(もう、おしまい。)
グネビアの意識はとても深い所に落ちていき、現実に戻るのを拒否していた。
絶望に負けそうになった。
(ここまでがんばって、ローブを編み上げたの。、ランスロが死んでしまうなんて、もう何も考えられない。考えたくない。)
ところが、気絶寸前のグネビアを何回も呼ぶ声がした。
「グネビア様、グネビア様、グネビア様‥‥」
意識の中に、背が高い、たいそう高齢な御老人の姿が映し出された。
「大魔法使いクレスト様。」
映し出された映像が、グネビアに話しかけた。
「気がついていただけましたかグネビア様、まだ終わりではありませんよ。今こそ奇跡を起こすため、精一杯のがんばりを見せる時です。」
続けて、母親のエリザベスの声が聞こえた。
「グネビア起きて、そんな所で寝たら風邪をひくわ。」
グネビアを起こすいつもの母親の声だった。そして母親はグネビアの体を何回も揺さぶっていた。
(私はランスロが死んだことを公爵様から聞いて、気を失ってしまったはず。寝てるなんておかしいわ。それに母様の声の調子も、いつもの日常どおりでおかしいわ。)
グネビアは目を開けた。そこは公爵の城の城壁の中ではなく、いつもの自分の部屋だった。母親が微笑みながらグネビアを見ていて、暗い部屋の中にある機織り機の傍らにはローブが月の光のように輝いていた。
母親が言った。
「ローブを一生懸命に織り続けて、ほんとうに疲れてしまったのね。ロッテさんは、しばらく寝ているあなたを見続けていたけれど、そのうち『宮殿の武器庫に戻る時間がきました。』と言って消えてしまったわ。」
グネビアが部屋の中を見渡すと、机の上に見覚えのある砂時計が置いてあった。砂時計の下には手紙が挟まれていた。
「王女様、あなたが骨董屋で買われた砂時計を、魔王ゲールの城のゴミ捨て場から持ってきました。実は何かの誤作動で、あなたが時間を遡られたのは10年に1日足りない時間でした。
私は砂時計に残された最後の魔法を使い、今1日時間を戻しました。私が王女さまに差し上げられる最後の贈り物です。王女様が既に巻き戻されているこの1日を生かされ、幸せになられることを祈っております。 クレスト」
(大魔法使いクレスト様、ほんとうにありがとうございます。私は必ずやりとげます。)
グネビアが母親に聞いた。
「母様、ランスロ様が王都イスタンに着く前にローブをお届けしたいの。どうしたらいいかしら。」
「グネビア。ランスロ様のために編み上げたローブなのね。そうじゃないかと私も思っていたわ。理由はわからないけれど、ランスロ様が王都イスタンに着く前に会わなくてはいけないのね。少し待っていて。」
そう言うと母親のエリザベスは深夜なのに外へ出て行った。しばらくすると、家の前で馬の鳴き声が聞こえた。グネビアが外に出ると、既に乗馬していた母親が言った。
「早くローブを持ってきて、馬を借りてきたから。」
グネビアは急いでローブを持ってきて、母親の後ろに乗った。グネビアが乗ると同時に、母親が馬を走らせ始めた。
「母様が馬に乗れるなんて。」
「意外でしょう。昔、ある方に教えていただき毎日乗っていたのよ。」
「そう。母様、お願いです。私は絶対に間に合わせたいの。」
「愛する娘の一大事ですから、必ず間に合わせるわ。」
ランスロは山岳地の戦いからの王都への帰還を急ぎながら国軍を進ませていた。狭い道から王都への主要街道に出た時に、深夜にもかかわらず歩道にうずくまっている老婆がいた。先頭を進んでいるランスロが近づくと、老婆は苦しそうな大きな声を上げた。
「いたい。急に心臓がしめつけられるような痛みだわ。誰か助けてくれないか、心が高潔で弱い者を必ず助ける騎士は通らないかね。」
それを聞いて、ランスロ居ても立っても居られなくなり下馬した。
「おばあさん。大丈夫ですか。今、衛生兵を呼びますから。」
老婆はランスロを見て言った。
「私の昔の恋人には劣るけれどいい男だね。心根も優しそうだね。」
そして心の中で思った。
(あの美しい娘とは、ほんとうにお似合いだわ。)
その後衛生兵が来たが、老婆は何を聞かれても意味不明なことを応え、どこが悪いのか特定できなかった。
副官がランスロの言った。
「騎士様、どうしましょうか。このままだと王都イスタンへの帰還が大幅に遅れてしまいます。2~3人を残して先を急ぎましょうか。」
