王女ではなくなりますが‥‥

 ランスロは大変驚いた。

「レディ、完全に致命傷となる一撃が入りました。」

 グネビアも同様にかなり驚いていた。

「無意識に体が動きました。考えなくても、何をすべきか感じました。」

 精霊が言った。

「騎士ランスロ、おわかりになられましたか。私がしもべになったことで、グネビア様は既に剣技の奥義を極められている。」

「精霊様、十分にわかりました。レディが永遠の荒れ地に行かれて、魔物と遭遇しても御自身を守ることができますね。木剣ではなく、精霊様が宿られる剣を使うことができますからなおさら安心です。」

 精霊が少し強い口調で言った。

「騎士ランスロ。私にはわかるが、さきほどグネビア様と対峙した時、あなたは世界最強の騎士としての実力を、十分の一くらいしか出せなかったでしょう。十分の一でも並の騎士の何倍も強いが、どうしてですか。」

「いえ、女性相手でしたから。」

「グネビア様の一撃をかわす防御のことです。実力を100%出して、最初の一撃くらい余裕でかわせるのではないですか。本来の実力の十分の一しか出せなかったのは、グネビア様に対して特別な感情があるのですか??」

 ランスロは顔をひどく赤らめて、精霊の目とおぼしき場所を見つめていった。

「精霊様、私は全力を尽くしたつもりでした。確かにレディに対してはどういう感情か説明できませんが、特別な感情があるかもしれません。」

 グネビアがあわてて会話をさえぎった。

「ロッテ。それ以上、やめてあげてください。」

「グネビア様、ここでそうおっしゃるとわ。‥‥わかりました。」

 精霊は思った。

(そうですか、時間が戻っても2人は愛し合ってしるのですか。グネビア様、ほんとうによかったですね。新しいこの時間で騎士ランスロが命を落とさないように、私は全力を尽くします。)



 準備に数日かけて、グネビアは永遠の荒れ地に向かうことにした。ランスロには、ローブを編み上げることを秘密にしていたので、出発の日を告げていなかった。

 家の中でグネビアが母親のエリザベスに言った。昨晩のうちに、母親にすべてのことを説明していた。

「母様、今からアラクネの糸でローブを編む、機織り機を取りに行ってきます。」

 グネビアは精霊剣ロッテを腰にさしていた。精霊も言った。

「お母様、グネビア様は既にかなりの剣技の使い手ですので、どんな魔物が現われても心配ありません。私もグネビア様を全力で守ります。」

 母親が言った。

「グネビア、十分に気をつけてね。無事に機織り機を取って来れるよう毎日祈っています。精霊様、よろしくお願いします。」

「言ってきます。」

 グネビアは魔女から渡された黒い地味な服を着た。すると、グネビアの姿は母親のエリザベスの前から消えた。



 一瞬、意識が飛んだ後、グネビアは霧に覆われ先があまり見えない場所に立っていた。霧は普通の霧ではなく、不気味な緑かかった青色をしていた。

「ロッテ、助けてね。」

 グネビアはおもわず精霊に声をかけた。

「グネビア様、御安心ください。この永遠の荒れ地はずっと平坦で何もありません。ただ、今グネビア様が向いていられる方向に、ここから1マイル先のあたり、何かが建てられていることを感じます。」

「行って見ましょう。」

 それから、グネビアは警戒しながら歩き始めた。半マイルほど行った時のことだった。精霊が声を上げた。

「グネビア様、大至急警戒してください。この先の建物の回りで地面の下から何かが現われました。私を抜いて構えてください。」

「ロッテ、わかったわ。」

 グネビアは精霊剣ロッテを抜いて構えた。すぐに、いろいろな猛獣の鳴き声が聞こえてきた。怒ったようなその声はだんだん大きくなり、やがてそれらはグネビアの前に姿を現わした。精霊が行った。

「幻獣が5頭います。恐ろしい姿をしていますが、私を振るグネビア様は最強です。問題ありません。勇気を出してやっつけてしまいましょう。」

 幻獣達は、ライオン、トラ、熊、ヘビ、馬などさまざまな体を組み合わせ、体も普通の動物の何倍にもなっていた。

 グネビアは勇気を出し、すばやく動き出して精霊剣を振るった。驚くべき早さで、一匹ごと的確なウィークポイントに剣戟が入り、幻獣達は消滅していった。最後の一匹が消滅した時、突然声がした。

「負けました。とても強い剣士よ、私達は降参します。許してください。」

 精霊が応えた。

「誰だ。姿を現わせ。我が主人のグネビア様に、いきない幻獣をけしかけてから降参とは虫の良い話だな。」

それを聞き、どこからともなくゴブリン(小鬼)の小さな群れが、グネビアの前に姿を見せた。

 精霊が強い口調で言った。

「ひざまづくのだ。グネビア王女様の御前である。王女様は剣の達人でいらっしゃるが、さらに、あの世界最強の騎士ランスロ様がお仕えし、守られている方ぞ。」

 ゴブリン達は驚いて、グネビアの前にみんなひざまづいた。

 グネビアが小さな声で精霊と話した。

「ロッテ、言い過ぎじゃない。」

「いえいえ、ゴブリンを完全に屈服させるには、このぐらい言わなければだめです。グネビア様、ゴブリン達に機織り機を捜すことを御命じください。」

 グネビアは凜とした、とても強い口調で言った。

「王女の私に幻獣をけしかけた罪は万死に値する。しかし、情け深い私は慈悲の心を示すこともできる。この荒れ地に、地の果ての崖に住む魔女様が前に使っていた機織り機があるはずだ。それを持ってきたら全て許そう。」

 それを聞いて、ゴブリンの長老とおぼしきものが前に出て言った。

「機織り機ならあります。アラクネ様という女性がお使いになっていたものですが。」

「アラクネって蜘蛛の名前なのか、人間の女性の名前なのか…。いいわ、その機織り機を持ってきなさい。」

 長老が言った。

「この先の無人の家の中に置いてあることは知っています。窓から見えますが結界がかかっていて、私達では中に入ることができません。私が家まで御案内しますが。」

「わかりました。案内しなさい。」

 ゴブリンの長老に案内されて、グネビアは機織り機が置いてあるという家に向かった。