
「なに言ってるんだ。母さんは母さんじゃないか」
「あなた!」
 母さんは目から大粒の涙を流している。
 父さんもだけど、変なひとたちだな。ぼくが父さんと母さんのことを認識しただけで、この騒ぎようだ。いったい何が起こってるんだ。
「あなた。茜のことも、実の妹ってわかるかもしれないわよ」
「いや、まだはっきりわかったわけじゃない。君と茜が同じ場所にいたら、また蒼の頭が混乱してしまうかもしれない」
 父さんと母さんの会話の内容はまるで知らない異国の言葉のように聞こえる。
 だいたい、なんでぼくはこんなところにいるのだ。ここはどこなんだ。
 ぼくは思ったことをそのまま口にする。
「ねえ、父さん、母さん。ぼくはいま、いったいどこにいるの」
 母さんは鼻声で答えてくれる。
「あなたは、病院の中で突然倒れたのよ。つむぎさんのお見舞いに来ていてね」
 お見舞い。
「ここは、病院なの。ぼく、お見舞いなんかしたの。誰のお見舞いに」
「あなたはつむぎさんのお見舞いに来ていたのよ。それで、つむぎさんの病室で混乱して、倒れてしまったの」
 つむぎ……。
「ねえ、母さん」
「なに、蒼くん」
「つむぎって、だれ……」