ランスロは言った。
「たとえ一人といえども、臣民を守るのが国軍そして騎士である私のつとめです。このような人気ひとけのない所に御老人と2~3人では、魔物が出た時に命を守りきることができません。もう少し留まりましょう。」
しばらくして、苦しがっていた老婆が急にすくっと立ち上がり、笑いながら言った。
「やっと来たかね。」
老婆が見た方向をみんなも見ると、馬に2人乗りした女性が急いでこちらに駈けて来るのが見えた。それを見た時にランスロは言った。
「あ、あれは!!!」
近づいてきたのは、グネビアと馬を走らせていた母親のエリザベスだった。
母親が言った。
「グネビア。さあ、行ってらっしゃい。」
「はい、母様。」
グネビアは急いで下馬し、ランスロに向かって全力で走った。同じようにランスロも全力で走って、途中で2人は顔を合わせた。
「レディ。ローブを編み上げたのですね。」
「はい。これです。」
グネビアがランスロに差し出したローブは、月のように光り輝いていた。
「このローブを今いただくということは、これから私に大変な戦いが待っているということですね。」
既に1回体験したことを言おうかどうか迷っていると、知らないうちに老婆が近くに来ていてランスロに向かって激励した。
「これから何が起きるのかはどうでもいい。愛する人のために、この娘が大変苦労して織り上げたローブだよ。たった今からおまえさんの命を守りたい純粋な気持ちがあるのさ。すぐに着てあげな。」
それを聞いてランスロは恐縮して言った。
「そうですね、聞かなくても良いことを聞いてしまいました。レディ、失礼します。今からこのローブを甲冑の下に着込みます。」
ランスロが去っていった後、グネビアが老婆に言った。
「あなたはアラクネ様ですね。もしかしたら、ここで時間稼ぎをしていただいたのですね。絶対に間に合わないと思いました。」
魔女はグネビアにアドバイスした。
「あの騎士にローブを渡すことができたけれど、まだまだ、これからやらなければならないことがあるよ。最後までがんばりな。」
グネビアの意識はとても深い所に落ちていき、現実に戻るのを拒否していた。
絶望に負けそうになった。
(ここまでがんばって、ローブを編み上げたの。、ランスロが死んでしまうなんて、もう何も考えられない。考えたくない。)
ところが、気絶寸前のグネビアを何回も呼ぶ声がした。
「グネビア様、グネビア様、グネビア様‥‥」
意識の中に、背が高い、たいそう高齢な御老人の姿が映し出された。
「大魔法使いクレスト様。」
映し出された映像が、グネビアに話しかけた。
「気がついていただけましたかグネビア様、まだ終わりではありませんよ。今こそ奇跡を起こすため、精一杯のがんばりを見せる時です。」
続けて、母親のエリザベスの声が聞こえた。
「グネビア起きて、そんな所で寝たら風邪をひくわ。」
グネビアを起こすいつもの母親の声だった。そして母親はグネビアの体を何回も揺さぶっていた。
(私はランスロが死んだことを公爵様から聞いて、気を失ってしまったはず。寝てるなんておかしいわ。それに母様の声の調子も、いつもの日常どおりでおかしいわ。)
グネビアは目を開けた。そこは公爵の城の城壁の中ではなく、いつもの自分の部屋だった。母親が微笑みながらグネビアを見ていて、暗い部屋の中にある機織り機の傍らにはローブが月の光のように輝いていた。
母親が言った。
「ローブを一生懸命に織り続けて、ほんとうに疲れてしまったのね。ロッテさんは、しばらく寝ているあなたを見続けていたけれど、そのうち『宮殿の武器庫に戻る時間がきました。』と言って消えてしまったわ。」
グネビアが部屋の中を見渡すと、机の上に見覚えのある砂時計が置いてあった。砂時計の下には手紙が挟まれていた。
「王女様、あなたが骨董屋で買われた砂時計を、魔王ゲールの城のゴミ捨て場から持ってきました。実は何かの誤作動で、あなたが時間を遡られたのは10年に1日足りない時間でした。
私は砂時計に残された最後の魔法を使い、今1日時間を戻しました。私が王女さまに差し上げられる最後の贈り物です。王女様が既に巻き戻されているこの1日を生かされ、幸せになられることを祈っております。 クレスト」
(大魔法使いクレスト様、ほんとうにありがとうございます。私は必ずやりとげます。)
グネビアが母親に聞いた。
「母様、ランスロ様が王都イスタンに着く前にローブをお届けしたいの。どうしたらいいかしら。」
「グネビア。ランスロ様のために編み上げたローブなのね。そうじゃないかと私も思っていたわ。理由はわからないけれど、ランスロ様が王都イスタンに着く前に会わなくてはいけないのね。少し待っていて。」
そう言うと母親のエリザベスは深夜なのに外へ出て行った。しばらくすると、家の前で馬の鳴き声が聞こえた。グネビアが外に出ると、既に乗馬していた母親が言った。
「早くローブを持ってきて、馬を借りてきたから。」
グネビアは急いでローブを持ってきて、母親の後ろに乗った。グネビアが乗ると同時に、母親が馬を走らせ始めた。
「母様が馬に乗れるなんて。」
「意外でしょう。昔、ある方に教えていただき毎日乗っていたのよ。」
「そう。母様、お願いです。私は絶対に間に合わせたいの。」
「愛する娘の一大事ですから、必ず間に合わせるわ。」
ランスロは山岳地の戦いからの王都への帰還を急ぎながら国軍を進ませていた。狭い道から王都への主要街道に出た時に、深夜にもかかわらず歩道にうずくまっている老婆がいた。先頭を進んでいるランスロが近づくと、老婆は苦しそうな大きな声を上げた。
「いたい。急に心臓がしめつけられるような痛みだわ。誰か助けてくれないか、心が高潔で弱い者を必ず助ける騎士は通らないかね。」
それを聞いて、ランスロ居ても立っても居られなくなり下馬した。
「おばあさん。大丈夫ですか。今、衛生兵を呼びますから。」
老婆はランスロを見て言った。
「私の昔の恋人には劣るけれどいい男だね。心根も優しそうだね。」
そして心の中で思った。
(あの美しい娘とは、ほんとうにお似合いだわ。)
その後衛生兵が来たが、老婆は何を聞かれても意味不明なことを応え、どこが悪いのか特定できなかった。
副官がランスロの言った。
「騎士様、どうしましょうか。このままだと王都イスタンへの帰還が大幅に遅れてしまいます。2~3人を残して先を急ぎましょうか。」
ランスロは言った。
「たとえ一人といえども、臣民を守るのが国軍そして騎士である私のつとめです。このような人気ひとけのない所に御老人と2~3人では、魔物が出た時に命を守りきることができません。もう少し留まりましょう。」
しばらくして、苦しがっていた老婆が急にすくっと立ち上がり、笑いながら言った。
「やっと来たかね。」
老婆が見た方向をみんなも見ると、馬に2人乗りした女性が急いでこちらに駈けて来るのが見えた。それを見た時にランスロは言った。
「あ、あれは!!!」
近づいてきたのは、グネビアと馬を走らせていた母親のエリザベスだった。
母親が言った。
「グネビア。さあ、行ってらっしゃい。」
「はい、母様。」
グネビアは急いで下馬し、ランスロに向かって全力で走った。同じようにランスロも全力で走って、途中で2人は顔を合わせた。
「レディ。ローブを編み上げたのですね。」
「はい。これです。」
グネビアがランスロに差し出したローブは、月のように光り輝いていた。
「このローブを今いただくということは、これから私に大変な戦いが待っているということですね。」
既に1回体験したことを言おうかどうか迷っていると、知らないうちに老婆が近くに来ていてランスロに向かって激励した。
「これから何が起きるのかはどうでもいい。愛する人のために、この娘が大変苦労して織り上げたローブだよ。たった今からおまえさんの命を守りたい純粋な気持ちがあるのさ。すぐに着てあげな。」
それを聞いてランスロは恐縮して言った。
「そうですね、聞かなくても良いことを聞いてしまいました。レディ、失礼します。今からこのローブを甲冑の下に着込みます。」
ランスロが去っていった後、グネビアが老婆に言った。
「あなたはアラクネ様ですね。もしかしたら、ここで時間稼ぎをしていただいたのですね。絶対に間に合わないと思いました。」
魔女はグネビアにアドバイスした。
「あの騎士にローブを渡すことができたけれど、まだまだ、これからやらなければならないことがあるよ。最後までがんばりな。」
